33:如月信男、鍛えてますからっ!
如月信男は魅力的な男となるため、休日を利用して鍛錬に励むのであった。
休日はいつもよりもけたたましい朝から始まった。
「信ぅ~♡ お友達よ~」
分かったから少し落ち着いてくれ。母よ、私は今多感なのです、放っておいてください。
「分かったから、変な声で呼ばないでよ母さん。」
「女の子のお友達増えてるみたいだから、母さんつい、うれしくって、、てへっ☆」
「行ってくるよ......」
「うん、イってらっしゃい♪」
母の言い方にはいやらしい含みがあったようにも聞こえたがそこは聞き流しておこう。さて、俺、如月信男はより強く、より女子にモテるための鍛錬を始めるのであった。付き添ってくれるというより言い出しっぺの天使ちゃんを筆頭に、偶然通りかかった礼も加わって近くの公園まで連れ出した。俺をベンチに座らせると天使は可愛い丸眼鏡をかけて指さし棒と小さなホワイトボードをあやに持たせて授業まがいなことを行った。
「いい? 信男くんの個性は<魅力>なんだから、あなた自身の魅力を磨かなくちゃね!!」
「まあ、そうなんだけど......。俺の魅力ってほら、“モテること”だからさぁ、後はゴリ推しみたいなところあるし」
「ごり押しじゃあ女の子は本来振り向かないよ! そんなの一握りのイケメンだけ。信男君みたいな平凡モブは戦略がないと、女の子は君の魅力に気づかない!」
俺はうーんと悩ませながらイケメンとかなら押してダメでも引けばいいとは思っているだけど、それでいいのか?魅力のまなざしがなければ押してダメなら何しても無駄なのでは?とだめな方へと考えを深くしていってしまった。めちゃくちゃ沈んでいると天使ちゃんはアワアワ言いながら
「ね、ネガティブは一番の天敵よ! ファーストインプレッションはポジティブ8割、ミステリアスなネガティブ2割よ。そのネガティブは一気に見せちゃダメ。徐々に見せるのがコツ♪」
「うまくできるかぁ? 変なとこは見せないけど見栄ばっかりじゃダメってことでしょ?」
「なんとなく分かってきた?」
「頭痛くなってきた......」
頭を抱えているとあやがホワイトボードを片手に持ち、もう片方の手でファイティングポーズをとるようにしながら。
「マスター、ファイトです。 魅力的なマスターならきっとなれます。より魅力的な男の人に」
「あや~、きみはホントに俺の女神だよ~ デュフフww」
「そこ! いちゃつかない! 後、笑い方、もっとさわやかに!!」
天使ちゃんに一喝されたがその後も魅力的になる方法を教わった。多分俺の魅力は上がったはずだ。マイ・ファーストファンタジーの主人公くらいには魅力が出てきたんじゃないか? 次に俺はあやから個性の能力部分について言及された。
「それで、今のマスターの悩みは、以前出した現出魔を常に出せるようにしたいということですね?」
「うーん。甲斐と戦った時になんとなく、ぼんやりとしたものができていたような気はするんだ。あれが現出魔だったのかはわからないけど、そうならものにしたい」
「なら、しっかりとイメージすることです。基本的には現出と同じですが、より一層の想像力と個性が重要です、と亜莉須先輩が言ってました」
本当に?と首をかしげると彼女は携帯を見せると彼女のSNS上でのやり取りでほぼ同じ内容が書かれていた。意外! 亜莉須先輩の分析力。
「たまげたなぁ。なんも考えてなさそうな先輩でさえちゃんと考えないといけないくらい現出魔ってのは難しい能力なのか。よし、でも一度できたんだ。ものにしてやる!!」
俺は現出魔をイメージしつつそれっぽいポージングで発現させようとするが反応はなく、すでに一時間くらいは経過していた。
「はぁ、はぁ、俺だけの現出魔が、出ねぇ! やっぱ現出で頑張るしか......」
「それで満足はしないだろうな?」
突然聞き覚えのない男の声が俺たちに聞こえてきた。男はブランコに乗っていたが、ブランコで楽しむ年齢や体形をしていないことだけは理解できた。男はサングラスを外すと信男の前にその大きな図体で見下ろしながら
「もう父さんの声も忘れてしまったのか? 信男」
「父さん、だと? お前が?」
忘れていた......いや、忘れようとしていた俺のしこり。胸をギュッと掴ませるような痛みに耐えて俺は再度男を見つめる。ニヤッと笑う姿、背格好......その雰囲気は小さいころに肩車してもらったままだった。男は、俺に父親のようにしかりつける。
「お前!? お父さんに向かって“お前”とはなんだ!!」
父親が俺に対し鉄槌を振り下ろすが、なんとか回避してマジックステッキを現出させる。お前が父親だと? 10数年家にいなかったお前が......!?
「マスター!! どういうことなんですか? この人は本当にマスターの、、確かに目元が似ているような…。」
「子猫ちゃん、今は少し、口を閉じてくれると嬉しいな。俺は息子と話がしたいんだ。いいね。」
「は、はい…。」
彼の指があやの口に当たった瞬間、彼女は骨抜きになったように口を押えて頷いた。信男は信男の父という男に向かって飛び蹴りをかまして彼女から遠ざけた。
「俺の彼女に触るな! あんたはそうやって他の女に手を出して! 母さんを結局悲しませてるじゃないか! 如月心之介!」
「お前も、同じだろ? 俺と同じ、<魅了>の持ち主、天性の女たらしの血が流れているんだろ!?」
「あんたと、一緒にするな!!」
如月心之介......。俺の父親の名前は反芻しただけで母親の苦労を思い出し、気分が悪くなる。小学校5年の時にシンガポールという国で単身仕事をしていると聞かされたときは少し自慢の父親だと思っていた。だけど、あいつが酔ってこっちに電話を掛けたとき、女の声が聞こえた。はっきりと「あなた」と言っていた。あれはただの二人称じゃない。夫婦の合言葉のような甘い声だった。その時から俺は父親はいないものと内に秘めていた。
「俺の大技が効いていない…。こうなったらイチかバチか!! <現出魔>!」
「そんな適当じゃあ、お前の個性は活かされんぞ! もっと己の芯を見ろ! そこに魔は潜んでいる!」
己を見ろだと? ふざけるなよ、どの口が言ってるんだ! 俺はいつも自分を見ている! あんたは俺の事なんか見ていない癖にと思うが俺は久しぶりに会う父親の声に耳を傾ける。俺は俺自身を見ていなかった。ちゃんと父親と向き合うんだ! 如月信男!
「自分の中の個性の根幹......。初めは天使ちゃんのもらい物だったかもしれないけど、これはもう俺の個性なんだ。見えた! <現出魔>!」
すると、俺のステッキが光り輝き、地面から召喚陣が描かれ、そこから胸にハートがあしらわれた小さいロボットのようなものが現れた。すると心之介は触れるように喜び、拍手を送った。
「それだ! お前のイメージこそ! それが現出魔だ。そうだ、そいつの名前は、ラヴ・マシーンというのはどうだ?安直だがいいネーミングだろう!?」
「悔しいがバカ親父ながらいいセンスしてやがる! ありがたくはねえが使わせてもらうぜ。ラヴ・マシーン! あいつに一発、愛とは何たるかを教えてやれ!」
ラヴ・マシーンは動き出し、心之介に対して打撃ラッシュを繰り広げた。そのスピードは腕の残像が残るほどだった。やった、勝ったぞ! だが、その油断が隙を生んだ。ラヴ・マシーンの動力パイプのように細くしなやかな腕を心之介が笑みを浮かべてつかみ取った。痛ててて! 現出魔が掴まれたら俺にも影響が出るのか!?
「まあまあだな......50点くらいといったところか。伸びしろはまだある、これからもいい男になれよ信男」
そういうとラヴ・マシーンの腕を振り払った。俺もその反動で小さく吹っ飛ばされる。見上げると、背中で別れを語る父の姿だけがあった。二人に介抱されるも俺は父を深く見つめていた。俺はあいつをいつか超える。それがハーレム王の最後の試練なのかもしれない。
如月心之介を超えるため、ハーレムを作り、モテるため彼は今日も成長する。
次回はいよいよ降谷と一戦交えることに!?
次回「選挙戦争」(仮)




