104:如月信男、最後の戦い その4
決着!!
(決着まで書きたかったのでちょい長めです。すいません)
「殴ったとて運命は簡単に覆せんわ! 現に、今見た私の未来では私がお前たちの屍をしいている。つまり、勝利はまだこのカスター・D・フー・リンにあるということだ!」
「大きな運命は一人では変えられないかもしれない。でも、一人一人の今を変えれば未来も変わるんじゃないか? 俺だけでは未来は変えられなかった。だからみんながいたからおまえの最悪の未来はかえられたんじゃないのか?」
「くっ......!! 減らず口を!」
そういうと、カスターは研究所の壁を畳み返しのように翻した。天使ちゃんのいる培養液や機械をいじろうと駆け込もうとする。
「させるかあああ!!」
俺はできる限りのスピードでアスターに追いつき、彼がレバーを下げようとする腕をマジックステッキで止めた。今俺ができることはこれしかない。
「のぶっち! 手、じゃなくて脚貸すよ!!」
カスターの頭上斜め上からすがすがしいほどのキックがカスターの顔面を直撃した。きらりは小さくガッツポーズをして俺に手を伸ばした。崩れた態勢をきらりの手を借りて立ちあがりなおした。だが、カスターの目はまだ死んでいなかった。
「それはダミーのレバーだよ。私に必要なボタンは君が蹴り飛ばした壁にあるのだ!」
カスターが勢いよく押すと天使ちゃんの入っている培養液カプセルに電流が流れ始める。それが壁全体に張り付いている他のカプセルに広がっていき、俺たちの体に電撃を浴びせた。放電は外を貫き、地球全土に広まった。
「できれば、これは使いたくなかった。個性、ひいては異能力を完全に消す装置だ。被害は全部にひろがる。大丈夫だ。君たちをなぶり殺した後、また直せばいい」
天使ちゃんの培養液から気泡がゴボゴボとうごめいている。天使ちゃんが苦しんでいる......。また同じことをするだって!? 冗談じゃない。俺はマジックステッキを現出させようとした。でも、どんなに想像しても力んでもマジックステッキも、ラヴ・マシーンも現れることはない。礼もきらり、しいなや真子も同じように力が薄れているようだ。
「どうなってんのよ!」
真子が力を失っていることに動揺している。自分の個性に自信もあったのだろう。急になくなったらおどろきもする。
「知らないわよ! ねえ、先輩どうしちゃったの? しいなたち」
これは、カスターの思惑通りに慌てている間に俺たちがやられてしまう。ここは冷静になって陣形を組むんだ。どうやらカスターはさっきの電撃の衝撃で先ほどいたボタンのそばで倒れている。
「真子もしいなも落ち着いて! みんなでくっつくんだ。作戦を立てよう」
俺たちは、カスターからできるだけ離れた研究所の地下入口に戻った。
廉と愛海も加わって7人は固まって小声で話し合う。
「みんなも使えない?」
「全く使えないというより、能力が減退している感じです。以前のようなことは、もう、できないでしょう」
礼は少し言葉を詰まらせる。
「それでも、みんなでこの場を切り抜けよう。俺がおとりになるから天使ちゃんを連れて逃げるんだ」
俺が考える最善。彼女たちが天使ちゃんを連れて逃げればミッションは完了できる。なんとかするしかない。
「待って! ください......」
「止めないでよ」
「一人で戦うんですか?」
「一人で戦っているつもりはないよ」
「私はそういう精神論で話しているのでは......!」
感情的にたしなめようとする礼にきらりが止める。きらりはとても落ち着いた声で礼をなだめた。カスターは以前のびたままだ。大丈夫。
「なにが、大丈夫なのですか? しっかりダミー人形かどうか確認しなくちゃだめじゃないですか」
カスターは俺の首元に伸びた爪先をあてつける。スッと血が引くのがわかる。
「早く行って! こいつは俺がどうにかするから!」
「無個性のあなたがどうしようというんですか!!」
ぐがっっ......!!
カスターの強靭な膝蹴りがお腹を直撃した......。くそっ、いてえ。これじゃあ一年の時にペキュラーにやられたときのままじゃねえか。いや違う! これは俺が天使ちゃんを守るための戦い! 俺のためじゃない!!
「個性がなくても、お前を足止めすることくらいはできるっ!! うあああああああああ!!!」
思い出せ!! これまでの三年間を......! 篤井が体力づくりに協力してくれたこと、天使ちゃんや礼が現出魔をだすときに教えてくれた体術。そして、合宿で虹郎たちと戦った拳を!!
また、カスターの左膝!? ここは、左手で裁いて、右手親指で喉元と鎖骨の間らへんの弱点を突く!!
「グァッ! ゲホッゲホッ......。」
一応、利いてるみたいだ。
「どうだ、俺はただのモブじゃないぞ! 俺は、如月信男だ!!」
「ヒュー......。主人公とは思えない戦い方ですよ。個性のない、弱者の突きだ」
カスターの病的に白い顔が青ざめていく。俺は震える手を握りなおして気合を入れなおした。もう逃げない。俺の腕が、彼女を助けられるくらいの距離なら助けたい!
「それでも、お前の野望は止められる! 俺は、天使ちゃんを絶対助ける!」
俺は右足を使ってカスターの丸太以上に太い足に引っ掛けて倒そうとするが、まったく動かない。ドーピングでも強靭なのは変わりないのか。非力だ......。
「もっと鍛えろよ、信男」
降り立った大きな背中はカスターを張り手ではっ倒した。背中で男は堂々と語る。
「立て、信男。お前はここで倒れていいやつではない」
そこにいるのは、親父だった......。俺の親父の背中は、俺の姿勢が低いせいか大きく広く見える。
「分かってるよ。もう倒れたりしないよ」
「力、もうないよな......? 俺も、ほとんどない。だが、最後の残り火をお前に託す」
ないのに、託すのか?
「どういうことだよ」
俺が困惑していると親父は真剣な眼差しで見つめる。
「俺自身の能力は人を魅了し、人の個性を引き出す力。引き出す力は天使に受け継がれた。俺が背中を押してやる! だから、お前自身で切り開いていけ!」
そういうと親父は、手の平から羽を手渡そうとしていた。ぼんやりとオレンジ色に光る羽。親の力は借りたくない。でも、今はそれしかない。俺はその羽を胸に当てた。羽はスッと消えた。正直、力が戻ったのかどうかはわからない。
「みんな!天使ちゃんの方は?」
俺は天使ちゃんのいる方へ向いた。廉と愛海がずぶ濡れになった天使ちゃんを抱えていたのが見えた。
廉がこっちに気づいた。廉は俺に親指を立ててきた。 俺はほっとなでおろした。その時、体全体に痛みが走った。廉達が横たわって見える。いや、俺が吹っ飛んでいるのか。クソ......。脇腹を蹴られた。それでも立ち上がる。何度だって!!
「他人のことより自分の心配をしたらどうです? ボロボロですよ」
「ボロボロにしたあんたに言われたかないね」
右手に力をこめる。現出が初めて出た時を思い出すんだ。最初の! そして最後の現出の力を!!
「師匠!」
虹郎が大声で叫びだす。
「先輩!」
続いてしいなが涙ぐみながら遠くから声援を送る。背中がグッと押されるような気がする。
「信男先輩!」
真子がちゃんと名前と先輩呼びしたのって初めてくらいじゃないか? まあいいけど。胸が熱くなる。
「のぶっち!」
きらりはこちらに向かってくる。ここは俺に任せてくれ! 俺はもう心配されるほど弱くはない!
「信男さん!!!」
きらりを制して一番大きな声で背中を押してくれた。きっと俺が一人でこいつを倒せると思ったのか、信頼してくれたのか、どちらでもうれしいが......。
「如月信男くん! 君たちに未来を変えられるわけがない!」
「見つけるさ! 個性がなくても、個性がつよくても俺は俺だ!!」
力を込める。最後の現出が沸いて出てくるのを感じた。俺自身の恋の嵐が、これまでの青春の台風が力となって右手にまとわりついて光り輝く。
「ラブリー・ロイヤルフローラル・ハリ、ケーーーーーン!!!」
カスターの顔面に直撃。カスターは完全に沈黙していた。
最後の力が、カスターめがけて放出される。こちらの力が抜けるのを感じる。それは終わりを告げる合図でもあった。
残りあと3話!! 最後までよろしくお願いします!
次回「如月信男、最後の戦い その後」




