ホラー映画みたいだった……(新入り銀河パトロール隊員談)
神様が悪いのか、オレが聞かなかったのが悪いのか、この際置いておこう。
今わかっているのは、どうやらオレが転移した世界は『異世界ファンタジー』ではなく、話を聞く限り、所謂宇宙を舞台にした『スペースオペラ』的な世界のようだ。
そしてオレは何故か『宇宙海賊』とやらが作成した『違法なクローン人間』で、このままでは『廃棄処分』という、詳しく知りたくもない事態が待っているってことだ。
……何がお詫びにチートマシマシの異世界転移だ、いきなり命の危機じゃねぇか!?
やっぱりどう考えても、悪いのはあの神だろ!?
ああっ、クソ!!
今はそんなこと考えてる場合じゃない!!
転移先の状況はおおよそ分かった。次に確認すべきは自分自身の状況だ。
さっきから試してはいるが、どうやら体はちっとも動かせないようだ。かといって拘束されているわけではなく、時おり体にあたる気泡から推測して、どうも水のような液体に漬かっているようだ。SF映画でよく見る、培養槽みたいな物か? 抜け出すのがますます困難な……。
……実験用のクローンとか言ってたな。そもそもなんでそんな所に紛れてるんだ、オレは?
『異世界転移』と言うからには、生前の肉体で他の世界に渡るんじゃないのか? まさか異世界転移して、培養槽にドボンってことも無いだろうし……。
或いは意識だけ異世界転移して、このクローンの肉体に意識が宿ったって線はどうだろうか? それなら体が動かない理由も少しは分かる。今まで一度も動いたことのない体なら、上手く動かせなくて当然だ。
……まずは体を動かすことから始めよう。
いきなり手足は厳しいかも知れないから、先ずはまぶたを動かし、目を開けるところから始めよう。
ゆっくり、ゆっくり、動け、動け……。
うーん、ピクピク動いているのは分かるけど、上手く開かないな。なんだろう、初めて見る窓を開けようとするようなもどかしさ……。左右に開けばいいのか、上下に開くのか迷っているような……。
……そもそも、この体って本当に人間ペースの体なのかな……。
常に目が開けっぱなしな、昆虫の複眼じみた目だったらどうしよう……。
い、いや、いくらなんでもそこまで悲惨な異世界転移は……。
……でも、考えてみれば、そもそも人間の体とも言ってなかったような……。
だ、ダメだ、ダメだ、考えるな! 恐怖で気が狂いそうになる!
大丈夫、きっと人間の体だ! まぶたに集中するんだ!
……おや、ドアが開いたような音が……。
また誰か来たのか?
コツコツと歩く足音を響かせ、こちらに近づいて来ている。
「すまない、私ではお前達をどうもしてやれない……」
お、この声は……。
先に聞いた二人組の内、新入りと呼ばれていた方の人だな。
……あれ?
なんでオレ、培養槽の中にいて、声がこんなにハッキリ聞こえるんだ? えきたいの中にいたら、普通、外部の音なんか聞こえない筈なんじゃ……?
……!?
ひょっとして、チートで貰った『魔法』スキルか!?
魔法的な何かで聴力が強化されてるとか!?
もしそうなら、筋力を強化して動けるようになれないか!?
「……せめてお前たちに自意識があるなら、救うこともできるのだが……」
おお、マジか!!
よし、新入り君、ちょっと待ってくれ!!
今から目を開いて見せるから!!
ちゃんと目覚めるから!!
落ち着け、まぶたの筋肉に集中して……!
……まぶたって筋肉ついてんの……?
……あれ、これ無理なんじゃ……?
「……本当にすまない」
うおっ!?
足音が遠ざかっていく!?
ちょっ、おい、
『待ってくれ!!』
「……っ!? な、なんだ!? 誰かいるのか!?」
っ!?
今、オレ声を出せたのか!?
いや、どっちでもかわまん、ひょっとしたら最後のチャンスだ!
余計なことは考えずに、目に集中して……!!
「こ、この辺りから、何か聞こえたような……ま、まさか、クローンの誰かが!?」
開けーーーーー!!!!!
<⚫><⚫> カッ!!!
「ひっ、ひゃあぁぁああっ!?!?!?」
うぉ、近っ!?
新入りさん、培養槽ごしとはいえ顔近っ!!
そして、目が痛い!?
明るっ!?
っ!? い、痛い痛い痛い痛い痛い痛いっ!?!?!?
ショックで体が反射で動いたけど、そのショックで全身の筋肉が腓返りを起こしたのかのように痛い!?
培養液の中で悶え苦しむオレと、腰を抜かして悲鳴をあげる新入りさん……。
いや、早く出してくれ、新入りさん!?