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わたしの永遠の故郷をさがして 第三部 第一章 第九十五回


 *************   ************



「こんなに、何もない、何も起こらない平和な世界で暮らしていていいのかな。」


 ダンクが疑問を呈したのである。


 確かに、何も起こらない。


 もちろん、金星人同士の、多少のいざこざはある。


 それは、町内会での意見対立のようなものだ。


 しかし、施設の故障とか、不具合とかのテクニカルな問題は、ヘレナリアがすぐに解決してしまう。


 物質的な過不足は、まったく起こらなかった。


 非常に不思議なことなのだ。


 どこにも工場が見当たらないのに、運送体系があるようでもないのに、なんでも必要なもの、欲しいもの、希望すればすぐに生産されて、運ばれてくる。


 不要なものは、住宅の廃棄ルームに入れれば、回収車も来ないのに、いつの間にか、きれいさっぱり消えてしまう。


 そのゴミが廃棄されている場所とか、埋め立てられた場所とかは、惑星上には一切見当たらない。


 いまだに、『空中都市』で暮らしたいと言って、外には出てこない住民もいる。


 『空中都市』の最大の弱点は、可能な限り無害化はしているが、多くの廃棄物を産出する事だ。


 ところろが、ここでは、その廃棄物自体が、そのまま、きれいに消えてしまう。


 こんな施設が金星にあったら、それはもう、状況は大幅に違ってきていたかもしれない。 


 

  **    **   **   **   **



 第一、ここに移住して以来、新しい子孫は生まれるが、死者は全く出ていない。


 これは驚異的なことがらである。


 誰にも、到底理解不能なことだった。


 相当な年配者も、それなりに存在していたのだけれど、ここに来てから、みな驚くほどに元気になった。


 悪性のがんなどに侵されていたひとたちも、いつの間にかその腫瘍部は消えてしまい、何も問題無く、元気になった。


 大気は常に理想的な状態に保たれ、飲み水も美しく、美味しかった。


 高い山脈があり、彼らが住む陸地以外は海に覆われている。


 適度な雨が降るし、山岳地帯では雪も降る。


 が、すべてはどうやらヘレナリアの監督下にあるとしか思えなかった。


 彼女が出す、『惑星天気予報』は、100%的中する。


 それは『予報』じゃなくて、計画的な『予定』だと思われた。


 人が遭難するような、極端な気象現象は、まずは起こらない。


 すべてが、ちょうどよく調整されている。


 万が一、海に遊びに行って、うっかり溺れかけても、溺死してしまうような事態は起こらなかった。


 何かの力が働いて、すぐさま救助されてしまう。


 自動交通システムが完備されていて、希望するするところには、いつでもすばやく移動できたが、事故は皆無だった。


 はっきり言ってしまえば、ここでは、金星人たちが『仕事』をする余地は、どこにも、何も、なかったのである。


 食堂とか、サービスが必要なところでは、ヘレナリアが生み出す『実体イメージ』が、何でもしてしまう。


 唯一の例外が『空港食堂』だった。

 

 

       **  **  **  **  **


    

 医療機関は、あとで述べるように、あまり大きな必要性はなかったが、それでもいくらかのトラブルは起こるから、ヘレナリアが『病院』を用意はしていた。


 『空中都市』の病院は、必要ならいつでも稼働できるが、需要が少ない事もあり、空中都市『ワン』にある『大中央病院』以外は、大部分が休止状態になっている。


 また、『大中央病院』も、研究仕事の方が、圧倒的に多くなってきていた。 


 多数いた入院患者の多くが、直ってしまうか、医療措置の必要が無くなってしまったのである。


 

  **  **  **  **  **



 エネルギーも物資も食料も、必要な分だけ、どこかで生み出され、きちんと供給されてくる。

 

 しかし、これでは、住民がなすべきことがなさ過ぎて、問題が生じてしまう。


 そこで、ヘレナリアは、一般住民の為に、それなりの『仕事』を生み出さなければならなかったが、彼女が作り出す世界のバランスを、あえて崩すことはしたくなかったのか、事実上趣味的な範囲の仕事が多かった。


 生活の最小単位に至るまで、需要に合わせた必要物資が、趣味の分野に至るまで、完璧に自動的に供給されていた。


 経済学者が想定する、理想的なモデル社会である。


 現実に、ここは、天国であり、極楽であり、理想郷だった。


 もっとも、科学者たちは、それでもこの世界の謎を解こうと研究を続けていたが、それ自体が、正しい行動なのかどうかは、時間が経過すればするほど、疑問に思えてくるほどだった。


 大きな成果は、何も得られていなかったのだ。

 



  **  **  **  **  ** 



 実際のところ、ここでは、感染症なども、まったく発生しなかった。


 病気の原因となる物質や微生物は見当たらなかった。


「我々は、すでに生きていないんじゃないのかな。」


 ダンクは、さらに未来を推しはかりながら、話をしていた。


「ここは、死後の世界だよ。きっと。火星人が言っていた、火星の女王さまの『真の都』とかいう場所じゃないかな。永遠に、このままとか。つまり、未来はない。このままなんだ。」


「いいえ、生きてます。あらゆるデータが、そう言っているもの。確かに老化の進行が限りなく遅くなっているようには見えるけれどね。太陽も実際に活動している。見かけの映像じゃない。内部で核融合が行われ、エネルギーが放出されている。ただし、あまりに理想的にだけど。なんで、こんな宇宙がうまれたのかも、まだ説明がついてはいないけど。」


 現実派のナナが言った。


「でも、とにかく、我々、すべての生体はちゃあんと生きている。心臓が動き、血液が循環し、内臓も脳も、しっかりと、活動してるわ。金星猫も鳥も生きてる。」


「うんじゃ、この先どうなると、いうのかい?」


「そりゃあ、まあ・・・長生きは出来そうね。」


「それだけ?」


「まあね。今のところは。もう少し様子を見ないとわからないわよ。」


「なんで、多くの人の治療不能だった病気が治ったの? 我々の排せつ物や廃棄物などは、どうなってるの? どのように大気は循環してるの?エネルギーはどこから得ているの? 」


「ヘレナリアに聞いたら?」


「聞いたよ。とっくに。」


「納得できなかった?」


「だって、納得がゆく説明がないのだもの。『すべてが、最初からそうなってるから、そうなんだ。』みたいな感じなんだよね。それじゃあ、科学じゃない。君は聞いたのかな?」


「まあね。確かに、聞いた。直接にね。まあ、あなたが言う通りで、科学的な説明は、実際、なかったわね。というよりも、ヘレナリア自身が、そこんところの事情は知らないみたいね。あたしは、そう思ったんだな。ここには、まず第一に、歴史がない。我々が来る以前の歴史というものが、ほぼまったくない。唯一の例外が、『駅前食堂』よ。でも、彼らがここに来たのは、さまざまなデータや、のりちゃんの話などから推測して、約1年ほど前と見られる。それ以前は、それこそ何もなかった。もしかしたら、この星もなかった。いや、この宇宙もなかったのかも。火星の女王さまの関与があると、わたしも、今でもそう睨んでるけど、そこは聞いても、『知りません』だけ。」


「うん、やはりなんだか、かなりおかしいよね。ぼくたちは、あたかも生きてるように見えてるだけなんじゃないか。夢を見てるような状態なんだ。あるいは、幻覚の中にいる。いいかい、火星の女王の与える処罰の中には、そういうのが、確かあったはずだ。本人の意識では、50年間刑務所で苦役に服したが、じつは一晩だけしか時間の経過はしていない、というもの。ここは、それと同じものなんじゃないのかな。」


「ううん・・・違うようにも思う。スケールが違い過ぎよ。個人的にそうした処置は可能でも、この宇宙都市群全体を、そんな状態にしてしまうなんて、あり得ないわ。我々は、間違いなくここで、生きている。今は夢も見てないし、拘束もされていない。映画の中の世界のような状態ではないと思うな。あきらかに、

これが現実なのよ。」


「いや、やはり、架空の世界だと仮定した方が、最初からの筋がすべてすっきりと、通るんだよ。間違いなく、バーチャルな世界だ。ヘレナリア自体も、きっと実体じゃない。それだけが、唯一筋が通る回答なんだ。」


「じゃあ、キッチンは?」


「あいつは、だから、この仮想の世界から、脱出しようとしたに違いない。そこを意識してたかどうかは知らないが。そうして、成功したのさ。きっとね。たぶん・・・」


「証拠は?」


「ないよ。まったくね。だからこそ、そうなのさ。証拠がないのが証拠だよ。すでに、ここに存在していなことが、その証拠なんだ。ここは我々の、生活する当たり前の物理的な現実じゃないんだよ。総統たちは、きっとそう見てるんだ。だから、キッチンが何をしたのかを、今も、必死で調べてるんだ。」


「ふうん・・・それも推測だけどね。まあ、一理はある。でも、そこんところの情報管理は固いから、何ともいえないな。でも、あなた、どっちにしたって、また旅に出る積りでしょう?」


「うん。」


「じゃあ、その時になったら、分かるかもしれないね。」


「あいつが、成功したのかどうかも、ほんとのところは、わからないけどねぇ。もしかしたら、消滅したのかもしれない。だから、ぼくたちの出発は、終わりの始まりを意味するのかもしれないな。いや~~~、わからないよ。実際のところ。」


 彼は、両手を広げた。 


「じゃあ、ここに残ったらいかが? このままね。天国よ。」


「いやあ。ぼくは、やっぱり帰りたいよ。元の宇宙に。いくらか闘いとかあってもね。ぼくらの仕事がここにはないもの。」


「ふうん。まあ、でも、いつ出発するかも、まだ、決まっていないみたいね。手こずってる。」


「いくらなんでも、いきあたりばったりじゃあ、困るからね。まあ、慎重にはやってほしいが、もう少し情報が欲しいよなあ。この際、情報開示請求するか?」


「いいわよ。その話、乗ってあげるわよ。10人必要だ。」


「すぐ、集まるさ。」


  


    *******  *******  *******



「キッチン少佐の研究室は、端から端まで、何回も、調べ尽くしましたよ。」


 情報局長が総統に報告していたのである。

  

「そうか。で、ぼちぼち、成果はあったのかな?」


「まあ、そうですな。あった。確かに、あったと言えばあったのです。今回やっと、ね。たぶん。」


「おかしな言い方するな。」


「すみません。実は、見つかっていなかった、彼の研究データが出て来たんですよ。まったくバカみたいな話で、天井裏にガムテープで張り付けてありました。天井板の隙間の間にね。気が付かなかったですよ。迷惑な事ですな。」


「解析できたのかい?」


「ええ、何重にもロックしてましたが、なんとか読み取りには成功しました。しかし、大きな問題がたくさんあります。」


「たとえば?」


「まあ、たとえば、彼が使ったエネルギー源ですな。ここでは、入手不可能です。」





   ************   *************



 『空港食堂』の、のりちゃんは、ヘレナリアに面会の申し込みをしていた。


 一般の市民が、ヘレナリアに直接会うこと自体は、別に禁止されてもいないが、さすがに「いつでもどうぞ」という訳にはゆかないようだ。


 ヘレナリアと上層部は、市民がヘレナリアに面会する方法を取り決めていた。


 話をしたい、主な内容を書き添えて、公共データベース装置で、申し込みをする。


 することはそれだけで、しごく、簡単である。


 あとは、返事を待つだけだ。

 


 どうせ、しばらく時間はかかるに違いないと思ってはいたが、その内容にへレナリアが興味を持ったのか、意外にも、すぐに許可が下りてきたのである。




 ************   ************




 




 


  

 

 












 









 










 





 




 



 

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