59:迫りくる影
SSS機関が本格的に動き出す。
運動会を執り行っている最中、教室からは黒い視線が生徒たちを見守っていた。二人の男たちはグランファイトの映像を見つつ、ファイターである生徒のプロファイルをパラパラとめくり続けている。
「榊くん、いい素材は見つかりそうかね」
白髪の男が、榊と呼ばれた黒髪のオールバックの男に声を掛けると榊は、プロファイルを音を立てて閉じた後ゆったりとした口調でしゃべり始めた。
「なぁに、こんなにペキュラーがいるのですよ?逸材は腐るほどいますねぇ。三条教頭、この如月信男という男、もしや...」
三条教頭は如月信男のファイル欄をなめまわしていると、それを見かねたもう一人の男が二人にしれっと語り始めた。
「このままだと比古とうちの信男は対戦しない。予定を早めますか?」
「お前の息子だと思ったよ、如月君。したり顔がそっくりだ......」
「中々酷だね。まあ、好きにするといいよ」
「いえ、崖に落とすのが親獅子の役目ですから」
そういうと如月心之介は二人がいる部屋を後にし、信男たちのいる会場へと向かっていった。
そうとはつゆ知らず、グランファイトではしいなと礼が取っ組み合って火花を散らす。信男の懐により近づくため二人は譲れない戦いを始めた。
「だから、先輩は護衛係ですって。メインヒロインはかわいい後輩である私です!」
「私はっ、護衛係じゃない! 後輩にはマスターの心は譲れません!私がメインです!!」
しいなはメイドインデビルのしっぽを使って礼を振り払う。足を取られ、後ろに倒れる礼だったが、がっしりとした腕に抱かれてリング床に頭から打ってしまうのを回避していた。男は優しく礼を座らせて優しく声を掛ける。
「大丈夫かい? 君、体が冷たいんだね」
「大きなお世話ですよ、信男くんのお父さん」
「心之介と呼んで欲しいな......。がそれは無理か」
「如月心之介ぇぇぇええええええええ!!」
「お前は、父さんとは言わないんだなぁ! 信男ぉっ!」
会場はもはや二人の女性ではなく、この親子の今にも爆発しそうな空気に呑まれていく。離れた先でも二人にスポットライトが当たっているように釘付けにしていた。信男は足早にリングに上がりこみ、礼としいなを彼の後ろに回しこみ、心之介を警戒した。
「いきがるな。取りはしないさ」
「何しに来たんだ! ここは俺たちの青春の1ページなんだ、邪魔すんな」
「そういうな。水を差したのは悪いとは思うが、俺はより面白い提案をしに来たんだ」
こいつは何を言っているんだと訝しげに見つめていると心之介は振り返り、会場全体に提案の内容を語り始めていく。
「どうだろう。君たちモブとペキュラーの交流試合...いや、代表戦でこのグランファイトの王座を決めないか? 能力を持たないモブの諸君、希望を持ちたくないか? 我がSSS機関に入れば君たちもペキュラーになれる。ペキュラーが大敗するのをもっと見たくはないか!?」
そういうとほとんどの生徒が盛り上がっていき、熱狂的な渦へと変わっていった。それは狂気にあふれていた。信男を含む手芸部の部員たちはこの盛り上がりに違和感と嫌悪感を感じた。それと共に心之介が肩を回して連れてきた比古が首をポキポキと鳴らして信男の前に現れた。
「いいねえ。結局は誰もが刺激を求めている」
「狂ってる」
「ペキュラー(おまえら)がなぁ!! さあ、狂喜乱舞の試合をやろうぜ!! ブス女の弔い合戦でもいいぜ」
比古がニタニタと笑っていると信男は逆に静かにきらりの方を少し見つめた後、比古をにらみつけ
「誰のこと言ってんだ、てめえ」
「俺にやられた、男に腰振りそうなクソビッチだよ」
「......す」
「あ? 聞こえねえ」
「お前だけは俺がじきじきにぶっ飛ばす! ハーレム王の名に懸けて! 如月信男として!」
心之介はほくそ笑んだ後、運営委員のレフェリーに成り代わり、静かに、だが猛々しく開始を合図した。
開始の合図が聞こえた瞬間、信男は現出も使わず左手で比古の胸倉を掴み顔を近づけた瞬間握りすぎて震えている右手で彼の左顔面を殴りつけた。
比古は思いのほか思い一撃にその場で倒れこんでしまった。まだ意識が保てているうちに立とうとしたが信男は彼の立ち上がろうとする手を足で払った。
「謝れ」
「なにg」
さらに信男は足で比古の脇腹を蹴り上げる。比古は仰向けになり、腹を抑える。信男の顔を見ると少し涙ぐんでいた。
「これはきらりが痛めた傷の分だ。しっかりケリをつけてやる。さっさと立てよ、比古」
比古は奇声に近い笑い声をあげて立ち上がった。その時の会場は恐ろしくもその雄姿に湧きたっていた。
次回比古対信男のモブvsペキュラーの代表戦!
戦いの果ての勝利は何をもたらすのか!?
次回「勝利は苦いコーヒーのように」




