77:猶予の一年間
如月信男は如月信男であり続ける、これからも......。
親父が俺の肩を抱いて小声で話し始めた。
「素晴らしい提案をしてやろう。お前たちに損はさせない。俺は今のお前とは戦いたくない。お前は戦いなどせず青春を謳歌したい......そうだろう?」
「その前に天使ちゃんは普通の人間になれないのか?」
「だめだ。あれは俺の最高傑作だ。 あれがあればいつでも個性を生み出せる」
「天使ちゃんは物じゃねえ! それに個性はお前が勝手に作るもんじゃない! 俺たちが見つけるもんだ!」
「与えてやろうという親心が分からないのか!? 個性とは競争の武器だ。人を見下し、蹴散らす道具でしかない! 俺はそれを唯一手に入れた唯一の人間であり、分け与えてやれる善人だ。もう少し冷静になるために一年間の猶予をやる、だから考え直せ信男。最高に普通の人生を歩める絶対なる未来を掴め」
「それなら地獄でその日その日を楽しみたい......。天使ちゃんの件は1年間であんたがきっちり片をつけてくれると信じる。だから俺はそのために待つよ」
そういって俺はその場を後にした。
父親とここまで会話したのは久しぶりだ。個性が俺たちを引き寄せたのなら、感謝したい。親子との会話も増えた。俺は父親がきらいだ、だからこそ許して家に帰ってきて欲しい。だからこそ戦って分かり合うしかない。男はそれくらいに不器用で、頑固になってしまったんだ。
「どうでしたか? 信男さん」
家庭科室に戻った俺を優しく出迎えた礼がそれとなく気遣ってくれた。それに対して俺は笑みをこぼして話した。
「うん、大丈夫。あーあ、シリアス続きだったから癒し成分足りねえ! 礼~膝枕してぇ」
「はぁ......。思い悩んでいると心配した私たちがバカでした。でも、安心します。私の膝ならいつでも貸してあげますよ」
「ちょっと何メインヒロインみたいな感じでいるんだよ! うちも膝枕するし! うちの太ももの方がむっちりしてて心地いいよ♪」
「そんなのより普通にベッドよ。モチロン、あたしと二人きりの保健室で......ね?」
「保健室はエッチすぎですよ、麗美先輩! しいなの作った可愛いクッション付きの膝枕ですよね?」
「いやああ、まいった。まいった。どの子の膝枕もうれピーのよねぇ! 麗美さんはちょっとハードル高すぎるけどな! じゃあお言葉に甘えて後輩に甘えちゃおうかなぁ」
「いえーい。よしよし~♪」
「うわー、ないわー。のぶっちないわーw」
「ちょっと幻滅しました」
「あたしは先輩だから許せたけど同期のイケメンならぶん殴ってたわ。でも、ダーリンだとなぜか許せちゃうのよね」
「それがこいつがアホ面こいて寝てるからだろ」
「連さんの言う通り、寝てますね。お疲れだったんでしょう。可愛いです」
礼は彼の寝顔に笑みをこぼし、おでこをなでたりしたが彼はまるで起きなかった。そうっと腕を伸ばした麗美がスマホで写真を撮ったりしても起きず、スー、スーと寝息を立てている。彼の寝顔はみんなに共有されてみんなが少し温かな気持ちになれる、そんな顔をしていた。
「これからどうなるんでしょうね」
「どんなことがあっても、信男くんとの思い出をいっぱい作りたいなぁ。私卒業近いし」
「そうね。どこかで既成事実を作っておかないと」
「麗美さん、変な本音出てますよ。お父さんの件も一緒に解決できるといいですね」
「解決できるっしょ! うちらならなんとかなるなる!!」
そんな中、天使は少し心が晴れやかではなかった。
「どうしたの? 天使さん」
いつになく廉が話しかける。
「どうしてみんな普通なの? 私、普通の人間じゃないんだよ?」
「私たちだってまともじゃないですよ、だってハーレム王の彼女ですから......。誰だってちょっと変わったところがあってもいいんですよ。それを今更指摘する気はないですよ」
「俺も、天使さんがどんな人だったとしても好きになってる......。あ、言っちまった」
「ひゅーひゅー! れんちーかっこいい!」
「だからギャルは嫌いなんだ」
「え!? 廉さんって天使さんの事好きだったんすか!?」
「だから、モテないのよ。ニジローは」
「なんだとツンデレ女! 俺に一度もデレてくれたことないのに!」
「みんな静かにしよーよぉ。信男君が起きちゃうよぉ」
「そうです。後、廉くんも信男くんへのツンデレは尊いのでもっと頂戴」
「結城さんはかわらんなぁ......」
信男の休む中、いない間も彼の事で盛り上がっていた手芸部は久方ぶりの彼との時間に癒されていた。如月信男の不思議な魅力は彼女たちを優しく包み込む。
次回からは文化祭へと向けて頑張ります。(まだ9月やし)
次回「みんなで準備! 文化祭」




