02：天使 月姫（あまつか るな）は自称神である。
破天荒に、新幹線のように青春は一瞬の出来事。
はじめに言っておきますが主人公は最低最悪のゲス野郎です！（多分）
モブ男タヒねとか言わないで！！
これは、いつも通りの朝。何も変わらない。
小鳥が鳴き、とても気持ちのいい朝だ。
昨日何かあったような気がするが、気のせいだろう。
うん、気のせいということにしよう。
階段を下り、母と妹におはようという。
降りてきた俺を見るなり、母と妹はいつもと違う様子で俺を見つめる。
「兄い、雰囲気変わった？」
ん？ 俺そんなへんか？
「どうした、怜。俺に話してくるなんて何年振りだ？」
そう、この妹、如月 葵は、俺の容姿の不格好さから中学に入ってからというものの、口をきいてくれなかった。
「一年くらい？ 別にいいじゃん。早く食べないと遅刻しちゃうぞ♪」
うん？ こんな可愛い妹だったか？ もっとぶっきらぼうで愛想悪い感じだったような・・・
そうしたら、母までも声色を変えて腕を掴んできた。
「あら、のんちゃん、男らしくなった？ ちょっとお父さんに似たんじゃない？」
うるせえ、息子にそんなメスの顔するなよ。気味が悪い。母さんだって俺の事、誰に似たんだよと言わんばかりのしかめっ面ばかりだったのに。
この家族、気味が悪すぎて、朝ごはんもろくに食べずに玄関に向かった。靴をはき、玄関から出ると同じ学校の制服を着た女の子が爽やかな顔で出迎えてくれた。一瞬、思考停止した。幼馴染、なわけないよな。というか俺はこんな子学校で見たことないし、そもそも迎えに来てくれる女の子なんてそうそういない。
「おはよ、昨日はどうも」
女の子は両腕を後に回してメトロノームのように揺れている。その透き通った肌は天使のようだった。可愛いけど、誰？
「おはよう......。は？」
そら、聞き返すよな。昨日はどうも？ 昨日の記憶があいまいだから、俺なんかやらかしたのか？ 家族の事と言い、今日はなんだか怖い夢でも見ているようだ。少女はにっこり笑って俺の腕を引っ張ってくる。
「遅刻するから、歩きながら話そ」
だけど、この笑顔にはかなうまい。そう思って彼女の意見を聞き、学校へと向かう。
いつもの通学路、違うのは隣に女の子がいる。これは、男子の憧れ、登校デートでは......？ いやいや、まだ慌てる時間じゃない。落ち着いて素数を数えるんだ。
０って素数だっけ？ だめだ、数えようにも学がなさ過ぎる。
落胆してると女の子が顔を覗いてくる。
「私の事、ほんとに覚えてない？ 変わった事無かった？ 」
「確かに、いろいろありまくりましたけど。 あなたの事も覚えてないんで......あ」
昨日の夢？を思い出した。少女が出てきて俺の願いを叶えてくれるという話だった。
『「あ」って反応薄すぎでしょ！ そう、昨日の神さま。訳あって今日から君のサポーターします！ ここでは天使 月姫って名前だから！ よろしくね？』
彼女の口は動いていなかったけど、昨日と同じように透き通った声が脳内へ直接響き渡り、ついでに彼女の名前の表記が脳内にインプットされてきた。はは、月に姫で「るな」ってキラキラネームの典型だな。
この子のテンションのせいで忘れてた。れんれんになんて言おう。いつも待ち合わせて登校してるからなあ。 あっ、あのだるそうにスマホでストライクショットしてそうな手つきは、我らがむらじくんだ。
れんれんは俺を見るなり、少しニヤッとして昨日の話を持ち掛ける。
「お、きたな。敗北者って......あれ？ そちらの方は？ 妹、じゃないよな？ ていうか俺らの学校の制服じゃん」
「はじめまして！ 私、今日からこっちに転校することになった“あまつか”っていいます」
「へえ、で、モブ男はどうやって知り合ったんですか？」
急に敬語はやめてくれ。陰キャの敬語はホントに怖い。 （ブーメラン）
「たまたま、道に迷ってたのを見まして、ね？」
「そうそう！ 案外良い子だよね！ 顔は普通だけど」
大きなお世話だ。と思いながら彼女を見つめていた。昨日の不法侵入事件がなければベタベタのラブコメ展開だったのになあ。そう考えていると
「おやおやぁ？ おまえは同じクラスのぉ、窓際のモブ男じゃあねえかぁ」
げ、この間延びした話し口調は同じクラスの相手にしたくない奴No.2、出嘉井 修三だ。 高一にして柔道部のエース、そして強さとノリで陽キャやペキュラーをも仲間にしている。そして、彼自身もペキュラーだ。
「てめえ、顔も個性も無能力のくせしてぇ、かわいい姉ちゃん連れこんで、登校とはいい度胸じゃあねぇかぁ？ あ！？」
登校中のトラブルとは、どんだけ運が向いてないんだ。肝心のれんれんは巻き込まれたくねえからお前の屍を越えて学校行くわ、生きてたら会おう。とこそっと言ってそそくさと正門に向かってしまった。ああ、友情とはなんとも儚いものか、ああ無情。
隣にいるのは件の天使さん。彼女は俺のもとへ来て耳打ちしてそそのかす。
「信男くん、今こそあなたに与えた能力の出番よ！」
天使がうんうんとうなずいて見せてきたが、能力なんて知らんぞ。だいたい、いままでモブだった俺に、どう使えと？ でも、ここでこいつを倒せたらモテるかも！？
『大丈夫、ちゃんとナビゲートしますから！』
彼女は俺にだけ脳内に直接語りかけられる。ナビしてくれてるって言ってるし大丈夫だろ！
「そうか。 なんだかわからんが、いいだろう。相手になってやる」
カードゲームの主人公のような挑発に出嘉井は見事乗せられてこちらに向かってくる。俺は、ニヤッと口角をあげて俺の中の中二病を思い起こす。お前なんてお中元のシャウエッセンになってしまえ！
「秘技、火竜せｍｎ......！？ ぐえぇっ......！！」
彼の大きな図体がひょろひょろの身体目がけて猛突進。ダンプカーが全速力でぶつかってきたみたいだ！ こんなのもう一度食らったら天女にもモテない！！
『ちゃんと聞いて！ あなたは個性能力者ペキュラーになったの！ そんな技じゃなくて、もっと人を操れるものなの』
ペキュラー......。この世界で個性が強いものをそう呼ぶらしいが俺には縁のない事だと思っていた。でも、俺が今、それと対抗できる力を手にできた。しかも人操れるなんでそそるな！
「それも、中々厨二心をくすぐるのだが？ まあいい。それなら、如月信男が命じる......しｎ、ヴェッ！！」
効いてないじゃないか、ひどい！ しかも、めっちゃいたい。だがこの痛みで理解した。あいつの個性、見極めたぞ！ あいつは殴ると同時に俺にかかる「重力」を変えているっ！！ しかもこの重力、地面に近づくにしたがって重くなっている！ くそ、体が思うように動かねえ！ どうにかして、あいつの能力を止めなければ！
もがいていると天使はさらに俺にアドバイスを投げかけてくれる。もっと早くチュートリアル受けとけばよかった！
『あなたの能力は「魅力」。異性、つまり女の人は誰でもあなたに従ってしまう。恋心や忠義心を抱かざるを得なくなる。女の人がキーワードよ』
彼女がもうちょい早く言ってくれれば、親父にもぶたれた事の無い無垢な頬を赤く染めずにすんだんだよなぁ。 あれ、手が軽い。いつの間に頬を触っていたんだ？ チャンスだ、でかいのが今、体力を消耗して重力が薄れた！ 今のうちに人を探して、この場を何とかしよう。女の人、あっ、あの人よさそう。
そこには美しくきれいに下がる黒髪に大和撫子と言わせんとばかりの端正な顔立ち......きれいな人だ。きれいな人はすたすたと喧嘩場の横を通り過ぎようとしている。
あのデカブツが息を整えている間に、俺は勇気を出して、彼女に声をかける。
「あ、あの...... ちょっと良いですか？」
「何？ 急いでるんだ、け......」
彼女目に集中しながら暗示をかけてみる。俺に力を貸してくれと問いかけてみる。
「君は俺のものだ......」
「イエス、マスター」
彼女はキリッとした顔立ちになり、俺を守るようにデカブツの前に立ち塞がった。すると、彼女周りから冷気が一瞬にブワッと広がっていった。
情けねえ男なんてこんなもんでしょ！
最低と言われても、ハーレム、イチャイチャしたい！！
それが男のロマンだ！ （ドン！）
次回「03：恋愛ゼログラビティ」
