26:如月信男の珍事part1 ~文化祭とオーロラ姫の罠~
如月信男一行は文化祭に向けてみんなで準備をすることに・・・
しかしそこでもハプニングが!!
人形劇は成功するのか!? (大丈夫か?)
「みんな! どうしたんだ!? あやさん! きらりさん! 」
突然の出来事に状況の読めない俺はただ、彼女らの肩をゆすることしかできなかった。
そのままするりとあらぬ山脈に手を差し伸べようとするもその手をつかみ取り荒々しい声が
「やめろ、めんどくさいことになるから」
「すまん、魔が差した…いやなんでまだいるんだよガリュウ」
「羽生だ! 物覚え悪いのか? まあいい、それよりも俺とお前以外眠りこけてるのは確実に異常だろ」
「しかも急にバタバタと倒れていったし」
俺と羽生はあたりを探り、状況を整理した。事件は数時間前に遡る。
~数時間前~
俺は、放課後いつものように家庭科室に行き、全員と団らんした後こないだ決まった文化祭企画人形劇のオリジナル人形を作るための作業に取り掛かっていた。買い出しに行っていた結城姉妹の手順書を手に取りあやさんとしれっと仲間になってる御笠さんは黙々と丁寧に仕上げていて、きらりさんは針と格闘して少し指から血を流しながら、天使ちゃんはがさつに仕上げてて愛海さんに怒られてるし、一番以外なのは廉と亜莉須先輩だった。先輩はおっとり系なので作業もゆっくりなのかと思いきや、作業も一番丁寧で早い。顔つきもどちらかというと職人のそれだった。可愛い系のこの姿は見ていてかっこよくて惚れ惚れする。廉はイラっとするほど手先が器用で、やったことがないと言っておきながらも女子からも一目を置かれてて、しかも本人もまんざらでもない。
おいいい! 俺の立場が無えじゃねえか! と思いながら亜莉須先輩が書いた擬音ばかりの解読不可能手順書に苦戦してフェルトに触れようとした瞬間、家庭科室の扉が開かれると見たことのある顔がこちらをにらみつけていた。
そいつは羽生時雄だった。彼は俺の能力を奪うためにこの居城にやっとの思いで突き詰めたと自慢げに言っていたが、放課後俺が家庭科室にいることわからなかったってこいつアホなのかと思った。
羽生は俺以外の作業している部員を不思議な目で
「で、おまえら何してんだ?」
俺はいやいやながらもこいつに説明した。
「文化祭の準備だよ、見たらわかるだろ。お前こそなんだよ、邪魔すんなら帰れよ」
「そうはいかん。邪魔するつもりなどないが、お前にあったが百年目! お前の個性をよこせ!」
「お前ほんとそれだけだよな。俺たちみたいにもっと青春楽しめよ! そうだ、お前も人形作り手伝えよ」
「人形? 宣伝マスコットか何かか?」
「いや、人形劇するに決まってんだろ」
いたって真面目に答えると呆れたような顔で羽生がツッコむ。
「いや、お前の頭がキマッてるだろ! 高校生相手に人形劇とか、、普通こんなに女子いるんだからメイドカフェすればいいだろ。」
「うちの学校......41、2年は飲食店の模擬禁止だろ。元生徒会のくせに忘れたのか?」
「うるせーな! 生徒会にも降星会からも破門されてんだよ、こっちは! ああ、イライラする。全部、お前のせいだーー!」
羽生はこちらにとびかかり、右手で俺に触れようとしたが一瞬のすきで足蹴で相手の股間にダイレクトアタックした。
こいつの個性は<ものまね>なのをついでに思い出した。一度真似したら自分のものにできる厄介な能力だ。
「て、、てめえ、いい加減に個性よk、、」
羽生が俺に再度降りかかろうとした時、突如としてバタンと倒れる音がした。俺たちは喧嘩をやめてあたりを見渡すときらりさんが倒れていた。鼻息が指に当たってるから、気絶したわけではなさそうだ。多分......寝てる。次々にバタバタと倒れていく音が聞こえてくると今度はあやさん、御笠さん、亜莉須先輩が続々と倒れていった。一体何が起きているんだ??
普段は客観的で落ち着いている愛海さんがあたふたし始めた。
「いったいなにが起きているの? 姉さん! 起きなさいよ。 ......だめだ、全然びくともしない。まぁ、姉さんは寝たら起きないのはいつもだけど」
廉はあたりを見渡した後、奇妙なアクション漫画に出て来そうな腰遣いで顎に手を当てて、状況を見極め始める。
「なにかはわからないが、きっと降星会側の術中なのはたしかだな」
俺は相手の個性を読み取れる愛海さんに尋ねてみた。
「愛海さん、個性で相手の能力分かったりする?」
「そりゃわかるけど、それは相手か相手の所有物に触れるかしないと!」
羽生は家庭科室の扉にかじりついて急にけりだすと
「だめだ、なんでかは知らんが扉が開かねえ。この部屋自体、敵の巣穴と化したってとこか?」
急に愛海さんが針と糸を持ってこちらにやってきたが、言葉も交わせず倒れてしまった。
「おいおい、どうすんだよ!」
呆然と立ち尽くす俺に羽生が何度も同じセリフを吐くくらいには俺は見えない敵に困惑していた。
「そうわめくな! 何か手はあるはずだ。 俺のハーレム生活を邪魔するなら生徒会だろうが、降星会だろうが許さない。眠る前、愛海さんは何かを伝えたかったはずだ。考えろ、考えろ!」
「考えても意味無えよ。まずは行動だ。相手がどこで何をしているかを探す。それが先決だろ!!」
「羽生田、協力してくれるのか?」
「羽生田じゃなくて、羽生、ね? お前が誰かに消されたら俺の人生バラ色計画が台無しになる。だから、今だけ協力してやる」
俺は準備室を指して
「人がいるとしたらここしかないよなぁ」
「ああ、ちょうど俺も同じことを考えていた。ちなみに俺の方が思考は早かった!」
「はいはい、じゃあ、突入するぞ」
俺が準備室のドアを開き、二人で一斉に入ると中には誰もいなかった。
「変にかっこつけて入って恥ずかしいな。ここにいないのか? 本当に?」
うろつく羽生がびっくりした顔でこっちを向いて、机の下に指をさすと
「おい、誰かいるんだが......」
俺ものぞくと、小さな少年のような顔立ちの人が体育座りをしてこちらを見つめて、気だるそうに
「うわー、見つかっちゃたかー。面倒くさいなー、ちょっと待っててー」
ぬっと机の下から出てくると感情の読み取れない顔で
「初めまして、如月信男くん。ぼくは南雲 結人、二年」
「あなたは、なんで俺たちのところに?」
「面倒だけどー、あの人の頼みだからねー。君たちの部活も、居場所もなくしてあげるよー」
面倒ならやめてほしい限りだが、相手も事情があるようだ。南雲は、準備室の椅子に背もたれを前にして座り、手を開き、指をこちらに向けてにらみつけたかと思うと
「<現出魔:スロースパイダー/霧>」
指の一つ一つから子蜘蛛が解き放たれ、その吐き出された糸はきらきらと俺と羽生を囲んだ。俺たちは蜘蛛の上を飛び越え、さらには南雲を超えて準備室のドアから廊下に出ていくと羽生は一目散に逃げだそうとしていた。
「は? ふざけんな、散々場を荒らしといて!」
「俺の知ったことかよ! 俺は関係ねえ!」
ひょっこりと顔を出した南雲は拍子抜けしていたが、ゆっくり歩きながらまあいいやと俺を追い詰める。
「スロースパイダーの糸に触れると何もかもが面倒になって寝てしまうんだ。ちなみにこの能力はぼくが倒れるか飽きるまで一生そのままだよー。よくよけれたね。逃げられるのも面倒だから、この渡り廊下一体ぼくの分身の巣が張り巡らされてる。ちなみに触れると即バタンキューだよ」
寝ぐせでぼさぼさの髪をぼりぼり掻きながら近づき
「面倒だから二人とも殺っちゃお♪」
今までにない笑みが表れて青ざめたが、羽生を見た。俺の技は技名が長すぎるから相手に察知されて交わされるかもしれない。でも、近づくと指の腹に乗るくらいの蜘蛛に襲われるリスクがある。
「勝機なんてないよ。 <スロースパイダー/隕石>」
腕と同じか、それ以上の大きさの蜘蛛が俺の頭上から糸を垂らしてやってきた。
恐ろしすぎてマジックステッキで魔法をかけた。
「あ、あっちに可愛い雌蜘蛛がいるぞ!」
逃げた代償を羽生にあてつけると蜘蛛はすさまじい速さで彼に飛びつこうとした。その気配を感じたのか。羽生は鋭い目つきでこちらの方を向き直り現出で迎え撃つ。
「くそ野郎が!! 現出まね:重力槌!!」
巨大な蜘蛛はハンマーの餌食となり、幻は煙となって消え去った。
「てめえ、如月何してんだ!」
「お互い様でしょうよ。そっちこそ、そんな腰抜けなら俺の魅力を物まねしてもモテねえぞ!」
その一言に羽生は顔に血管を浮きだたせ口車に乗せれていく。
「こいつやればいいんだろ!? 俺も男だ。誰も見ていなかろうと女のために命を張ってやろうじゃねえか!!」
羽生は帯刀した刀を抜刀する姿勢をとって舌打ちをして愚痴をこぼす。
「合わせ技は体力使うんだよな。札杜の冷凍技で相手と廊下を凍り付かせる。そして、札杜のクールでスタイリッシュなイメージと天河の荒々しい気性の粗さをイメージしたオリジナル!! <現出混ぜまね:天候刀>我流、雪那の霹靂」
切り上げからの突きで南雲をとらえた羽生に感謝しながら南雲の背後に立つ。
「お前、いつの間に! 」
「へっ、南雲さん、あんたは命令かもしれんが俺の居場所を奪おうとした! その罰は受けてもらう。ラブリー・ロイヤルフローラル・ハリケーン 愛注入----!!!」
「い、癒しがながれてくるぅーーー///」
南雲は尊い画像を見すぎた宇宙猫のような顔になって戦意が喪失してるようだった。
家庭科室を覗くとみんなが起きだしていて安心した。
時をすっとばしていよいよ、文化祭前日を迎えてしまった手芸部。
信男たちは無事に文化祭を終えることができるのか。
信男の目指すハーレム道は厳しい。
次回「如月信男の珍事② ~消えたヒロイン=れんれん!?~」




