19 俺、死亡!
「何を隠そう俺は勇者だ。逃げるのは今のうちだぞ」
たぶん勇者なのだ。ライトも勇者といっていたからな。
「は? 逃げようとした奴が言うセリフじゃないな?」
「ぐっ、確かにそうだよな……」
最初から、強気で勇者っぽくしておけば、少しぐらいは余裕ができたかもしれない。ただ、相手の強さがわからないので、勇者だとしても怖気ない可能性も十分にある。
ここは、相手が親切な奴であることを信じて、どのぐらいの強さであるか聞いておくか?
「殺される前に、知っておきたいんだが、あんたらはどのぐらいの強さなんだ?」
「どうぞ、逃げないからアナライズをしてみれば?」
「いや、俺ってアナライズを人にできないんだよ」
「プッハハハハハハ、笑わしてもらいましたよ。姫様、護衛に選んだ人が悪かったですな」
リアって姫だったのかよ。姫様が庶民の生活を見たくて、フードをかぶって街を散策したら、暗殺者に狙われるっていう定番の奴?
バカじゃん、護衛を一人ぐらいつけろよ。そして、逃げ出したんなら、優秀な騎士様がすぐに探して見つけろよ。姫様が死ぬぞ。
そして、この世界においての、アナライズは小さな子どもでも可能である。人に対するアナライズに関しても、ほとんど人はできる。
もちろん、好き勝手にみられるわけでは無く、力量差があればはじかれるし、魔法アイテムを使用して、防いだりすることもできるらしい。
訓練の休憩中にライトに教えてもらいました。
「じゃあ、こちらから送ってあげますよ」
名前 ××××
HP :332
MP :50
攻撃力:130
守備力:155
名前 ○○○〇
HP :280
MP :165
攻撃力:115
守備力:125
二人とも名前が偽装されていてわからない。こちらをバカにしていると言っても、手の打ちは見せてこないか。
そして、「○○○○」はMPが高いので魔法系、「××××」はどちらかというと近接攻撃系だと予想できる。
スキルの詳細はわかないので、不用意に近づくのは危険だが、中隊長に一歩及ばないといった程度の強さのようだ。
「そのステータスでよく威張れるな」
一般兵に比べてはるかに強いことを考えれば、威張れるかもしれないが、こいつらは俺が持っているヘビに比べて、よわすぎる。
力量差が近い事を考えれば、傷つけられる可能性もあるが、ヘビ達で撃退できるぞ。
しかし、俺は死ぬかもしれない。
「なに? アナライズ」
「どうだった?」
「チョー、弱い! 子どもレベル」
暗殺者どもは、俺の許可もなく、アナライズを仕掛けてきた。
「おい、俺はアナライズを許可してないぞ!」
「だったら、力量差で防いでみろよ。ザコ」
俺が弱いことは確かなので、言い返せない。
「あんた、本当にそんなに弱いの?」
「弱いぞ」
「街の人達が勇者だって言ってたじゃない!」
「知らん、あいつらが言ってるだけだ」
「あんたさっき、かっこつけながら『何を隠そう俺は勇者だ。逃げるのは今のうちだぞ』って言ってたじゃない」
「はったりだよ、はったり」
俺たちが言い争っていると、それを見て暗殺者どもは、薄気味悪い笑い声をあげている。
「つくづく面白い、コンビですね。ただし、そろそろ殺させてもらいます。時間がかかっても報酬は同じですので」
二人が息を合わせたように、急速に迫って来る。
「ぐっは」
俺は血を吐いて、そのまま倒れ込んだ。
暗殺者side
今回の仕事は簡単な上に、暗殺相手が姫だけあって、報酬金額が高い。護衛らしき奴がいるので、どうかと思ったが、アナライズをすると驚くほど弱い奴だった。
そして、弱すぎるので、俺が一刺しするだけで、殺せると思ったら、こいつは俺が刺す前に死にやがった。
更に、死んだばかりだというのに、若干だが死臭まで漂ってきて、最初から死んでいたかのようだ。
「キャー」
ターゲットの姫様は、目の前で人が急に死んだので驚いてうずくまってしまった。
「おい、お前何をした?」
「いや、俺は何もしてねぇ、何もしてないのに死にやがった!」
「本当に死んだのか?」
「見た目は死んでるように見えるが、確認するか?」
「頼む」
「アナライズ」
名前:赤野大将lv.17
状態 : 死亡
アナライズをしてみると、本当に死んでいることが分かった。嘘だろ?最初から死んでやがったのか?
もしくは、恐怖でショック死したとか、おとぎ話で恐怖で死んだ奴がいたが、本当に死ぬ奴がいるとは思わなかった。
「こいつ、マジで死んでやがる!」
「どういうことだ」
「もしかして、ネクロマンサーが操っていたとか?」
「どうしてそんなことを?」
全く、わからない。なぜこの男が急に死んだのか一切わからない。周りに何らかの気配がないか探してみるが、周辺には気配を感じない。
もし、リビングデッドに姫を守らせていたとしても、ここで動かなくなる意味が分からない。
リビングデッドなら、八つ裂きにされても良いので何が何でも俺たちの攻撃を防ぎにかかるはずである。俺は分からなくなってもう一度、相棒に話しかけた。
「相棒、どうしてここで活動停止したとおもう?」
「……」
「無言でどうした? 相棒?」
「……」
なぜか、相棒が硬直していた。
ヒロマサside
ヘビ達は死なないだろうが、俺の力量差を考えれば、不意に攻撃が当たっただけでも死んでもおかしくない。
そこで、俺は考えた。攻撃される前に死んだフリをすれば、そのまま見逃してくれるのではないか?
でも、微妙な演技をしても演技だと思われて逆に殺されかねない。つまり徹底的に死亡する。
俺の「ヘビの主」の能力を使えば、それが可能だ。ヘビの主の能力はヘビが得た経験値を一定の割合もらえるものだが、実はレベルが上がって得た能力がある。それはヘビの能力を一時的に借りることができる事だ。
俺は、セイブシシバナの擬死スキルを借りて、死亡したのだ。そして、見事、相手は死んだと誤解して隙ができた。
俺は何も言わなかったが、セイブシシバナがこっそりと、暗殺者の一人の足にかみついことで、毒が効いて動きが停止した。怖すぎ
ハッキリ言って、おっさんの足は臭そうなので、噛ませたくはなかったが、今日だけは我慢することにした。
「ふわー、よく寝た!」
「よく寝た? 死んでただろうが?」
「残念だな、そのまま暗殺を実行しておけば、俺だけは殺せたかもしれないのにな、チェックメイトだ!」
もう一人の男にも、セイブシシバナがかみついて、動きが完全に停止した。
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