わたしの永遠の故郷をさがして 第三部 第一章 第九十六回
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「こんなやり方、ひどすぎるじゃない。」
ポプリスが猛烈に抵抗していた。
「あんたに、遊ばれてるだけだわ。実に心外だ。こういうやり方では、あんたは口を出さないでほしい。だいっ嫌いよ。それか、要求通り、地球に本部を置かせてくれるなら、話は違うわ。それなら、好きになってあげる。」
「一応言うけど、火星政府の立場から言えば、地球上に何らかの本社とか基地とか置くのは認められない。まあ、あなたの『王国』だけは、行き掛かり上認めるが、それ以外はダメだ。ぜったに。な?」
ダレルがリリカに向いて言った。
「まあ、そうですね。そこに関してはまったく同感です。地球は、ニュートラルな状態であってほしい。」
「じゃあ『王国』もやめてくれない? それなら、まだ考える余地はある。」
ポプリスが口をとんがらせて言い張った。
「まあまあ、いいかな・・・」
キラール公が出て来た。
「どうぞ。」
ビュリアが応じた。
「難しく考えないで、我々を、君の『王国』の中の企業として入れてくれたらよいではないか。聞くところによれば、南島には、あたらしい自由の国を作るんだろう?企業誘致も必要だろうに。」
「それは、いささか遠い将来の話ですわ。まだ、早すぎです。」
「どのくらい、早いの?」
「千年位ですわ。」
「こらこら、テキトーに言うんじゃないわよ。一年とか二年なら理解したげるけど、そんな「クリセアーナコンダ」みたいなことじゃあ困る。」(クリセアーナコンダは、クリセ平原に生息した体長20メートルに達する長~い生き物である。一応、退化した手と足もある。)
「あの、良いですか?」
この席には、なぜか女将さんもマヤコも呼ばれていたのだが、まずはマヤコが発言した。
「あの、ポプリスさんたちは、非合法の団体ですよね。」
「それがなによ!」
ポプリスが、猛烈な勢いで突っかかった。
「いえいえ、批判するんじゃないんです。あの、ここにはいないけど、海賊さんや、それと、ビュリアさんの『青い絆』とかも、非合法団体でしょう。いちおう。」
「むむむ、そこを言われたか。まあ、そうですわね。忙しくて合法化なんて考えてなかったわ。」
ビュリアが答えた。
「そうですよ。その通りだ。」
キラール公が、とにかく一応、この際、マヤコを持ち上げたのである。
「ですから、一定の条件とかは、やはり、要るとは思いますが、この際、まずは武装解除もして、合法化のうえ、『新しい王国の組織』に組み込んだらどうなんでしょう?」
「こいつの部下になるのはしゃくだ。絶対に嫌だ。」
ポプリスは、よほど、ビュリアが嫌いらしい。
「きみ、多少の譲り合いは必要だよ。ねえ、ビュリアさん、『新王国』だって、まったく無防備な訳にはゆかないんだろう。そこに、『青い絆』も『海賊』も、我々もまた、『王国』の防衛組織のひとつとして入れて下さい。表向きは『商社』でもなんでもいいから。」
キラール公が、やけに下手に出てくる。
「私の理想からは、離れて行ってしまいますわ。まあ、本来の私の考えに従って、このまま強行しようとすれば、それは、実は、なんの問題も無く実行はできるしな・・・・。あなたがたを、尊重はしたいけど、いざとなったら、実力行使も実にたやすい。そこも、よく知っておいてほしい。』
ビュリアが言った。
「でも、あんたがみんなをわざわざ、ここに集めたんだろう。つまり、その気があったわけさね。話し合いで、まとめたい、というね。」
女将さんが図星を言った。
「まあね。じゃあ言います。これから申し上げます条件を、あなた方がすっぽりと受け入れて、再開した総会で、その方向で全体が合意するように協力してくれること。無条件に協力するのよ。ババヌッキ社長さんにもお願いします。あなたの影響力を使ってください。議長さんも、本来中立なんだとしても、方針を承知でやってください。」
「まあ、ぼくは、事業が再開できるのなら、それだけでもうありがたい事だから。」
隅っこに座っていた社長が答えた。
「なんだか、いや~な感じだ。この際、先に降りた方が良かないか?」
ポプリスがキラール公に提案した。
「それに、海賊どもがいないしね。悪仲間と言えば連中だし。」
「あれ、きみいつも、軽薄してたろ?」
キラール公が、つっついた。
「ばか。言うな。それ。」
「ふんふんふん! あなたがた、ここが、いったい、どこだと思ってるの?」
ビュリアが右手の人差し指を振りながら言った。
「どこって、また、あのバカでか、宇宙船の中だろうに。」
「な~るほど。いいわ、ほら、全面開放!!」
周囲の、すべての、壁だと思っていた白い境目、が、すらっと無くなったのだ。
いや、透明になったのかもしれない。
とにかく、彼らはみな、まったくの宇宙空間に座り込んでいたのだ。
それも、どうやら、それも、通常の宇宙空間ではなさそうだった。
「ふん、また映像のマジックかい?」
ポプリスが、まるで、あえてさげすむように言った。
「あそこ見ろよ。」
ダレルが叫んだ。
「なんと、宇宙船だ!」
ここまでじっと黙っていた『議長』閣下が声を上げた。
「ふん。気に入らん。」
ブル博士は、不機嫌なままつぶやいた。
「宇宙空間で、宇宙船と生身の人間がこうして共存できるのかね。できるなら、ここは地上だ。ただし、地面がない。」
もう一人の博士が目を丸くして言った。
「さあて、みなさん、降りてらっしゃいな。」
ビュリアが、二艘の海賊宇宙船に呼びかけていた。
さっきまでいなかったはずのパル君が、空いていた席に、いつの間にか座っている。
その後ろに、ウナは、ベッドごと、姿を現していた。
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実際のところは、なんてこともなく、ふいに、ヘレナリアが食堂に来たのである。
ただし、今回はおやじさんはすぐに、店を臨時休業にした。
もちろん、のりちゃんが同席している。
ヘレナリアとの『会談』を希望したのは、のりちゃんなのである。
「何か召し上がりますか?」
「じゃあ、うなどんをお願いします。」
「あいよ。うなどんね。」
『ウナドン』といっても、遥か未来の地球に存在した『うなぎのどんぶり』とは、まったく違うものである。
『ウナ』と呼ばれる火星産の淡水魚を使った、火星北部地域の郷土料理であるところの、ドンガーナ料理の事を言う。
お魚の肉がたっぷり入った、スパゲッティのような食べ物なのだった。
しかし、なぜ火星のお魚が、ここで食べられるのかは、この親子にもまったく謎なのである。
ここに移転してきた最初頃に、やけくそで発注してみたら、きちんと入荷した、というような、いきさつなのである。
その際、ヘレナリアに聞いても、帰って来た答えは、同じだった。
「発注したら、ちゃんと入荷するのです。どこから来るのかなど、考えたこともございません。」
だから、今日のこの会談にしても、同じことの繰り返しであろうことは、だいたい、疑いようもなかったのだ。
それでも、のりちゃんは、どうしても確認しておきたい事があった。
もちろん、キッチン少佐の事である。
ここから旅立つべきなのか、このままここに、残るべきなのか。
もう、そろそろ、決めなくてはならないからであった。
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「幸子、出てこないなあ。」
幸子さんが、ぐずっています。
「このあたりは、まだ幸子さん、いない時代だからね。」
「それでも、なんとでもなるじゃん。やましんさんがその気になれば。」
「いや、まあ、そりゃあそうですけど。」
「ハイパーお饅頭・・・・・」
「わかった。わかりました。まあ、ちょっと待っててください。けっこう、これでもすっごく悩んでるんですから。登場人物が多くなり過ぎちゃて。」
「それで、世の中どうなるもんでもないでしょうに?」
「まあ、そうなんですけど。お家の中が、ますますごちゃごちゃになるから、嵐は困るんです。」
「ほら。やぱり。じゃあ、楽しみにしてま~~す。第二王女様も、暇だなあ~~、とおっしゃってましたよ。」
「むむ。あそこは、もっと怖いな。」
「はい。」
なんだか、前にもまったく同じ会話をしたような気がするなああ・・・
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