17 謎のフードの女
今日は異世界に来て初めての完全な休日で、朝から自由に過ごして良いらしい。
ライトに一緒に出かけないかと誘われたが断った。断るとライトはちょっとだけ寂しそうな顔をしていたが、お前なら皆が誘ってくれる事だろう。大抵の奴はあの顔に騙されてライト信者になるのだと俺は思った。
別にライトと一緒にいる事自体は、苦痛ではないのだが、彼と一緒にいると、知らない人に話しかけられまくるので、鬱陶しいし、街に出ても自由に散策できない。てなわけで、今日はライトとは一緒に行動しない。
そして、今日は頭にハイピー、腕にクレアチン(カリキン)と、エリナ(セイブシシバナ)を連れて、街に来ている。他のヘビ達は兵舎でお留守番である。あまり多く連れて歩いても管理が大変だからだ。ただし、トルコミルク(ミルクスネーク)だけは念のためにヘビ収納に入れて連れてきている。
もちろん、お金は持ってきている。兵舎にいると食事を支給されるので、ある程度のお金が溜まった。
俺が街を散策していると、冒険者と思われる顔面に十字の傷があるおっさんと、髭を蓄えたおっさんが、フードを深くかぶっている不審な女に話しかけている。
「おい、フードなんか被って何処に用があるんだ?」
「あなた達には関係がない事ではありませんか」
微かに聞こえてくる声は、若い女の声である。粗暴な冒険者がフードをかぶって女に絡んでいる所を見ると、一見すると恐喝にも見えなくもないが、町の中でフードをかぶっているような奴はいないので、フードをかぶっている方が異様であり、いかつい冒険者の方がどこにでもいる見慣れた風景である。
そして町の治安は兵士だけでなく、冒険者が関わることも多いので、不審な人物や物があれば、真っ先に対処するのは当たり前なのだ。この場合は恐喝しているのではなく、街の治安のために働いたということだろう。ただし顔面が異様に怖い。
ライトなら、仲裁に入るかもしれないが、俺は面倒なのでそんなことはしない。
「さっきから不審なんだよな。悪意はないが仕事なんだ。フードを取りなお嬢ちゃん」
「不審というなら、あのヘビを頭にのせたお方はどうおっしゃいますか?」
フードをかぶった女は、俺の方を指さした。確かにフードをかぶった奴もいないが、ヘビを連れましている奴も周りにいない。知らない奴が見たら不審者であるというのもうなずける。
「げぇ、俺に振って来るのかよ」
「確かに、見ない風貌だな。ちょっときな」
十字の傷の冒険者が俺を呼んでいるので、俺は仕方なく、冒険者の2人組に近づいていく。
「あっ、そういえばこいつは、ヘビ使いの勇者ヒロマサさんじゃねぇですか」
髭の方が俺の事を知っていた。
「勇者かどうかはおいとくとして、俺がヒロマサです」
「そうなのか、知らなかった。すまなかった。あんちゃん」
「いえどうも」
イノシシの一件のこともあり、俺の名前が多少広まっているようで、一人が俺を知ってくれて助かった。これで面倒な取り調べをされなくて済む。
「ちょっと待ってください。あの男が不審者じゃないですって!?」
「そうよ。あの人はライト様が認めるお方よ。お嬢ちゃんはどうしてもフードを取りたくないのか?」
「はい」
「どうしてもってな仕方ない。念のために話しかけただけだし、ヘビ使いのヒロマサさんに任せますか」
「えぇ、なんで俺なんですか?」
不審に思って話しかけた奴を、そのままにしていいのか?勇者の俺よりもフードの女の方が多分強いぞ。
「勇者なら安心だ。頼むぜ!」
俺はこうして、フードを深くかぶった女の世話を頼まれてしまったのだった。数日前に召喚されたばかりなのに信頼が高すぎじゃないか?
ライト様が信頼寄せるという効果が強い過ぎるのかもしれない。
勇者だからって全員がいいやつとは限らないと思うし、強くなるととたんに権力を振りかざして来る奴もいるし、信頼しすぎない方が良いと思う。
その点、ライトはどんな奴でも、笑顔で接しているので、やっぱりアイツは勇者なんじゃないだろうか?
「仕方ないから、行きたいところまで送るよ」
「私は街を周りたいです!」
「街をめぐりたい、予定があって街に来てるんじゃないのか?」
「はい、これといった予定はありません」
コイツは一体、何のために街に来ているんだ。森にすむ民が初めて街中に出てきて浮かれているとか?
フードを深くかぶっているので、顔の全体像は見えないが、チラリと赤い色の髪の毛が見える。街中を見渡しても赤い髪の毛の人物はいないので、もしかすると赤い髪の毛が不吉とか?
別に、この国の風習なんてしったことではないので、どうでもいい話だが
「腹減ってないか?」
「はい、お腹が減りました。しかし、私はお金をもっていないので……」
女のお腹から、グゥーと音が鳴った。
「仕方ねぇから、奢るよ。俺の知ってる店でいいか?」
「よろしくよろしくお願いしますわ」
俺は、イノシシ料理を提供してくれるゴンのお店に行くことにした。もしかするとゴンが今日も奢ってくれるかもしれないからな。
お店の中に入ると、厨房にいたゴンと目があった。
「ヘビ使いのあんちゃんと、そっちの嬢ちゃんは彼女か?」
「もし、俺の彼女なら、こんな変な恰好はさせない。コイツとは今日であったばかりだよ。
美味い店といえばここだから、寄らせてもらったんだ」
「なんだ、気に入ってくれたのか? うれしい事行ってくれるぜ。毎回とはいかないが今日も奢ってやるよ!」
「おお、ありがとう」
狙い通り、イノシシ料理を無料で提供してくれるらしい。もし通常料金払えと言われても、美味いから来るけどな。
「お前よかったな。座れよ」
「お前とは失礼でありませんか?」
そういって女は、俺と同じテーブルに座った。
「名前知らないから仕方なくないか?」
「そうですね。ではリアとお呼びください」
「じゃあ、俺はヒロマサと呼んでくれ」
数分ほどまっていると、いろいろな料理がテーブルに運ばれてきて、そのたびにリアは料理に目を輝かせた。
そして、おいしそうに食べている。そして、ヘビ達もおいしいそうに料理を食べていた。
「おいしかったか」
「初めて食べた。おいしかったありがとう」
「よかったな」
ゴンに礼を告げて店を出ると、「次はあのお店に行きたい」とリアが道具屋を指をさした。俺もちょっと行ってみたかったので一緒によってみることにした。
「いらっしゃいませ あらヘビ使いの勇者様じゃありませんか」
「どうも」
ゴンのお店の近いということもあるだろう。このお店のおばちゃんも俺の事を知っていた。
「回復薬みたいなのってありますか?」
「それならそこの棚だよ」
そこには、体力回復薬や魔力回復薬、肉体強化薬などいろいろな薬が販売されている。その名から良さそうな薬を数本購入手に取った。
リアと言えば、キラキラ光っている石がついているアクセサリーの前にいた。やっぱり女の子というのは、アクセサリーが好きなんだな。買ってやるつもりはないが……
「これください」
「はいよ。それとお嬢ちゃんはどのアクセサリーが気に入ったんだい」
「えっと、これ気に入ったんですが、お金がなくて……」
「なんだい、そんなの勇者様が買ってくれるよ」
「いや、買う気がないだが」
「あんた、そんな事言うと、女の子からモテないよ。安くするから買ってやりな」
「……」
「毎度ありがとね」
有無を言わせないおばちゃんの圧力によって、今日あったばかりの女に、緑色の石が付いたアクセサリーを購入させられ、ほとんどの財産を失った。
俺って、この世界に来てモテる気なんてサラサラないんだけど。
そしてこのアクセサリーについている石は、魔晶石と言って、色に対応した効果が得られ、緑は治癒力が増強するらしい。そんな能力があるなら俺が欲しいといいだせない雰囲気
俺たちは、道具屋を後にした。
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