18:青春は君を待ったりはしないから
お待たせして申し訳ない!!
これからも細々とやってまいりますので身放さず、お付き合いください。
体育祭編やってこー。
相川さんの支援のもと、俺達は自分の出る種目以外は空き時間に学校内を探索することにした。
先ずは俺と亜莉須先輩とで二年生の教室で手掛かりを探した。どこの教室もがらんとしていて外が逆に一層騒がしく感じるから不思議な感覚が襲った。
そして俺の使命はもう一つ、亜莉須先輩が俺の魅力の効果の対象に本当になっていないかと言うことだ! それをはっきりしないとハーレム道に支障をきたす。なぜなら、俺の能力が全女子対称ということではないかもしれないと言うことだ。この謎を解かねば......。
二人があくせく働いている中、体育祭では女子100m走が始まろうとしていた。
グラウンドでは学校内で探索している二人がどこにいるかは分からないが札杜礼と蒲生きらりがぼんやりと教室の窓を眺めていた。
きらりがあやの方に向き
「......大丈夫っしょ。変な事に巻き込まれてるけどモブッチはうちらの可愛い彼ぴっぴだし。貧乳ちゃんも今は競争に集中しよ?」
あやはきらりの方を向き、少しにらみつけながら
「前から、何度も言っておりますがその品のない話し方をやめてください。それに私は“貧乳ちゃん”じゃありません。マスターにも悪影響があるかもしれませんし、不釣り合いです!」
「なに、やんの?」
「確か、100m走出るんですよね? しかも同じレーン。なら話は早いです。ここで決着をつけましょう」
アナウンスが彼女たちの決戦の合図を示した。
『それではこれより、100m走第三レースのスタートです。おっと、蒲生さんと札杜さん、場外からいがみ合っての登場です。なにか因縁があるのでしょうか。楽しみとなりました。引き続き実況は和琴 速人がお送りします!!』
スピードクラッカーが学校中に響き渡った時、信男は少しびくっとした。彼は少し神経質になっているだけだろうと窓の外をのぞくと自分の番はまだ先だと安心した。
「とりあえず、この教室は大体見終わった。 次行こう、あれ? 先輩?」
教室はガラリとしていた。声も聞こえない。トイレか? なら、一つ声をかけてくれてもいいような気がするが、、どういった了見だろうと考えながら教室を出ると嫌々手を引っ張られている先輩の姿が見えた。声も出せずにこっちを見つめているようだった。信男は廊下を忍び足で彼女の足跡を追った。信男は教室に入っていった人影を確認してマジックステッキを取り出し、勢いよく教室のドアを開けた。すると二人の男が亜莉須さんを囲んでいた。
「何してるんだ、お前ら」
ポロっと一人ごとのように投げかけると一人が紙を投げつけてきた。特に何もなかったので三人の元へ行こうとすると何か引っ張られるような感覚が襲うと、教室奥の黒板の方へと訳も分からず戻されていた。そこには先程投げられた紙が張り付けられてそこから鎖のようなものが実体として信男の腕に巻きついていた。
「さすが、二階堂くんだね。さて、君が亜莉須の周りをうろちょろしてる便所バエかい?」
洗練された顔つきの男が信男の顔にものすごい距離感で詰め寄り、小声で話しかけてくる。さらに男は信男に詰め寄る。
「悪いけど、亜莉須は僕の彼女なんだ。君みたいなモブカスには手を出してほしくないね!」
付けていた手袋を片一方外し、信男の頬をひっぱたいた。手袋をつけ直し、亜莉須の元へと戻ると彼女のあごに手を当てながらささやいた。
「もう大丈夫だよ。君についた悪い虫は僕が制裁しておいたから」
亜莉須が信男のようにイスに縛り付けられながら、さっき信男をぶった男に嫌がるそぶりを見せて弱々しくつぶやく。
「裕也さん、私何度もあなたの事嫌だっていったよね? それに......」
もう一人の二階堂と呼ばれていた男がケタケタ笑いながら信男ををぶった男“裕也”に提案する。
「裕也さん、こいつにも何か、書いてあげましょうか? 例えば、“私、結城亜莉須は木村裕也の彼女です。”とか。」
おそらく木村裕也と呼ばれた洗練な顔立ちの男がにっこり笑いながら二階堂の首を掴み
「そんなの意味がないのは分かっているだろう? 君の<嘘>はいつか解ける。偽りじゃなく、本物の愛が欲しいんだよ。僕は!」
何かをしようとしている彼らに、拘束されている信男は必死に訴える。
「なぁ、亜莉須先輩嫌がってんだろ!? 確かにあんたの言ってることは分かる。けど、今やってる行動は矛盾してる!」
「なんでどいつもこいつも僕の愛の欲求を邪魔するんだ! いいかい? 結城亜莉須は僕の母になってくれる女性かもしれないんだぞ! 一度、僕が抱けば僕の良さをわかってくれたさ、どんな女でもね......。だが、母としての素質は誰も持っていなかった。だから今度こそ! 君は良いよなぁ! こんな女性と、いや、もっと多くの女性とイチャイチャしてちやほやされて、大変だろう? なぁ、いらないなら分けてもらいたいくらいだよ」
自棄な笑いを浮かべながら、彼女の手に触れようとした時、信男を縛っていた鎖の一つが解けていた。信男はうつむいていたがその表情は怒りをあらわにしているようだった。現出していたステッキで幻術を解くことに成功していた。
「俺の十八番のライアーズ・オブ・フィアーが破られただと!? こいつペキュラーか! 裕也さん......!」
「だから言ったんだ。君の<嘘つき>の個性はすぐに誰でもそれが嘘だと見抜ければ簡単に説かれてしまうと。で、何? 怒ってんの? お前も一緒だろ。ていうかモブのくせに女の子とイチャつくなよ。なんの魅力もないくせに......!」
彼が言ってるそばから信男はステッキを使わずに素手で裕也を殴りつけた。そして、深く深呼吸し、仁王立ちしながら
「俺が嫌いなものは世の中に二つある! 一つは野菜のピーマン! あれだけはどうも好きになれん。そして二つ目は、自分の方が力が強いからといって女性に無理やり近づいたり、顔がいいからって何してもいいと思ってる感違い野郎だ! いいか、女性は宝物だ。でもな、お前みたいな吐き気を催す邪悪な奴に渡してもダイヤモンドも鉛筆の芯にしかならないんだよ!!」
「殴ったなっ......!? ぼ、僕は生徒会副会長の木村裕也だぞっ!」
木村が、負け惜しみの一言を放つと今度は亜莉須先輩が縛られたままこちらに駆け寄ってきた。彼女はいつもとは違う勇ましい表情で信男を励ます。
「信男君、私は君の能力なんかで好きになってないよ。 君の本当の魅力が、その人に寄り添える優しい心が私を動かしたんだよ! だから、あなた自身の魅力で彼をやっつけて! 信男君!!」
信男に彼女の言葉が届いたのかはわからないが、信男はニヤリと笑って彼女のために少し魔法を変えて彼に呪文を唱えた。
「お前には女性のすばらしさを教えてやる! 永遠にな! ラブリーロイヤルリリースパイラル!!」
とてつもない光が裕也を襲ったかと思うと、彼の眼は曇ったかのようにハイライトを失った。そして「見せるな、女の子がどんどん僕から離れる!! 」「なぜだ! なぜ、君たちは女性同士でイチャついてるんだ? やめてくれ、こんなの生殺しだ!!」等とうわごとを言っていた。
二階堂は恐がりながら信男に近づき、何が起きているのか聞いた。すると信男は淡々とした声色で答えた。
「俺にもわからないが、彼は女性と触れ合うことにしか興味がないみたいだったから絶対に男性の介入を拒む百合の世界線の壁となって永遠にさまよってるんだろう。近づきたくても近づけない。終わりのない旅が彼の終わりだよ。君もそうなりたくないなら、俺の前から消えてくれ」
「このことは生徒会に報告する、いいね!」
と言いながら慌てふためき、尻尾を巻いた二階堂には目もくれず、亜莉須先輩に声をかけた。
「すみません、大丈夫でしたか?」
「怖かったよぉ~。信男君はやっぱり頼りになるなぁ(そういうとこ好きだよ)」
「えっ? 何か言いました?」
「ふふっ。ううん、なんでもないよぉ♪」
肝心な最後の部分を聞き取れていないのもまた、如月信男の変なところなのかもしれない。
そういえば今、女子100m走をやっているんだったと体育祭モードに切り替えた信男は亜莉須を連れて教室を後にした。
階段を下りていると解説のけたたましい音声が鳴り響いてきた。
『これは、予想外の展開ィィィ! 札杜さんと蒲生さんの一騎打ちと思われた矢先に、文字通り彗星のように走り去ったッ! この女性は、陸上部女子のエース、天河 美琴だぁ!!』
天河美琴は特に何の感情も出さずに走り去っていった。そのあっけなさにあやさんときらりさんは顔を見合わせ呆れ乾いた笑いを浮かべる。
「私達、何争ってたんでしょう? 信男マスターはみなさんに平等に愛をくれるのにそれを一人占めしようなんて......」
「あの先輩大人げなく速すぎっしょ! チーターが走ってきたかと思ったわ。ま、確かにモブッチはみんなを大事にする良い子だからみんな、ついて行ってるんだよね。あんたとの決着はまた今度にしよ、あ・や!」
きらりが札杜 礼のことを下の名前で呼ぶなんてことは今までになかった。それを聞いてか聞かずかは分からないが、信男は彼女たちが仲良くなったのを肌で感じ、満足していた。
信男がイケメンに思えてきたのは私だけでしょうか。
頑張れ信男、ハーレム王になるその日まで、、
次回「開幕! P-1グランファイト」




