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82:羽生時雄は真似たがる。

今回は少し自分が書きたかった羽生メイン回を手がけました。

信男も好きなのですが羽生も好きです。生み出したみんなが好きで、こまごまとしたエピソードを書きたいなと思っています。

 それは文化祭が終わった直後の出来事だった。


「時雄、なに満足そうな顔してるんだよ」


藤田が久しぶりに俺の元へと駆け寄り睨みつけていた。俺は意味が分からなかった。満足ならそれでいいだろうと思っていた。


「信男くん、遠くに行きますよ。僕たちがボケッとしている間に大人になろうとしてるんですよ」


「あれが大人、ねえ」


「そう思うんなら抵抗したらどうなんだ! 時雄、あいつのどこに引かれてるんだよ」


「あいつは強い。自分のやりたいことをやって願いをかなえて......。俺はそれを追いかけるだけで近くにいたと勘違いしていた」


「腑抜けたあんたの顔が見てられないよ」


「俺はもう大人になったんだ。だれかれ構わず噛みついていたころとは違う」


「自分は生徒会に入ってもなお大人だとか、子供だとか分かんねえよ。あんたは! 信男とただ数回やりあっただけで分かった気になってるだけだろ!」


なんでこんなこと急にお前が言うんだよと思い冷めて目で見つめるも彼は一向に熱い視線で訴えかける。


「おい、東吾。一体おめえは何が言いたいんだよ。俺と如月信男は違うんだ。俺は、あいつにはなれねえ」


「でも、そうやっていじけてても近づくこともできないじゃないか。おまえは“ものまね”というちゃんとした個性があるんだ。個性と向き合わなくてどうする! 如月信男と向き合わなくてどうする! あいつに近づきたくて、あいつのようになりたくて強い意志を手に入れたんだろ!」


「確かにそうだったな、あの頃が懐かしいよ。......悪い、どうしてケリを付けたい用事を思い出した。行くわ」


そういって俺は東吾の肩をポンと叩いて彼を後にした。


「決着、つけたら僕とまたありきたりな話をしよう!」


あいつの言葉が俺の足取りを軽くしてくれた。俺は急いで家庭科室へと向かった。


「如月信男!」


「おう、羽生か。どうしたんだ? 血相変えて」


「友達面すんな! 俺とおまえは友達になった覚えはない! 俺は一度おまえになることを諦めた。だが俺はお前に近づくためにペキュラーになったんだ。近づくことを諦めた俺は俺じゃない!」


「俺と戦うってことか?」


「当たり前だ! そのためにここに来た」


「俺はもう無意味な戦いはやめたんだ。だからおまえも大人に」


「お前はいいよな! お前はそうやって『戦わない』ことを正しいことだって言いきれて羨ましいよ! 俺はそこがわかんねえ。わかんねえからここに来たんだ。仏にでもなったようなお前に一発殴るために来た!」


「戦わないんじゃない。戦えないんだ! もう誰も個性で個性を傷つけてほしくないんだ」


「きれいごと抜かしてんじゃねえ!」


俺はあいつにあえて個性ではなく、普通の拳で如月信男の頬を殴った。如月信男は抵抗せず受け取ったが何も反応してこない。


「反応しないことが大人だと思ってんのか! だから比古はなんども仕掛けてくるんだ! これからも比古のような奴が何度もお前に個性をぶつけてくるぞ! 「個性が強くて何が悪い」と言っていたお前が、今度はそう言われる側に回ることになるぞ!」


すると如月信男は俺の伸びた腕を掴み、顔から引き離す。そしてあいつはようやく抵抗してきた。


「俺だってわからない! 個性があることはいいことだけど、今はそれに付随して個性を武器に相手を傷つけている。だからいらないって言ってるんだ! ......個性がなくなった時、俺は後悔するかもしれない。けど!」


「俺は絶対に個性は手放さない。個性を武器に変えてでも他人と違いがあると言いたい!だから今は!」


「今だけは」


「「個性を使わずにお前を殴って確かめる!!」」


二人のパンチがお互いの顔面に引き寄せられる。顔面に行き届いたところで膠着状態が続く。クリーヒットしていたのか俺たちはふらついて倒れこんでいた。


「いてて。ちょっとは手加減しろよ」


「お前も初め手加減してなかったろ、時雄」


「馴れ馴れしく呼ぶな、気持ち悪い」


「悪かったよ。でも、お前みたいにぶつかってくれる奴がいてくれて嬉しいとも感じる。個性が、異能の力がなくてもやっていける気がする」


「ますます気持ち悪いな。ドラマの教師みたいでイラっとする」


「今なら、俺の個性まねられるんじゃない?」


「いや、俺はお前の個性をまねようとは思わん。ただ、一つだけ言えるのはお前の個性をまねず、お前の生き方をまねようと思った。自分の道は自分で切り開く、それがお前に近づく近道だってわかった」


如月信男は上半身だけ起こして胡坐をかいて座り込んだ。


「なら、いいんじゃないか? やってみろ。そして、俺を越えるすげー奴になってみろよ!」


俺はその言葉に立ち上がって対抗した。


「ああ。お前のその自信過剰な鼻を折るほどのヤツになってやる!」


そういうと如月信男は笑いかけて手を伸ばしてきた。俺は握手なんて照れくさくて躊躇ったが、自分の手を見た後手を伸ばす。それが小さな一歩だったとしても俺にとっての大きな一歩となりそうな握手だった。

いつも誰かが向き合い続けている。

次回「ヒロイン」

どうする!? 信男!

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