13 ヤバイ奴が逃げ出す
ライトとマリで連絡をとり、昼から一緒に食事になったらしく、昼の食事になる前までは、兵舎の訓練所でライトと特訓をすることになった。
訓練所に入ると、ライトの所にすぐに兵士たちが集まって来る。
「おう、彼がライトが担当することになった。勇者様かい」
「ええ、勇者のヒロマサとハイピーだよ」
「よろしくな」「よろしく頼むぜ、勇者様」「邪神を弱めるにはあんたの腕にかかっているぜ」
ライトの周りに集まった、兵士たちが俺とハイピーに、挨拶をしてくれた。勇者には相当期待されているようだ。期待されても困るのだがな、あと昨日の段階でハイピーが勇者で、俺は勇者の使いの者になったはずだが、これだと勘違いされないか?
「いや、その説明だと俺が勇者みたいだろう」
「形式上はハイピーが勇者となっているかもしれないが、僕は君を勇者と認めているからね」
何がどうなって俺を勇者と認めているのかわからないが、ライトから多少なりとも信頼があるということだろうか。
それにしても、兵士が集まって来るな。女性兵士が少なからずいるが、ライトが目を向けるたびに「キャー」なんて言葉が聞こえ、それににこやかに対応している。やっぱり俺が思う勇者像はライトだな。
「ライト、モテモテもだな」
「ある程度地位があるからモテるのかな(苦笑)」
「ルックスだろ」
「誉めてくれてありがとう」
「そういえば、なんでこんなに人望があるのに俺のサポートなんだ」
「勇者のサポートも重要な仕事だよ。
うれしいことに複数の隊が申し出てくれて、僕の元に付きたいという人が多かったんだけど、配属が決まりきらなくて、教育に向いてそうだから勇者のサポートになったんだ」
あくまでも俺の予想だが、ライトは人気すぎて、どこに行っても揉めると判断された結果、どこにも所属しない勇者のサポートとなっただろう。
こんなに人気のライトと2人で食事なんてマリは大丈夫か、今日一緒に食事に行くとかなったら、他の女が嫉妬に狂いそうなものだが……。まぁ俺は途中で逃げるし関係ないか。
「あっちの隅の方で練習でもしようか」
ライトが、誰もいない隅の方に指さしていると、他の兵士が間に入ってきた。
「おい、ライト俺らが譲るからここ使えよ」
「いいのかい、ありがとう」
よりにもよって譲ってきたのは、誰からも目に付く中心部分だった。やめてくれよ。俺は一般兵よりもステータスが低いんだぞ。
そして、譲り去っていく兵士が「俺ライトと話しちゃったよ」と小さな声で言っているのを聞いてしまった。乙女か!
「俺はなんの特訓をすればいいの?」
「テイマーは攻撃が受けないことが重要になって来るから、攻撃をよける練習しよう」
「おう」
こうして、俺はライトの攻撃を少しよけては休憩し、少しよけては休憩していた。
「おい、あの練習なんだ。簡単そうだが」
「馬鹿、勇者様とライトの練習だぞ、簡単そうな動きに見えて相当な負荷がかかっているはずだ」
「やっぱ、俺たち一般兵には理解できない次元にあるんだな」
いえ、違います俺のステータスが低いので、簡単な練習をしているだけです。俺は多くの視線を感じながら練習を続けた。早く逃げたい。ヘビとふれあいたい。ミルクスネーク出したら全員逃げそうだけどな。
そして、2時間が過ぎて、そろそろお昼時になった。
「ヒロマサ、練習はこのぐらいにして、シャワーでも浴びて食事に行こう」
各自でシャワーを浴びてから、もう一度集合しマリが待っているらしい、中央広場の噴水前に向かった。そして、噴水の前に着くとマリがかなりにオシャレをして待っていた。
「マリ、待たせてしまったかい」
「いいえ、私も今来たところです」
嘘だな。と思ったが、そこは黙っておこう。
「どこに食事に行こうか」
「はい、私のお勧めの場所があるので、一緒にいきましょう」
ライトとマリが仲良く話しているなか、俺は無言で後ろをついていく、まるで背後霊のようだ。
『ストーカーみたいだね』
「ハイピー、悪口は言っちゃだめよ」
『はーい』
全く、ハイピーは可愛いのに、ちょくちょく俺をディスって来るようになった。
そろそろ逃げ出そうかな。そして、俺は静かに懐の中にホンジュラスミルクスネークのトルコミルクを召喚した。
そして、トルコミルクに懐から逃がす。
「あっ、ヤバイ、ニゲダシテシマッタヨ。オイカケルヨ」
トルコミルクが懐から逃げ出した瞬間、周りに毒威圧の効果で恐怖が伝染する。
「なんか、カタコトじゃない?」
「先に行ってくれ。アイツハ、オレデナイトツカマエラエナイヨ」
「僕たちがどこに行くかしらないだろ!」
俺は、トルコミルク追いかけていく、後ろを振り返ると、マリが親指を立てていた。わざわざ逃げ出したことをわかってくれたようだ。まあライトは頑張ってくれよ。
トルコミルクが通ると町の人が悲鳴を上げるので、すぐさまに俺はヘビ収納でしまった。ちょっと効果が強すぎるな。
ちょっと町を散策してから、兵舎に戻るとしますか。町を見ると武器やレストラン、服といろいろなお店がある。爬虫類ペットショップがない所が、残念なところだ。
そして、大通りを歩いていると、イノシシのような生き物が檻に入っているのを見かけた。
「おう、あんちゃん立派なイノシシだろう」
檻の前に立っていたおじさんが、イノシシを見ていたら、話しかけてきた。
「そうですね。どうして生け捕りにしてるんですか?」
「そりゃ、生け捕りにして、ここで解体すれば新鮮な状態で客に出せるだろ」
「へぇ~、今日は金持ってないけど、また食べようにこようかな」
「おう、待ってるぜ」
「そういえば、なんか黒い粒子が出てない?」
「馬鹿言うな、それりゃ進化する時の症状じゃねぇか、脅かすんじゃねぇよ」
「いや、どんどん濃くなってるんだが」
「うそだろ……逃げろあんちゃん、だれか騎士様を呼んでくれ」
モンスターから、どんどんと黒い粒子が出てモンスターのサイズが大きくなっていく、イノシシを入れていた金属製の檻がミシミシと音を立てている。
「おい、この檻って壊れないよな」
「そう信じたい」
俺も、おじさんも檻が壊れないことを信じたかったが、それは無常な願いだった。すぐさまにバゴーンっとすごい音を立てて、檻が壊れた。
これは、ヤバイ奴が逃げ出してしまったようだ。
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