聞かれなかったし、後が押してたので……(神様談)
完璧だった。
完璧な下準備だった。
……その筈だった。
「えっ、オレ死んだの!?……トラックに? 事故で!?」
「……手違い!? ちょっ、ちょっと待てよ、それはあんまりな……お詫びにチートマシマシの異世界転移? 」
「……行く行く! もう全部許しちゃうw」
「まずは魔法の才能! 圧倒的な魔法の才能がまずは欲しい!」
「……異世界転の冒険物なら、やっぱり剣とかも振るってみたいな。近接武器の才能もプリーズ! 遠距離は魔法があるしねw」
「……あ、そうだ。あれ、ある? ほら、アイテムを無限に収納したりする、アイテムボックスだか、そういうもの……ある? じゃあそれも!」
「……あとあれだな……病気とか怖いから、毒や病気のような異常に耐性とか欲しいんだけど……問題ない? じゃあよろしく!」
「……言葉や文字がわからないと、コミュニケーションに不利だから、そっちも……勉強しろ? いや、オレ英語の成績壊滅的だったし、多分無理だから、お願いします!」
「……動物好きとしては異世界の動物と触れあって仲良くなったりしたいから、動物に好かれたりすることって……モンスターテイマー? それで代用? じゃあ、それも追加で!」
「……最後にやっぱステータス的なものはチートにして欲しいな。只、最初っから強すぎると、オレも楽しくないから、最初は程々に強く、あとから伸びる成長チート的な物も……もう無理? そこを何とか! これが最後で良いから!」
「……あ、忘れてた!!『鑑定』先生!!『鑑定』先生もお願いします!!……さっきもう最後だって言っただろう? いい加減にしろ?」
「……うううっ、手違いで死んでしまったために、病気の両親と婚約者を残してきてしまった!! ああ、何て可哀想なことをしてしまったんだろう!!」チラッ
「婚約者のお腹にはオレの赤ん坊が!! 両親の入院費の支払いが!! ああ、一体どうすればいいというのか!? オレが手違いで死んだりしなければ……!!」チラッ、チラッ
「……両親とっくに死んでるだろう? 大人の玩具は孕んだりしない? 童貞乙?……お願いします、お願いします、本当、これが最後の最後なんで、お願いします!!」
「……魔法と武器の才能、成長上昇補正、ステータス異常耐性、モンスターテイマー、言語理解、アイテムボックス、鑑定能力……まさにチートのバーゲンセール!! イケる、これならどんな異世界ファンタジーでもバラ色人生間違い無し!」
「いやー、無理言ってすみませんでした! でも、お陰で安泰な第二の人生を送れそうですわw」
「向こうの世界に行って落ち着いたら、お礼に祠でも作ってお参りさせて頂きますよw」
「……あっ! そう言えば忘れてました。すみません、お名前をお伺いしてもよろしいですか? オレは……興味ない? 後が詰まってるからさっさと転送させろ? ……あっはい、わかりました……」
「それでは神様、色々ありがとうございました!! 新たな世界で頑張ってきます!」
※※※※※
……何処か遠いところで、話し合う声が聞こえる。周りがとても静かな為、その話し声はとてもよく聞こえる。
「……しかし、どうなるんだ? コイツら『クローン』は?」
「……正式な届け出が出ていない、『違法実験クローン』だからな……気の毒だが、『廃棄処分』だろうさ」
「……胸糞悪いな。『宇宙海賊』風情が一体何の為に、態々クローンを用いた人体実験をしてやがったんだ?」
「宇宙海賊とか言っても、最近は海賊業以外にも様々な違法行為を、組織的に請け負う海賊も増えているそうだ。『銀河大戦』が終結して、各国が戦争の為に振り分けていた宇宙船を、治安維持活動に割り当てられるようになってから、海賊行為も大分やりにくくなったそうだ。その為、海賊も新たな資金稼ぎのために、こう言った違法実験の下請けを行うようになったとさ」
「……下請けってことは、黒幕がいるってことか? 一体どこのどいつが……」
「……さぁね。何処かの製薬会社か、軍需産業か、或いは惑星国家か……。どちらにせよ、そこから先は俺たち下っ端『銀河パトロール隊員』の管轄外さ」
「……コイツら、意識はあるのかな……」
「自意識の類いは無いそうだ。夢心地のまま死ねるのは、せめてもの救いだろうな」
「……おい、そんな言い方っ!!」
「じゃあ、お前がコイツら引き取るか? 百人近い植物人間を? 俺たちの安月給じゃ、当然養いきれやしないぞ?」
「……っ!!」
「……諦めろ。この仕事は、諦めも必要だ。割りきれないと、いつか痛い目をみるぞ、新入り……」
「……くそっ!!」
話し声は遠くに離れていき、オレは自らの置かれた状況を何となく理解した。
(……取り合えず、どう考えても異世界ファンタジーじゃないよな……)
そういえば、どんな世界か聞いてなかった……。
……確かに聞かなかったけどさ……。
一言くらい、言ってくれよ!?
『剣と魔法』って時点で、オレが勘違いしてるの判るだろ!?
オレは別れ際に感じた神様への感謝も忘れ、大いに恨んだ。