25:星が降る夜に
誰しもが自分の思い通りになんてならない。人は人、自分は自分。
個性があるからぶつかるし、共に歩める人がいる。
…あれ、これギャグ・アクション文芸でしたよね?
日が暮れつつある公園のブランコに一人、チェーンをきしませてゆらゆらと、やる気のなさそうに揺らしていた。それは子供と言うには体つきも哀愁も年季が入っていた。
暗がりの公園に光るスマホのライトが男を照らした。
「マスター、探しましたよ」
あやときらり、そして月姫がほっとした顔でこちらを見つめていた。
「みんな......やぁ」
気力なく信男は答えた。
「モブッチとれんちーってさぁ、仲いいよね!」
突然、きらりがブランコに立ち乗りしてこぎながら語りかけた。
「二人でなんだかんだ言いあうけど、それって仲いいからできることだよね。モブッチの夢は否定しないし。ウチたちがモブッチ占領しても愛想笑いして、どうぞって言ってくれる。ほんとは二人で遊びたいと思う時もあるよね」
「でも俺なんかがハーレムでハチャメチャやって、他人任せにしてたことも、全部俺のおかげとか思ってた。単に女の子と楽しく囲んで話がしたいだけだったのに。ごめん、俺の個性はみんなを巻き込む、<魅力>なんだ。だからその虜にした君たちを解放s・・」
あやが信男の肩に置きそれ以上言わないようにと首を振る。
「能力がどうとかではないですよ、マスター。初めはそうだったかもしれません。でも、あなた自身の魅力が私たちを引き寄せてくれたのです。きらりさんも、亜莉須先輩も、愛海さんも、そして御笠さんも、みんなあなたといるから、楽しいんですよ。皆さんはあなたのことが大好きです」
信男は一度うつむき両手で顔をたたくと
「そうだよな! 俺もみんなが大好きだ!! 銀河に愛が届くほどにな! 手芸部は俺だけじゃない。みんなの居場所だ。俺が守らなきゃ、男じゃない!」
そういうと愛海が走ってきて息を切らしながら信男を呼びつける。
「やっと、追いついた。信男君、ちょっと来てくれる?」
「ああ、うんわかった。みんなもいいかな?」
愛海はうなずき、従って進むとそこには“結城”と書かれた表札のついた家があった。亜莉須先輩と愛海さんの家らしい。信男だけが家に招き入れられると
「信男くん、いらっしゃい。今、仲直りのお人形さん作ってたんだぁ」
亜莉須先輩の絆創膏をつけた痛々しい指先には自分達に似た人形があった。手がすっぽりと入るように作られたパペット人形のようだ。どれもみんなの特徴を捉えている。
「すごいな、これ。手作りだし、デフォルメとはいえみんなの特徴とらえてて可愛いな」
信男は感心して机の上の廉の人形を見つめていた。人形に本物の廉として話しかけるように、語り始めた。
「俺、バカだな。自分で都合のいい場所を作っといて、勝手に慢心して、他人にすがって......魅力だって天使ちゃんからもらったものだし。でも、こんなに尽くしてくれる人たちがいる。心配してくれる人がいる、それだけでも満足なんだよ。でも俺はもっと、たくさんの人たちと友達に、変だけど恋人にもなりたい。この人形で何かを伝えられれば、、」
「そうか!」
愛海が驚いているとスマホを取り出し、人形を写真に撮ると
「亜莉須先輩、文化祭なんですけど…人形劇やりましょう」
「これ使うのぉ? 恥ずかしいよぉ。」
「いや、これじゃなくても別の何かでもいいし! 先輩指導の下で制作すれば間に合いますし。どうですか?」
「ふぇ!? いいよぉ!! ねえ愛海?」
「え? ま、高校生相手に人形劇って発想はあれだけど、手芸部だしいいんじゃない?」
信男は結城宅を後にし、玄関前に待機していた残りのメンバーに事情を話したところ、みんなが少し笑って賛同してくれた。残りはれんれんだけだった。
すると天使が信男の肩をつかみ、背中を向けさせて軽く背中を押した。
「廉くん、モブ君の家の前で待機してるんだって。早くいってあげれば?」
タイミングを計ったようにズボンのポケットから震えてきたスマホを取り出すとれんれんから
『決闘されし。如月邸にて待つ。』
というジョークというには穏やかではない言葉が書かれていた。言葉を握りしめ、みんなの勇気に背中を押された信男は全員に手を振りその場を去った。
自宅に着くと玄関の壁を背もたれにしてスマホをいじっている廉がいた。廉はこちらに気づくと仁王立ちして大声で叫んだ。
「来たか、ムサシ!」
「いや、巌流島じゃないんだから。それに近所迷惑だから大声で叫ぶなよ」
廉の顔は暗くて見えなかったが、鋭い眼光がこちらを刺しているように感じた。廉はこちらに歩み寄り殴りかかろうとしていた。
「行くぞ、決闘者の魂を見せてみろ。如月信男!!」
廉の拳を受け止めて寸止めで彼の首元に腕を伸ばす。
「待て待て! お前が俺に勝てるわけないだろ!」
「モテモテのお前の甘えが気に食わないんだよ! 修正してやるよ!」
廉の拳は、信男にとって正直かわせるくらいに遅かった。二人は壮絶な戦い(バトル)を繰り広げているように思っているが客観的にみると陰キャのしょーもない喧嘩レベルだろう。信男はマジックステッキの防御で交わした。
「落ち着いて話を聞けないのか!?」
信男がステッキで廉の脇腹をついて突き飛ばした。
「一発お前を殴らにゃ気が済まん!」
「そこまでして、俺が憎いか!?」
「憎いんじゃない。殴られたんだから、お前を殴らないと......。謝られようと、頭では許せたとしてもすっきりしねえ。だから、殴らせろおらぁ!」
貧弱パンチが頬をかすめる。今の俺がよけるなんてもってのほかかもしれないけど、ただ、だからと言っても『はい、どうぞ罪の償いとして殴ってください』は癪だし、あいつも望んでない。
「俺は、お前みたく個性もなければ能力もない。けど、お前を一発殴るくらいはできる! 小学生のころキャプテンタスキにあこがれて空手を習った俺の渾身の一撃をくらえ!」
廉がキャラになく変な挙動をすると信男には廉の周りに宇宙が見えたように感じた。その一瞬、廉は信男の間合いに入り、左拳が腹部にあった。まずいと思い、うつむきエビぞりになると信男の左側から拳が飛んできた。
拳をまともに食らった信男は地面にたたきつけられた。廉も久しぶりの運動に疲れその場で膝から崩れ落ちた。信男は仰向けに向き直り大の字になって
「…はは、キャプテンタスキ。なついな。てか今更だけど襷って空手関係なくないか。」
「原作者が日本に来たことないアメリカ人だからな。変な感じだけど、あのエセ感がアメコミ見てるみたいで新鮮だった。空手もほとんど能力技だしな。」
「『オヌシの<KARATE>は<KARATE>にあらず! 漢ならば、そこの廃ビルを割ってみよ!』ハハ、思い返すと意味わかんねえな」
「そうだな。......なあ、信男、文化祭どーすんだ?」
信男はようやく起き上がり
「人形劇する。 人形は俺たちが作る」
廉は信男の家の壁を背に座り星を見上げ
「高校生相手に人形劇とか最高にうつけてんねぇ」
「だろ? しかも主役は誰だと思う?」
「お前? マジで言ってんの? お前の自伝人形劇とか寒すぎ。せめて桃太郎とかにしようぜ」
「なんなら異世界に転生したら桃太郎でしたにしてもいいぞ。主役はやはり俺になるけど」
「犬とかの家来を、女性として擬人化したらウケんじゃね?」
たわいもない会話は寒空の中でも続き、先ほどまでの喧嘩は嘘のように、親に怒られるまで星が降る夜を堪能しながら話していた。
次の日の学校の放課後、気を取り直して昨日言った人形劇に加え、廉とのつまらない会話から始まった異世界桃太郎の話をしたら以外にも盛り上がった。別に俺たちはそんなに異世界ものに興味はないけど流行りで耳にしてるし、気にもなるのは、この年頃だと誰しもが違うところで活躍している自分を妄想しているんだと思った。
だが、それらの活動をよく思わない者もいたのだった…。
青春文芸です(大嘘)
次回「如月信男の珍事件簿 ~オーロラ姫の罠~」




