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67:モブの個性

3日目の朝を迎え、楽しいキャンプも終わりを迎えようとしていた。

連廉はくだらないと思いつつもなぜか気を彫ることに魅了させられていた。

朝一番に起きた彼は自分と向き合うのであった。

廉は朝早くからロッジに入り浸り自分の作品と向き合っていた。自然豊かなきれいな朝霧のようにはいかず、灰色のもやもやが彼の思考を遅らせる。


「なあにしてるの?」


突然の声に驚いた廉が振り向くとそこには隙のある服装で愛海がコーヒーカップを持って微笑みかけていた。廉は少しどぎまぎしながらも目をそらして作品を触った。


「分からないんだ。こいつのイメージが」


「適当にクマとか魔法のステッキにすれば?」


「いや、それだと誰かをイメージしてるみたいで...。」


「まるで姉さんと信男くんを意識してるみたいで嫌ってこと?」


「いや...ではないが、俺は、俺自身の内面が知りたい」


「私だって、自分なんてわからないわ。いつまで経っても私は木彫りのクマにある鮭なのよ」


「そんなことはないよ。モブ男だって君の事...。いや、君には個性は発動させてないんだ」


「最初はあなた達の関係が興味深かったのよね。当然薄い本目的でね。でも、追いかけてるうちにあなた本人のことが、気にかかっちゃった」


「やめてくれよ」


廉は少し顔をあからめつつも木材を彫り進める。自分の中にある何かを見つけるために、如月信男とはまた別の青春、輝きを見出したいという思いが彼の手を動かす。

 愛海はそれを肘をついて見届けるが彼女のことには一切振り向かない。一心不乱という言葉が彼女の脳裏によぎる。そしてグッとコーヒーを飲み干し、自分の作品をみる。鮭を取る熊だ。よくできた模造品コピー、姉とはまた別の才能を見出しているにも関わらず、彼女は亜莉須の独特な世界ちょうこくを見て自分の作品に傷をつけた。だが、繊細に、違う何かを作ろうとしている。それは廉と同じように何ものでもない自分を何者かに仕立て上げたいという一心が彼らを動かしていた。その空間は次々と起きだした手芸部の子たちを圧倒させた。信男もまた、明るくとらえて自分も負けてられないなと息巻いて創作に励みだす。


「お、なんだ? みんな精がでてるねぇ~。私はこういうゾーンに入った人たちをみると興奮するんだよねぇ!!」


結城 雄大は彼らの創作意欲に掻き立てられ彼らの作業を邪魔するようにチェーンソーを爆音でかき鳴らす。その光景はギターをかき鳴らすロックスターか、あるいはオーケストラの指揮者か。全員が話すこともせず、ただただ、自分と会話していた。


「できた! 天使さん見てよ、俺の自信作!」


「廉くん、すごい! 意外と才能あるんだね」


「ま、まあ…「できたぜ! 俺も!」


大声で信男が作品を掲げると天使はすぐさま彼の方に向き直り、礼やきらりと共にもてはやす。廉は机に不貞寝する。それを見かねた愛海は深淵のようなささやき声で話しかける。


「私の、見てくれる?」


「あ、ああ」


そこには熊の頭にかぶりつく鮭が彫られていた。廉は戦慄を覚えながらもちょっとした高揚感のようなものが芽生えだすのを感じた。


「『しかえし』」


そうささやかれた時耳がぞわっとした。自分のこころを見透かされたような気がして廉は目を大きくして愛海を見つめると彼女はいたずらっぽい笑顔で語った。


「この作品のタイトル。どう思う?」


「君らしいかどうかはわからんが、何かを訴えたい気持ちが伝わる」


「そう。よかった」


廉は信男の輪の中に入り始め彼の作品を見た。彼はステッキを作っていたのだ。彼の特異な能力、個性。現出される道具が小さなラヴ・マシーンと共に彫られていた。


「まんまだな」


「まんまってそれはないだろ?れんれん。 裏をよく見ろよ!!」


裏にはびっしりとアルファベットが書かれていた。その並びをみて廉ははっきりと自分たち手芸部部員のイニシャルだった。


F.A/G.K/A.L/M.R/Y.A/Y.am/M.Rm/O.N/D.S/N.M/S.M


文字はつたなくも彼らが共に仲間以上の関係でつながっているという証が彫られているのだ。廉はこっぱずかしく顔を隠す。


「お前らしいな。ていうか、天使さんの“るな”は“RUNA”だろ。なにかっこつけて“LUNA”にしてんだ」


「いいだろ!? こっちの方がぽいだろ」



「ハハハ! いいなぁ、信男くん! 青春の1ページを感じさせる作品だ。いや、君自身とも言うべきかな?」


結城雄大は信男の肩を大きくたたき称賛する。すると彼のお腹が鳴り始めた。お昼の合図が鳴り響くと大勢は大笑いしながらバーベキューの準備へと向かっていく。


「まったく主人公みたいな輝き方だな......」


「みたいじゃなくて、実際彼は輪の中心よ。当然主人公にもなるわ。でも私たちは?」


「主人公じゃないって?」


「主人公よ。いつだって、誰だって...。舞台装置なんかまっぴらごめんよ」


そういうと愛海は廉の手を握りしめて共にバーベキューへと向かう。ロッジから飛び出した外の光は舞台袖から浴びるスポットライトのように光り輝いていた。



エピソードが長くなったので3日目後半は次回!

本日中にアップします!

次回「師弟のカンケイ」

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