表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/117

32:降谷一星の一生

文化祭も終わり、季節もさみしくなっていく。

如月信男、彼の瞳の先に何を見る?


 11月になると肌寒く、なぜか人恋しくなる季節になる。だが、今年の俺は違う。文化祭も終わり、俺、如月信男という男はハーレムを形成しつつ青春を謳歌している。灰色だった人生はすべて色づき、きっとこれからも彼女たちと共に歩んでいけるのだろう。邪魔さえ、入らなければだけど......。

 虎視眈々と降谷一星は自分の保身と野心のため、生徒会長への躍進は始まっていた。多くの生徒は盲目的に彼を尊敬していた。だが、俺たちは違う。家庭科室ではいつもよりピリついた空気が流れていた。


「俺たちは降谷を止めるために彼らと接触していたけど、彼ら自身も俺のハーレム道がよくないと思っている節があるよな?」


信男は家庭科室でそれぞれの放課後を過ごしている廉達に漠然と聞き出した。すると廉が気だるそうに返してきた。


「あ? ああ、藤田とか羽生は確か元々降星会だったもんな。会長になったらどうするつもりなんだ?」


廉が考え込んでいると一番降谷に近かった御笠麗美がミシンを進める手を止めて神妙な面持ちで語った。


「あの人はメンバーを信用しているようには見えなかったわ。ていうより、ペキュラー自体を憎んでるみたい。なんかそんな雰囲気がいつもあるのよねぇ」



信男たちが会議を進めている頃、降谷一星らもまた、如月信男によって削がれた戦力のみで作戦会議を行っていた。


「甲斐くん、天河くん、いよいよ私が信じられるメンバーもこれきりになってしまった」


降谷が声色を重くして話すと甲斐が自信満々に答えた。


「降谷さん、お任せください! 如月一派は必ずや選挙の前までに声をあげなくして見せます......!」


「甲斐、私はいつ言葉を発していいと言った? それに、君の戦績を見る限り、その言葉は頼りにならないのは明白だ」


「し、失礼しましたっ…!!」


「もういい、君は私と同等の立場にいられる個性ではない。 消えろ!!<現出魔イマジカ:ブラックドルフィン>!!」



「あああ!! たすけっ」



その瞬間、闇に紛れたイルカを模した現出魔が甲斐を襲い、そのまま闇に引きずっていった。甲斐はその場からいなくなり、残りは降谷と天河のみになった。


「やはり、こうなる運命か。天河君、君ならできるはずだ。如月信男率いるハーレム集団を何とかしろ。あれは、学校の恥だ 」


「......。本当にいいんだな。そう、怖い顔をしないで。わかった、行ってくる」


すっと立ち、教室を去ると孤独が影を落とす降谷だけが椅子に座っていた。彼は誰もいないはずの教室でひとりでに話し始めた。


「ああ、それでどうだった? ......お前も失敗したか。仕方がない。引き続き調査をしてくれ。俺のイマジカも使わせてやるが、今はお前の個性が頼りだ、禅至」



 降谷ふるや 善治よしはるは引っ込み思案で地味な性格だった。ただ、彼は人一倍に正義漢があったのだ。子供のころ、友人のいじめを見て彼はいじめを止めようとしたが、その行動が仇となり彼自身がいじめの標的となったのだ。いじめは日に日にエスカレートしていった。初めは彼も抵抗し、教師にも訴えていたが、教師もそれを無視、さらにはいじめから守った友人でさえも彼を無視し、いない者としていった。彼は親がいず、祖母だけがよりどころだったが、彼は誰にも頼ることができず、彼は彼を失った。そして彼は松村禅至となり、降谷一星となって行き過ぎた正義感の基、人気者となり生徒の圧倒的カリスマへとなったのだ。彼の信条は人を信じず、自分だけを信じることだった。


「すべては私が一番であるために......」


教室で独りつぶやいているとそこに一人純白な女の子が降り立った。


「部屋 暗いと心も暗くなるよ。」


「なんでぼく(・・)のもとへまた戻ってきたんだ。天使月姫......」


降谷は陰を落として話した。その顔はどうみても天使の知っている人物ではなかった。


「あなたを救いに来たの。遅いかもしれないけど」


「ああ、もう遅い。しかも、お前は俺を裏切った......。そして、あいつのもとに!!」


「ごめんなさい......。私、君のこと分かってあげられてなかった」


「うるさい!! 君は僕の......。おれ、の......」


彼が両手で頭を抱えてふらついていた。降谷一星、いや別の誰かのような気配さえ感じていた天使は少し恐怖を覚えていた。 怯える天使に手をあげようとした時、その手をぐっと掴み一星をにらみつける男がいた。その瞬間ハッとして、降谷一星はさわやかで怒りを含んだ顔に戻っていた。彼は、掴んだ男の方を振り向き、激高した。


「如月信男ぉおおおおおお!!!」


「天使ちゃん、またどっかに行ったと思ったらこんなところにいたのか。今日は一緒に帰ろう」


如月信男は激高する降谷に対して気にも留めず、天使に安心させるように話しかける。今にも降谷の腕をへし折りそうな力の加え方をしている腕とは違って顔は穏やかなものだった。降谷は左腕で信男の首を掴んだ。さすがの信男も降谷に無視するわけにも行かず冷めた目で話し始めた。


「降谷一星、あんたは上に立つべきじゃない。そういう器じゃない」


「黙れ!! お前たちはただモブであればいいのだ。 個性のある人間はただ一人、私だけで十分だ! 他は誰もいらない一等星なのだよ私は!!」


降谷の叫びに気づいたのか天河が戻ってきた。降谷が鬼のような形相で始末するように指示した。


「天河ぁ! こいつらをどうにかしろ!!」


天河は如月信男の侵入を許した自分に怒りを覚えた。同時に、降谷に対して恐怖を感じた。それほど彼のドス黒い風格は異質だった。武者ぶるいを断ち切り天河は信男に踵を返す。


「如月信男!! 私の眼をかいくぐって降谷に手を出すとは卑怯だぞ!!」


教室中に文字通り暗雲が立ち込め、落雷が信男めがけてピンポイントに撃ってきた。天河は天使と信男の両方に落雷を仕掛けたが、信男はマジックステッキをイメージで伸ばし、避雷針のようにして自身への落雷を阻止していた。


天河は怒りのこもった顔と声で信男を威圧する。そこには少し焦りのような汗がにじみ出ていた。


「おのれぇ、小癪な真似を!!」


信男はあっけらかんとした表情で天河に軽々しい態度で天使と帰る算段をつけた。


「ヒュー、対策しててよかったぁ! 天使ちゃん、ここは一旦帰ろう」


「分かった! じゃあ、ね!!」


天使が手を床にかざすと閃光が教室中を覆い、降谷たちが目を開けたときには誰もいなかった。降谷は彼らのふてぶてしくも自分の神経を逆なでする態度や行動にストレスが溜まり、何もない天井で吠えていた。


 信男は一度家庭科室に戻り、全員に今日は二人で帰ると言った後、いつもより早めの帰路に着いた。終始信男と天使はただ並んで歩いて行くだけだった。気まずい時間が流れる一方で、信男が気を使ってその重たい口を開けた。


「その、降谷とはなにか因縁があるの?」


「まあ、ね。彼は、ほんとは優しい子なんだ。でも、今間違った方に行こうとしてる。だからこそ、私が......。ううん、私だけじゃできないから信男くんを巻き込んじゃったのかも......。なんか、ごめんね」


「いや、俺はこの個性ができてから楽しいことばかりなんだ。これは君からの贈り物なんだ。この気持ちを忘れたくない。そして、降谷にもいい青春を送ってほしいと思う。だから、あいつに天使ちゃんの思いを絶対届かせるよ」



「ありがとう!!」


「でも......」


如月が頭を掻きむしり、悩んだ表情を見せてばつが悪そうに口を開いた。


「いやぁ、でも今の俺では降谷を倒せなさそうだなぁ。現出魔イマジカをだせたらなぁ。 はぁ、やれやれってやつだな」


「じゃあ、明日はお休みなんだし一日中特訓だぁ!!」


無邪気な笑みを浮かべた後、天使月姫は信男の手を引っ張って駆け回る。彼女の笑顔は信男を包む。こわばっていた信男の顔もいつしかほころんで二人手をつないで、走って信男の家へと戻るのであった。




降谷一星との対決は近い。備えよ、少年!!


次回「如月信男、鍛えてますからっ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ