88: 西京貴の日記
西京貴は教師である。
今日も彼は手芸部の顧問として彼らの活躍を日誌に示していた。
「西京、お前まだ学校にいたのか」
「校長から直々に復帰のオファーが来たんですよ。神宮寺もSSS機関は本校から撤退すると聞いたが? まだいるのか?」
「俺は野暮用だ。 如月信男にもまだ借りがあるからな」
「大変だな......」
「で、何をしているんだ?」
「日記だよ、あいつらの活動日記......。去年の10月に正式に学校の教師に戻ったからこれまでの分とこれからの分をまとめて提出しろって校長からのお達しでさ」
そう。顧問として、あいつらの活動日記を、書かなくてはあいつらが学んだ事も、学校では学んだ事にはならない。あいつらの成長を記さなければ......。
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文化祭(2020年11月1日)
彼らは部の存続のために一丸となって人形劇を開催。高校生相手に人形劇というのは、気が狂ったのかと少し驚いたが、内容を見るとただの桃太郎だった。展開が分かりきっているものの、現代的......なんというかアニメチックに再構築されていて高校生に大うけしていた。俺にはまったくわからん。だが、人形はよくできていたし、内容も飽きさせないように作られていたので廃部は無しとなった。
新一年生の勧誘(2021年4月10日)
手芸部の本格始動に先立って勧誘が行われた。私は一切関わらず、様子を見守った。彼らは自分たちの活動を示すためのビラを制作、多くの一年生に配布したり、黒板に張り付けて活動の宣伝をしていた。
その効果があってか無事に3人の部員を増やした。普通の部活としては少ないが新進気鋭の部活であることを考慮すれば十分だろう。その後、体育祭の活躍により一人追加で加入。計12人での活動となる。
合宿(2021年7月31日)
2020年から自力でしていた合宿に教師同伴で行われる。それぞれが手芸のセンスと個性の能力を磨くための合宿に全員で切磋琢磨した。彼らなりの作品の出来上がりに私も驚いた。特に連 廉の作品には如月信男にはない魅力が......個性が見受けられるようになった。彼もまたペキュラーとなっているのだろうか......。彼にとってはどうでもいいことではあると思うが。
文化祭(2021年10月31日)
去年より面白いアイデアはないかと生徒たちのみで議論しあった結果、シュシュを輪投げにするというとんでもない発想でやり遂げたらしい。その時私は教師としての手続きがあったので見届けることができなかったが大盛況という噂を聞いて自分のことでもないのに嬉しくなっている自分がいる。このために私は教師になりたかったのかもしれない。
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突如として職員室へ入ってくる少年が大きな声で私を呼んだ。
「西京先生いますか!」
「ああ。って如月か......」
「如月か......。じゃないですよ! 部活、来てくれよ。顧問だろ」
「ああ、すまない。今日はそれを言いに来ただけか?」
「ううん、違う。ちょっと相談があって」
如月信男は私に相談? しかも偉くしおらしくなって聞いてくる。
「恋愛相談......。ではなさそうだな」
「あのさ、教師って楽しい仕事なの?」
え? 教師? お前が? という顔を一瞬してしまったのがばれたのか、彼は小声で「まじめに言ってるんすよ」とバツが悪そうに腕を触っていた。私は隣の席の教師の椅子を勝手に座らせて話を聞いた。
「そうだなぁ、子供の相手とか、部活の日誌とかつけないといけない。それに子供の親のクレーム対応......。いいことはないかもな」
「そうなんだ......。やっぱしんどいのかな」
「しんどいよ。どの職種にしたってしんどい面はあるよ。最後は好きになれる瞬間があるかって話だ」
「好きになれる?」
「ああ、俺は生徒がお前みたいに相談してくれるのが好きだ。社会人になる前に大人と対等に対話できるのが先生くらいだからな。だから、教師も悪くないって思うんだ。お前もそういったことを教えたいんだろ?」
「まだ、わかんない......」
「そうか。なら、悩んでいい。すぐに決めるな! 他の教師は早く夢を決めろ、志望校を決めろってうるさいだろうが、惰性的に勉強していい。そこで好きなものの勉強を深堀りすればいい」
「うーん、結局勉強しなきゃだめなのか?」
「当たり前だろ? 選択肢を増やすためだ! 分かったら思いっきり勉強しろ」
「はーい」
如月信男は無気力な返事をした後職員室を後にした。彼の行動力は尊敬するが、いつも悩んでいるようにも見える。そこを見せてくるのが彼の強い所だ。適当に生きずに自分の心のままに動いている。心のままに生きるのにこんなに狭い世界があるなんてな。でも、狭い世界だからこそ輝いて見える。......足を引っ張られるなよ、如月信男。
次回は新メンバー紹介だ!
次回「如月 葵 降臨!」




