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2.試行錯誤

 オート魔術商会スゴマジ芸能プロダクション 技術部長兼プロデューサー 準一級魔術師 カズト・スゴマジ・タナカ


 それがタナカさんの『めいし』に書かれていた、彼の肩書きだ。

 芸能プロダクションとは、『声優』や役者、歌手などを雇い、彼らを使って創作物を世に送り出す商会や事務所のこと。

 プロデューサーとは、その制作物を世に送り出す総括の者として、責任を抱える役職のこと、らしい。


 新米『声優』である私の業務内容は、プロデューサーが持ってきた仕事を指示に従ってこなし、声の創作物を作り出すことだ。

 その制作物は劇のように形に残らない拡声魔法によってなされるものであったり、本のように形に残る録音魔法によってなされるものであったりする、らしい。

 ただ、ここで問題なのは『声優』というものも、拡声魔法・録音魔法というものも、まだ世に出ていない代物。新しい仕事は、手探りでやっていくしかなく、プロデューサーのタナカさんが「はいこれ」と簡単に仕事を持ってきてくれる状況ではないようだ。


 だから私はタナカさんに拡声魔法と録音魔法についてどういうことができるかを詳しく聞き、一緒に何をしていくべきかを考えることにした。なお、とりあえずの仕事場となる事務所は、録音時の声が漏れても近所迷惑にならないよう、町外れにある小さな家をタナカさんが借り受けている。


 さて、まずはどんな仕事をすべきか。拡声魔法については、声を遠くまで届かせるという必要性のある場を整える必要がある。この場というのは、つまり人がひしめいて多く集まっている状況であると言うことができる。それを満たすのは、何らかの行事だ。タナカさんの言葉で言うと『イベント』。

 スミッコ港町のニギヤカ市場は、まさにその人がひしめいて多く集まっている状況が日常だ。しかし、一つの店の宣伝を市場全体に流すのは、不公平過ぎてダメとのことだ。ちえっ、『肉屋のココロン』の名を市場全体にとどろかせるチャンスだったのに。


「でも人が集まっているという状況は、実際、営業のチャンスだぞココロさん」


 なるほど、ということで私達二人は頭をひねって、『声』の利用方法をひねり出した。

 そして、思いついた。


「競りの開始時間を拡声魔法で響かせることで、市場全体に知らせるのはどうでしょう。最近は時計が普及してきましたよね」


「ああ、時計ねー。あれも僕が『時刻魔法』を作ったんだよ」


「ええっ、そうなんですか!? 私も持ってますよスイスッポーの腕時計!」


 驚愕の事実、タナカさんの実績がヤバい! 思ったよりも、準一級魔術師というのはすごい存在なのかもしれません。


「ともかく、そういう方向での『拡声魔法』による市場アナウンスは良いかもね。ただし、毎日だったり毎週だったり、ココロちゃんがいちいちアナウンスで仕事を拘束されるのは、ダメだ」


「はい、『録音魔法』を使うんですね」


「そうそう、定型文を録音しておくんだ。定形外の音声が必要になったときは、まあその場その場で市場の職員さんが、勝手に声を追加して流してもらうってことで」


 そういうわけで、市場を統括している港事務所に、営業をかけにいくことになった。

 プロデューサー業って、営業職も兼ねているのかしら。


「ココロちゃんの声で毎日お知らせができるってか!? そりゃあいいや!」


 と、何やら好感触。タナカさんの提示した料金が、思ったよりも高くなかったこともあるだろうか。

 私の声につく値段はともかく、最新の拡声・録音の魔法道具を売るというのに、こんなに安値で良いのだろうか。


「僕の魔法道具設計のモットーは安くコンパクトに、さ。安さは普及のカギだよ」


 なんだか私って思ったよりも、すごい人とお仕事しているのかもしれないのでした。







「午前五時より、第一競り場にて本日の競りを開催します。業者番号をお持ちの方は、ふるってご参加下さい」


「はいカット。どうですおやっさん」


 録音道具(『マイク』というらしい)に声を吹き込む。タナカさんはなにやらスイッチの入った道具の前でその声を聞き届け、終了の合図を送ると共に、市場責任者のオヤジさんにできあがりを訊ねた。


「うーん、いいんじゃねえの? 実際『拡声魔法』? っていうので声が響いてるのを聞いてみないことには、何とも言えんけど。まあ、ココロちゃんの声なら大丈夫でぇ」


「そうですか、では、別の時刻と場所の音声も、録っていきましょう。仕様書に書いたとおり、再生キューブをパズルみたいに組み合わせることで、好きな時刻好きな場所でのアナウンスが出来るようになりますよ」


「おう。しかし、競り場の名前が変わったり、新しく出来たりしたときは、どうすれば良いんだぁ?」


「そのときは、また私達に新規の音声追加をご依頼していただければ。再生道具の購入がない分、お安くなりますよ」


「おう、そうかいそうかい」


 タナカさんが納入する魔法道具は、声を録音した再生キューブと、その再生機の二つだ。

 再生機一つで市場全体に声を届けることができる。そんな大声を響かせたら、再生機の近くにいる人は耳が痛くなりそうだ、と思うかもしれないが、『拡声魔法』というものは大声や大音量を出す魔法ではないので、問題ない。一定の音量を指定した範囲に満遍なく届ける魔法で、人が大声を出すのとは根本的に仕組みが違うらしかった。


「では、ココロさん。次お願いね」


「はい」


 時刻と競り場、全てを網羅するよう録音する。そしてそれを再生キューブという、活版印刷の活字のような物で組み合わせ、自由な構成で文章を作り上げるようにするらしい。

 すごいなあ、魔法文明技術って。イナカッペ王国の未来は明るい。場末の肉屋の娘が、なに言ってんだって話だけど。


「3、2、1……」


 カウントダウンの合図と共に、タナカさんがこちらに向けて指を振る。録音開始の合図だ


「午前六時より、第二競り場にて本日の競りを開催します」


「はいカット」


 初仕事はどうやら順調らしかった。







 次の仕事は、イナカッペ王国全体で売るための物語を録音する仕事だ。

 昔ながらの童話や昔話を良い感じにまとめて、それを朗読してマジックレコードというキューブ状の再生機器でいつでも聞けるようにするらしい。これは、タナカさんの所属するオート魔術商会の新たな商品となるとのこと。

 まずはここ、ニギヤカ市場のお土産屋さんで、外国船の船員向けに物語の販売をすることとなった。

 この案で行こう、とタナカさんが思いついた次の日には、商会からゴーサインが出て、さらにはお土産屋さんにも話がついていた。やっぱりプロデューサーとは、営業職のことであったか……。


「中指姫は王子様と一緒に末永く幸せに暮らしましたとさ……」


「はいカット。いいねいいねー」


 今回収録したのは、『中指姫』というおてんばな姫様が、世直しの旅に出るため城を抜け出し、旅の途中で王子様と出会い終生のライバルとなる童話だ。私がお母さんから子供の頃に聞いた内容を書いてまとめ、周囲の子供達にこの話との差異を詰めるという、地道な行為によって編纂された物語である。

『声優』って大変だなぁ。声を『録音』したり歌を歌ったりすることだけが、仕事じゃないんだね。でもわざわざ童話を新規にまとめるなんて、絵本そのまま流用じゃダメだったのかな。最近は印刷技術とかが向上して、オート王都じゃ本に溢れているって言うし。

 あ、本から流用できるなら、別に童話じゃなくたっていいじゃない。王都の流行りの小説を使えば良いんだ。


「『録音魔法』って一時間とかすごい長くても大丈夫なんですよね?」


「ああうん。マジックレコードキューブは、市販用定格サイズで最長8時間の収録が、音声劣化なしで可能だよ。すごい頑張ったんだ、そこは」


「こんな童話とか昔話じゃなくて、もっと人気の冒険小説や恋愛小説を使えばどうですか?」


「んんー、それは著作権がねぇ」


「ちょさくけん?」


 な、なに? また初めて聞く単語だ……!


「例えばね、今オート王都で人気の小説、『三剣士~農家の僕が最強勇者に転生した件~』があるよね」


「はい、読んだことないですけど、有名ですね」


「この本を出している出版社のオート出版に無断で複製して、勝手に売り出したらどうなる? オート出版はどう出る?」


「……大変なことに!」


 戦争だ! 出版社戦争が始まってしまう!

 ああそうか、出版元の許可無く本の内容を読み上げて『録音』するのも、本を勝手に出版するのと同じ扱いになるのか。

 そりゃあダメだね。


「それにね、マジックレコードキューブも録音魔法自体もまだ広まってないのに、いきなり何時間もの長い作品なんて、初心者に聞かせるにはハードルが高いのさ」


「はあ……」


「初めて本を読む子が絵本から始めるのと同じように、初めて音声作品を聞くときは、短くて解りやすい作品で良いのさ」


 なるほどなあ。


「でも私達が朗読内容を書き上げる必要ってあるんですか? こういうのって、学者さんとか作家さんの仕事ですよね」


「その通りだね!」


「ええっ……」


「ちゃんとオート魔術商会の方で作った、民俗学者と童話作家による童話集製作チームが動いてるよ。今回はとりあえず形になる物を一個でも良いから作ろうって、先に動いただけさ」


 もしかして、『声優』って、読むための文や物語を自分でまとめなくても良い仕事だったりするのかな?

 ……まあいいか。『声優』は生まれたばかりの職業。なんでも手探りでやっていくものさ。タナカさんの中には、はっきりとした『声優』像があるようには見受けられるけど。


「そういうわけで、朗読レコード第一弾は短い童話、『中指姫』で決まりだ」


 『録音』したキューブを指に挟んでふりふりと振りながら、タナカさんは言う。


「ただし」


 タナカさんはキューブを手の中で弄びながら、そう言葉を続けた。


「歌は最新のものでいくけどね」


 どういうことだろうか。

 話を聞いてみると、なんと最新の歌の権利とかいうのを王都から来る前に、獲得してきたというのだ。


 本は出版社が権利を持つということは解る。解った。

 でも、歌って、吟遊詩人が新しく作ったら、他の吟遊詩人が勝手に覚えて勝手に歌うものなんじゃないのかな?


「違うよ、実は吟遊詩人は他の吟遊詩人が歌っている歌を歌う場合、その吟遊詩人に簡単な弟子入りするというか、歌を教えてもらってお金を払うんだ」


「えっ、そういう仕組みなんですか」


「最初に歌を作った人は、自分で教えた人相手にしか受講料で儲けられないけど、誰が作曲したかはちゃんと伝えられる。一応、名誉は守られてるんだ」


 そうなのかー。

 子供時代の私達が作った『お肉様の歌』は、誰も教えを請いには来てくれなかったなあ。


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