68:師弟のカンケイ
虹郎の羨望はどこにあるのか?
信男はどう見られているのだろうか?
お昼を食べ終わって休憩していると急に虹郎が俺に向かって土下座し始めた。
「師匠! 俺に稽古をつけてください! 男になる訓練をつけてください!!」
「急になんだよ!! ていうか、土下座しなくてもやるから! ちょっと落ち着け」
「ほんっとうですね!? よろしくお願いします!」
「おう、手加減はしない」
俺はマジックステッキを現出させ、魔法を唱えると虹郎は心激棒でそれを自分に当たらないように流れるように払いのけていく。
「俺はこれでも半年だったとしても師匠の背中は追ったつもりです。こんな小細工は通用しないですぜ」
「なら、もっと激しくしてやろうか?」
「いいですよ。シン・咆哮打!!」
「ラブリー・ロイヤルフローラル・ハリケーン/スラッシュ!!」
信男のラヴ・マシーンの殴打ラッシュが虹郎の追撃を、虹郎のとてつもないドラムロール裁きが信男の応戦を打ち消しあいながら二人は己のビートを刻みあう。
「まだまだぁああああああ!!」
「こんの純粋弟子がぁああああああああ!!」
◇◆◇
純粋にハーレムに憧れていた。女を虜にするあのまぶしさが欲しい。だけどもそれ以上にあの人には言い表せない男も魅了する漢の魅力がそこにある。俺は如月信男という人物と初めて戦って改めて実感した。ないものねだりだと言うことを気づかされてしまう。だけど自分はそれ以上に彼を尊敬し、乗り越えたい命題とも考えていた。俺は圧倒され、改めて彼について行きたいと感じさせるすげー師匠だ。
「うげぇ......」
「まだまだだね。俺に勝つには2億年早い」
「億ぅ? それは無理っすよ......まじぴえんす」
お昼休み後、すぐに暴れ倒したから晩御飯の準備までは芝生で寝っ転がったり、水切りで遊んだりもした。そうしていくうちに日は落ちていき、キャンプ場での最後の夜の帳が下りていく。今日の晩御飯は午後の模擬戦で負けた俺が腕を振るうと言うと師匠は俺に任せると言ってくれた。これは腕を振るわなくてはならない。でも、これまで味の濃いものばかり食べてた気もするから魚を使ったあっさりしたものにしよう。俺は塩こしょう、バターをすこし加えた野菜と鮭のホイル焼きを試した。アルミホイルに火が移ったように見えてひやひやしながらも加減をしながらじっくりきっちり焼いていく。師匠たちは俺の料理の手際を意外そうに見つめてくる。そんなに俺は不器用なイメージなんすかね? これでも店を持つ親の息子ですから...。
「できました!!」
『おぉぉ!!』
みんなが光る鮭の皮に唾を飲み込んでくれていた。一斉にいただきますをして食べ始める。うん、自分でも中々のできだ。おいしく出来上がっているといいが
「うまい! うまい!」
「マジっすか? 先輩」
「にじろーくん意外!!」
「天使パイセンひどいっすよ。これでも親が店構えてますから」
「店ぇ!? どこの」
「スイーツストリートのシャルフォンゾっすけど」
「「えっ!? まじで?」」
西野と師匠が驚いてこちらを向いたので何事かと聞いてみると二人は以前にデートで来たことがあるという。これは参ったな。まあでも隠す気もなかったし、師匠が一年生とも親交を深めようとしていと分かってよかった。俺たちは師匠と共にこのキャンプ最後の夜を過ごし、星々を眺めた後就寝に至った。明日の朝は早い。キャンプの撤収。ごみの回収、掃除すべてをやる。これが結城さんの音男さんとの格安ルールだったからだ。朝を起きると同時に師匠が眠気眼をこすりながらキレイ好きの西野に怒られながら掃除をしている。俺もしいなさんに蹴り起こされたので師弟ともに朝はダメなようだ......。
「虹郎くん、首尾はどうですか?」
凛と透き通った声で礼さんが声を掛けてくれる。この人は基本的に優しいが怒ると押し黙るので超怖い。俺は笑顔で受け答えをした。
「はい! 順調っす。みなさん、働き者っすよね」
「そうね。楽しんだ後は楽しませてもらった分お返しをしないといけませんから」
「そ・れ・に! のぶっちが嫌がりつつもあれだけ年下の子に怒られながらもきれいにしようとしてる背中がかわいいし一緒に頑張りたいって思えちゃうもん」
きらりさんが俺のこわばっていた肩をほぐしながら語り掛けてくれた。きらりさんはギャルだけど優しいしおっぱいおっきいし、なんかいい匂いするお姉ちゃんみたいな存在だ。俺はこんないい人たちを仲間に取り込むあの人の弟子となったのだと改めて実感した。
掃除は終わり、立つ鳥後を濁さずと言わんばかりのきれいさにお互いを褒め称えあい、結城さんのお父さん、雄大さんに別れを告げた。大自然が遠のき、次第に見知った大都会を抜け、学校のそばまで戻ることができた。だが、俺たちは終わりじゃない。帰るまでがキャンプなんだ。そう信男師匠が解散をしようとした時、彼がやってきた
「信男ぉ......。日焼けしてちょいといい男になったんじゃあないかな?」
「親父......」
師匠のお父さん、心之介が姿を見せてきた。師匠は眉を顰めるも礼さんやきらりさんが彼を守るように前へ一歩踏み出していく。亜莉須さんや愛海さんも俺の後ろに隠れながらも応戦しようとしている。俺は一年として、弟子としてここを逃げるわけにはいかない。
「帰ろう......。母さんと約束をしたんだ。今日は家族そろって外食にしよう」
「......分かった。俺はもうあんたから逃げない。みんな、今日はありがとう! 明日からも続々デートしてやるから覚悟しとけよ!?」
そういうと、お父さんに連れられてゆっくりと自宅へと帰っていった。
「し、師匠!! 俺たちとの約束覚えてますよね!? みんなで解決するって言いましたよね?」
師匠は振り返り大声で叫んだ
「分かってる! 母さんもいるし、こいつとは一時休戦だ。次に会った時はみんなであんたとの決着をつける!!」
師匠は大きく手を振り、みんなに別れを告げた。俺は少し心配になった。だけど麗美さんは、いや彼女以外も同じ意見だったようでみんなが大きくうなづいた後麗美さんが俺のおしりをギュッと掴んで檄を飛ばしてきた。
「大丈夫。あの子はみんなと約束したこと、やらなきゃいけないことを一回果たしてるんだ。次もできるさね」
その時見た全員に見送られる師匠の背中は、いつもより立派で大きく感じた。
次ぃ回! 急遽心之介によばれ家族で外食することになった信男。
彼はSSS機関のことを聞きだせるのか?そして父親との確執は......。
次回「親子」




