月が何だって、僕は私を
あなたはこの物語の通りすがりの人。あなたは、女の子の異常さに振り返る。
雨がアスファルトに拡散し、ナメクジが通った後のように艶かしく光る。その中で、ポツリと佇む女の子。
水色のパステルカラーの傘をさして、暗い空の下、ただただ笑っている。
女の子は浮かれている。だって、だって、大好きな彼とデートの真っ最中だから。女の子は楽しげに、一人でケラケラ、コロコロ。やっと理想の人に会えたのだ。ずっとずっと待っていた。大好きな彼が自分から話しかけて来るのを。
ただ、女の子を周りの人は不審な目で見ている。一人で笑っている人はなんとも不気味でしょう。
でも女の子は気付かない。大好きな彼に夢中なんだ。大好きで大好きで、もう自分自身を彼の体内に飲み込んで欲しいぐらいで。
やっと彼が言ってくれた。本当に欲しかった言葉。
それは、女の子の、目の色、声色、表情、全てを一瞬で変貌させて言った言葉。
「僕は私を乗っ取ろう。」
書いていて楽しい二重人格です。
自分の中でもうひとつの人格を作って、その人格に恋をした女の子の話。
でも、「彼」が本当に女の子に恋をしていたかは分かりません。もしかすると、肉体の所有権が欲しかっただけかもしれない。解釈は自由にしてもらって構いません。
では最後に。読んで下さった貴方に感謝。