41:ワタシとあなたの大切な時間 1日目
如月信男の受難は続く。
また、そして繰り返していくのか...
ピピピピ...ピピピピ...
けたたましく目覚まし時計が鳴り響く。気だるそうに伸びをしてアラームを止めてリビングへと向かう。今日からやっと二年生初めての新学期、意気揚々とパンをレンジでトーストする。
ん? この回想、前に一度やったような?
俺はトーストの焼きあがる音を聞くと皿にのせてバターを軽く塗って口をほおばった。時間には少し余裕がある。これから着替えに行ったとしても間に合うくらいには学校は近い。パンはどんどんと減っていき、最後の一口をほおばった。口に着いた食べかすを取り払い、着替えに直行。今日は昨日と違う服にしよう。と思っていた。けど、昨日着た服はもう衣装棚に畳まれていた。不思議に思っていると母が陽気な声で呼びつけた。
「信くーん! めいちゃんが迎えに来てるわよ!?」
知らない…。だが、前にも同じことがあった。確か、俺には幼馴染がいたって流れが…。とにかく、手早く玄関を開けると見たことがあるようなツインテールが特徴的な女の子が立っていた。
「もー信くん、寝ぼけてるの? 早く学校行くよ」
「いつもごめんね、めいちゃん」
母が横から入ってくるタイミングもばっちり昨日と同じだ。
「いえ! 幼馴染ですから! おばさん、じゃあ信くんをしっかりと学校を送り届けます!」
「行ってらっしゃい」
「......行って、来ます」
不審に思いながらも俺はその“めい”と一緒に学校に行くことにした。そして申し訳ないことを聞いてみた。
「変なこと聞くけど、めいっていつから俺と幼馴染だっけ?」
「ほんとに変なこと聞くわね。もしかして、記憶喪失!?」
同じ返答だ。でも、変じゃない。今は彼女のことを聞きだすしかない。
「うーん、そんな感じ?」
俺は怖がりながらも幼馴染というシチュエーションにニヤついていた。浮かれている中、改めて彼女が自己紹介をしてくれた。
「榊 皐月、小学生のころから信くんの幼馴染やらせて持ってるんですけど、思い出した?」
これは、ループしてるのか? 昨日も同じことだ。でも次の日も同じことの繰り返しじゃないか!?でも、この感覚は気持ちが悪い。 もしこれで...... あれこれ考えているとめいがふくれた顔を目の前に見せた。
「どうしたの? 早く行かないと学校に遅れちゃうよ!」
「あ、ああ」
めいに引っ張られつつ今日も元気に学校へと行くのであった。正門にたどり着いたってアレ? れんは?あやは?きらりは? 天使ちゃんは? やっぱり、学校も校門に立つ先生も学校へ入っていく生徒もみんな、色調がモノクロみたいだ。目を凝らすと元に戻った。一体何が起こってるんだ?
「どうしたの? 目でも悪くなったの?」
「いや、景色が一瞬おかしく見えてさ。ハハ、気のせいみたいだったよ。ていうか、廉のヤツまだ来てないのか?」
「レン? 誰の事? 友達?」
皐月は今までよりも一層機械的で冷ややかな声質で問いかけてきた。同じことを聞いてしまったが同じように答えるのだろうか。
「......廉は、廉だよ。む、連 廉。俺の友達、というか親友。これこそ、幼馴染なら知ってるよな?」
「? 信くん、友達私しかいないじゃん」
「え?」
同じだ。やっぱり、言葉が一言一句昨日と代わり映えしてない。この世界はループしている!? でもなんのために......!?
「モブで陰キャな信くんをこんな美人で世話焼きな皐月お姉さんが引っ張ってあげてるんだから、感謝してよね?」
「お、おう」
正直皐月の愛くるしい表情や態度は、俺にとって初めての相手なためドキドキしていた。ループの事なんてどうでもよくなってしまうほどに吸い寄せられる緋色の眼に、ドギマギして考えがトンでしまう! 絆されるな、絆されるな!
「ちょっと!またボーっとしてる! ほーら、教室に行くよ」
俺の腕に柔らかいものが当たったと同時に腕が組まれ、グイグイ引き連れる。たまんねえな、これは。こんなん、なんも考えられんくなるわ!! とりあえず学校に行こう!
そう思っているといつの間にか席についていた。これは一体何が起きているんだ? 早送り? 俺が覚えていないだけ? ただ、正門をくぐって教室に入る区間内だぞ? 知れた数分間を忘れることなんてないと頭を巡らせていると隣の席のめいが話かける。
「さっきの古典の抜き打ちテスト ちゃんとできたの?」
何!? もう古典のテストは終わったのか? これがループだとすれば、覚えてる限りでは数学があって、その後古典で......。もしかして、ループだけでもなくて早送りも!? でも、それをどうやって証明する? 寝てただけってこともありうるぞ?
彼女の行動にやきもきしていると、今度は昼休みになっていた。食堂に自分でいった記憶もなければ3限や4限を受けたような記憶がない。
ただ寝ていただけかもしれないが、俺の目の前には親子丼があった。親子丼を見つめているとヤンキーっぽそうな奴らが絡んできた。 さっきより進みが早めか? というかまた、こいつら、前に絡んできたリーゼントと世紀末トサカなのか?
当然のごとく、反発しようとしても個性能力は使えない。
殴られて痛いし、どうなってるんだ? あやたちはどこにいるんだ?早くここから抜け出そう。
「どこ行こうってんだ、このマヌケが!」
どうも、俺は個性失っているらしい。 絶対、羽生の仕業だ。くそ、羽生のヤツどこにいやがる。だけど、今はそんなことを考えられないほど緊急事態だ。どうすれば...そう手をこまねいていると皐月が食堂の机の上に立ち上がった。
「信くんに手出しする奴は私がお仕置きしてあげるんだから!」
皐月はジャンプした後、世紀末不良の突進攻撃を華麗によけていき、よく知らない武道の構えをつけて、相手を挑発すると二人は見事に乗せられて向かっていった。皐月は不良に見事な蹴りを繰り出し退散させた。
「あんたたちが私に歯向かうなんて一万、いや2万光年早いわよ!」
天文学的数字が出て俺は目を白黒させた。皐月は腰を抜かす俺を引っ張り出していった。ふと彼女を見ると少し、笑顔が見えた。それはかわいらしかった。俺は見惚れたまま教室へと戻ってきた。
「いやー、手ごわかったなー」
「すごいよ、皐月。やっぱり、幼馴染っていいなあ」
今は彼女に変なことを言っても怪しまれるだけだ。今は状況を伺え信男!
「でしょ。昔テコンドー習ってたんだ。ていうか、記憶戻ったの?」
「ん? ああ!? ああ...ああ!! ぼんやりとだけど」
「ゆっくりでいいからね。というか、このまま記憶のないままこれから思い出を作っていくっていうのもありかも!?」
こんなに俺にベタベタな可愛い幼馴染が居ていいのか? 可愛すぎて怖い! 思考放棄しちゃいそうだよ。でも、今度こそは調査しないと!
「あのさ、皐月。聞きたいことがあるんだけど......」
「何?」
「やっぱり、なにかおかしいんだよね。ペキュラーの能力で世界が早送りになったり、ループしているみたいなんだよね。どう思う?」
「そんなの気にしなくていいの! 次の授業始まるよ?」
彼女の語気の荒い言葉には、少しノイズのようなものが混じっていたから少し怖くなった。やっぱり怪しい。怖いけど、真相を確かめるにはもう聞くしかない!
「俺に、君みたいな幼馴染はいない! 君は何者だ!?」
そういうと、場の空気は一層暗く、重くなった。教室は皐月を中心に黒く染まっていき、わいわい話しているのに、それらも消えて無くなって皐月と俺だけの空間が出来上がった。時々、血のような赤い色が空間をほとばしっていく。頭の中は真っ白になっていた。彼女がこちらに歩いてくるたび悪寒が走り、唇が震えだした。
「...どうしてそんなこと言うの?」
「いや、そのままの意味だよ。みんなはどこにいるんだ?」
「みんなの事なんてどうでもいいのよ。私だけ見ていれば、こんなこわいめにあわなくてすむんだよ?」
彼女の手にはどこからともなく包丁が握られていた。その色は鋭く銀色に、そして血のような赤が歯の先端から滴っていた。雫が落ちるたび、俺は“憎悪”の二文字がよぎった。
「のぶくん、ワタシはあなたとひとつになりたいの。たいせつなときをすごして、やがてわたしのものになる。それがわたしのねがい。あなたもすきでしょ?」
言葉が出ない。
「どうしてむしするの? ねえ、ねえ、ねえ......。ねえねえねえねえねえねえねえねえねえねねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえ」
そして、暗くなった。
信男は、恐怖のまま彼女と共にまt...「みつけた。」
私、榊皐月。高校二年生! 幼馴染の信くんはいつも頼りないモブキャラみたいなんだけど私が絶対しあわせにしてあげるからね!! きみたちもかれのしあわせがだいいちだよね?
こ れ を ヨ ん で る キミ(読 者)に言 っ て る ん だ よ ?
次回も私たちのかつやくをオたのしみに!




