61:デートのお誘い大作戦
梅雨は開け、夏休みムード真っ盛りな学園では如月信男が失った信頼を取り戻すため手芸部員たちと心を共にしていく。
すったもんだの体育祭は閉幕し、学園はしばしの休息へと向かっていた。しかし、如月信男に休みなどなかったのである。如月信男の自宅にて母親と妹との束の間の談笑はいつの間にか恋のお悩み相談所と変貌していた。
「俺、女の子とちゃんとデート誘ったことないんだよなぁ」
唐突な信男のカミングアウトは妹の葵を少しイラっとさせ、兄に噛みつくきそうな距離でその心理に詰め寄った。
「ええ!? それはだめでしょ!!」
「ダメとかあるのかよ!?」
「普通は男子からでしょ」
「普通って?」
「はぁ!?」
喧嘩勃発寸前に母がテーブルにお茶を出して
「まあまあ、あおちゃん。確かにもうどっちが先に動くかなんて重要じゃなくなってきてるのかもね...」
続けて母が優しく語り掛ける。
「どっちが動くかじゃなくて動きたい時、お誘いしたいって言う時にちゃんと言えることが重要なんじゃないかしら? あら? のぶちゃんは?」
「全部聞かないで出てっちゃったけど?」
「あらあら♪ 道はあの子の中にもう見えていたのね」
「どういうこと?」
「お父さんがよく言ってたの。『人生は暗がりのなかにうっすらと見える道のよう。未来はその先にしかない』ってね」
「私にはさっぱりよ。でもお兄が元気になったなら別にいいわ」
信男は家族の心配と見守る心をひしひしと感じ取りながら走った。彼の灯る道しるべはどんどんと自分のつかみ取りたいものへと照らしていく。そして、彼は一つのアパートに行き着いた。その一室の表札には『蒲生』としっかり書かれていた。アポのない訪問だし、しかも相手は女の子だ。すっぴんでも見てしまっては取りつく島もない。とりあえず話ができるか話してみよう。
「近くにいるんだけど、会えないかな?」
数分後、既読がつき、返事が返ってくる。それには信男も驚いた。
「玄関前にいるんしょ? ちょっと待ってて」
「うん、ごめん。 ありがとう」
バレちゃったならしかたがないが、会ってくれるとなると異常に心が高鳴る。今までにない高鳴り。緊張...。目の前に女の子が用意をしてくれると思うと初めて能力を使った時くらいの恥ずかしさもあるなとドキドキしていると、いつものキメキメのギャルメイクじゃなくてナチュラルメイクに少し大人しめな花柄キャミソールワンピースのきらりが少し顔を赤らめて玄関を開けて対面した。
「な、なによ...。ぎゃるでもこんな感じの服くらい着るし」
「いや、いつもと違った印象でまた可愛いなって、ちょっと見とれてた...のかな」
見れば見るほど彼女の魅力があふれるしぐさや服装に信男は声をかすれさせながらも勇気を振り絞ってデートへ誘う。
「俺と今からデート、行きませんか!?」
「そのために呼んだんしょ? いいよ。どこに連れてってくれんの?」
「水族館とか??」
「いいね! うち、イルカのショー見に行きたい!!」
「もちろん! 行こう!」
信男はきらりの手を握り、明るい表情で水族館へと駆け出した。
電車に20分ほど揺られ、少し磯の香りのする港近くにその水族館はあった。二人は吸い込まれるがごとく水族館の中へ入り、水中の不思議ないきものたちと触れ合う。メインはやはり、きらりの言っていたイルカショー。
信男たちは多彩な芸を見せる彼らに拍手を送り、充実した1日を送った。ショーの一環でだいぶずぶぬれになったが、夏ということもあり、涼しい気持ちできらりの濡れた髪の毛を売店で買ったタオルで拭いてあげた。信男は逆にきらりに髪の毛をクシャクシャにされながら乾かされた。いつも以上の浮かれ気分になり、二人だけの時間はあっという間に日が落ちていく。
「今日は楽しかったね! のぶっち!!」
「えっ!? ああ、うん」
「なに?誘っておいて楽しくなかったの?」
「違うよ。“のぶっち”って聞き慣れなくて」
「あ、そっか。でもさ、いつまでも“モブッチ”じゃないから...でもいつも通りののぶっちでいて欲しい。......何言ってんだろうち!? とにかく、これからも一緒にいてよね!!」
「当たり前だよ。きらりだけじゃない、他の子たちとも仲良くしていきたい! 本当の俺の魅力でハーレムエンドを目指す!」
「じゃあ、今度さぁうち、るなっち、れんちー、のぶっちで遊園地行こ。しいちゃんと行ってたっていうとこ!!」
信男は二つ返事で快諾した。 いよいよ来週から夏休み、それまでに今まで以上の魅力でいろんな人に声かけしていかなくてはと業を煮やす信男なのであった。
来週は部活やろうぜ! スケジュールを組もう!!
次回「リア充になると夏休みスケジュールが埋まりやすい」




