66:個性の磨き方
個性を磨くため如月信男たちは手芸部合宿にてワークショップと手合わせを行うのであった。
朝早くからなぜか軍隊ラッパのような軽やかな起床を妨げる音がキャンプ地に鳴り響く。信男たちは何事かと眠気瞼をこすりながら起きだすとラッパを持った筋肉質な男が俺たちをハーメルンの笛吹きのように小屋へと招き入れる。
「おはよう諸君。いい目覚めだね!!」
「もしかして、結城さんの?」
「そう。私が愛海と亜莉須の父、結城 雄大です! よろしく」
快活な男はどことなく亜莉須の顔立ちを思わせながらも二人との性格とも違う。快活明瞭さが笑顔に出ている。ようはいい人そうってことだ。結城 父は如月信男を見つけるとすぐに顔を近づけて品定めするような目つきで語り始めた。
「君が、如月信男だね? こうやって直接会うのは初めてじゃあないかな?」
「あ、そうですね。初めまして! 娘さんたちと」
「変なことはしていないだろうね?」
「いえ、健全な友達付き合いをさせてもらっています!! はい!」
「遊んでいる...ということかな?」
信男は返答に困った。決してやましい意味で遊んでいるわけではない。だが、遊んでいないというのも間違いなので本当に日本語は難しい。黙りこくっていると鼻で笑ったあと信男の肩を叩いて慰めた。
「すまない...。君を試すようなことをしてしまった。今回は君たちの個性を伸ばす意味でもワークショップを開かせてもらった。この合宿を通して君たちの感性と個性を十分に磨いて欲しい」
全員、これから何をするのかはわからなかったが彼のとてつもないオーラと好奇心に勝てず、席に座ろうとした。
「ああ、ちょっと待ってくれ」
「まずは木材選びをしたい。説明は追ってするからまずは一緒に雑木林に行こう」
そういうと結城雄大は手芸部のメンバーを歩かせていく。雑木林に行く間、彼が木材をチェーンソーを使って彫刻を彫るチェーンソーアーティストとして名を馳せていること、そしてその活動や作品を見てもらうために時々体験会を開いていることを教えてくれた。雑木林に着くと雄大は木々を眺めたり木肌を触ってなにやら木と会話しているようにも見えた。
「人が多いから二本くらい調達したい。お前らが選んでいいが、一番多く選ばれた二本になるからそこは勘弁してくれ」
軽く了承した後、雄大を真似するように信男たちはペチペチと木の表面を触ったり、木を見上げたりして悩ませる。信男はなんとなく、周りよりも幹が太めの木をがっしり掴み確定させた。同じものがよかったのか、天使やしいなも信男の選んだ木に集まっていった。一方、廉は少しほっそりとした木を選んだ。偶然にも同じタイミングで愛海、真子、虹郎が集まってきた。信男は少し自分の選んだ木に人が少ない事を不服に思いながらも概ねその二つに決まったので何も言わないことにした。
「さあて、全員分の丸太はそろったかな?」
『はい!!』
先生を含めた全員が丸太を前にして元気よく答えた。雄大は親指を立てて返答し、豪快にチェーンソーを担ぐ。
「本来はみんなもチェーンソーでやろうぜと言いたいところだが、娘が特に亜莉須が不器用で渡すと怖いので君たちは彫刻刀でやってもらう。これでもパパは心配なのだが、まずは俺のパフォーマンスを見て欲しい」
そういうと、雄大はチェーンソーをしなやかに、そして豪快に振り回して丸太を切り落としていく。どんどんと形が丸みを帯びていく。細やかな作業にも関わらず、チェーンソーは恐怖も緊張も感じさせず、形作っていく。作業に見とれているとあっという間にクマの形が出来上がっていた。俺たちは拍手を送りながらも今度は自分たちもやらねばならないのかと思うと不安になってきた。
「大丈夫。君たちには光る個性がある。君たちに眠るイメージを掘り起こすんだ。ただ、感じたままに流れるままに」
俺たちは言われるがまま、あーでもないこーでもないと唸りつつも内なるイメージを彫り進めていくのであった。数人大まかな形が作られてくると結城雄大は見計らって手を止めるように促した。
「そろそろ、お昼にしよう。明日もあるんだ! きっとうまくいくはずだ」
お昼は昨日のカレーの残りでカレーうどんをすすった。少し寝かしたカレーは昨日よりもおいしく感じた。その後、西京先生に古瀬宇能力についての練習試合を持ち掛けられる。信男たちはお互いを見合った後、頷いた。
「如月信男。君は何のために戦うんだ?」
「なんだよ先生。...俺は俺たちの居場所を守るために戦うにきまってんだろ」
「他には?」
「ないよ」
「うそ、ですよね? 信男さんはきっとお父さんや比古さんとの決着を考えてますよね? それは私たちも察しています」
「礼...。確かに親父や比古との決着はつけたい。けど、それは俺の居場所を浸食しようとしているからだ。だから戦う」
「そうですか...。なら、私と決闘してください。信男さん(マスター)」
礼が幻想島柄長を出現させると一気に周りは凍てつき始めた。他のメンバーは一斉に離れだし二人の動向を見守る。
信男は渋々マジックステッキを取り出し、冷刀・柄長轍の刃を受け止める。ステッキから放出されるハートの魔法陣は斬撃を受け止める。だが、彼女の力は今まで以上に強かった。
「マスターが戦いの中で見つけた狂気は私たちが取り払います! 比古さんへの恐怖もお父さんへの怒りもすべて、半分にすればいいんですよ!」
「比古のことはありがたいと思ってる。でも親父の事は家族の事だ! 俺がやらないと」
「じゃあ、私たちは家族じゃないんですか!! それでも、あなたはハーレム王と言うんですか!」
「くぅっ!」
礼が一度後退し、鞘に刀を収めなおした。
「我流奥義 朧月夜」
刀が横一文字に斬撃を残しながら信男に強く当たるも信男は体数センチのところでラヴ・マシーンが白刃取りをしていた。信男は礼の刀を折り、柔らかな表情で笑って見せた。
「わかったよ。親父との戦いでもみんなにも手伝ってほしい。助けて欲しい。だから、俺もみんなも強くなろう! これが!けじめのラブリー・ロイヤルフローラル・ハリケーン/スラッシュ!!」
礼は信男の一打で爽快にやられたが嫌悪感はなく、他の子たちもそれをみて負けてられないと言いながらそれぞれ手合わせして個性の練度を高めていった。
次回も個性を磨くぞ!
そして、あの人が...
次回「モブの個性」




