わたしの永遠の故郷をさがして 第三部 第一章 第九十回
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金星が作った第9惑星の『周回宇宙ステーション』は、その時点で『月』の裏側に出現した。
言ってみれば、味方がほとんど逮捕された現場に、突如現れた、ちょっと間抜けな刺客という事である。
つまり、残念なことに、『周回宇宙ステーション』は、大して武装はしていなかった。
本来、表向きはレジャー施設であり、実体は研究施設である。
武器は基本的に邪魔である。
しかし、まったくない訳でもなかった。
高濃度の『謎の放射線』を抱え込んでいる。
適度に放射すれば、『光人間』の製造につながるが、あまりにその価が高いと、人間の体は、即時に消滅する。
使いようによっては、武器になるのだった。
とはいえ、それは手の内をさらすことにもなる。
「司令官、様子が変ですな。お出迎えがない。ということは・・・」
「やられたと言う事だ。撤退、直ぐ帰るぞ。」
『おっと、そうは行きませんよお~~!!』
警部2051の部下たちが、待ち構えていたのである。
『『宇宙空間破壊活動予防協定』により、逮捕します。』
「なんだ、こいつらは。」
司令官がいぶかった。
アリのように小さな円盤が、多数取り巻いてきたのだ。
しかし、それらは、やがてすぐに、身体が大きくなっていったのだ。
気が付いたときには、もう、『宇宙空間トラック』くらいの大きさのパトカー群団に、すっかり取り囲まれてしまっていたのである。
『司令官は、ただちに出頭してください。無視した場合は、お仕置きとして、強制的に回収します。』
一台の宇宙パトカーが、目の前で、猛烈に巨大化した。
『周回宇宙ステーション』を、完璧に飲み込むくらいになったのだ。
そうして、その口をぐわっと開けて、待ち構えたのだった。
「司令官、どうしますか?」
副官が、静かに尋ねた。
「ふん。ばかばかしい。いいさ、行ってやろうじゃないか。自爆回路起動!」
「え?!・・・・わかりました。」
「乗員は、全員、すぐに『月』に降りろ。なんとかなるさ。がんばれよ。」
「司令官。了解しました。」
司令官は、小型宇宙艇に乗船し、ステーションから宇宙空間に出た。
反対側からは、まもなく、まず外部からは探知できないはずの『忍者脱出艇A』と、同じく『B』が、『月』に向かって降下して行った。
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ウナは、気絶したまま、救護室に移動された。
「まあ、このとこころ、ウナは寝てばっかしだねぇ。」
マヤコがウナを見ながら、小さく言ったのである。
パル君は、ベッド際にかじりついている。
「うな、うな、大丈夫?」
ウナは返事をしなかった。
けれども、息は十分にある。
「ふうん。肉体的には、大きな損傷は見られないですなあ。これは、なんでしょうかなあ??」
ロボット医師は、不思議そうに『自動診断治療器』を覗いていた。
「精神的な過負荷が掛かったのかもしれない。ちょっと、様子見ですなあ。『人間』という生き物は、脆弱ですからなあ。もっと、頑丈な保護体で、身体が覆われるべきですなあ。」
「はあ・・・・」
マヤコが、あやふやに応じた。
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司令官は、すぐに『警部2051』の宇宙パトカーに囲まれて、それから、そのうちの一台に保護された。
宇宙艇に乗ったまま、にである。
すっぽりと、大きな細胞に包み込まれた、というイメージだった。
そのパトカーは、そのまま地球近傍にいた『本体』に近づき、やがて吸収された。
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月に降下した副官たちは、すぐには行動しなかった。
慎重に周囲を窺っていたのである。
「上空から観察されたところでは、ここから150キロほど向こうに、何かの施設があります。クレーターの底にあるので、その詳細はよく見えません。これはしかし、金星のモノではないでしょうなあ。一切のデータがありませんから。」
「じゃあ、火星人だろう。」
「まあ、そうですけどね。でも、火星のデータにもないものです。」
「そいつは、ハッキングしたデータ?」
「ええ、そうです。」
「じゃあ、あやしいよ。情報部のデータで、全部正しかったものは少ないもんな。」
「まあ、全部間違いでもないですが。」
「まあな。そこが、いやなところだ。かえってややこしい。」
「偵察機を飛ばしましょうか。」
「ああ、やってみよう。自爆は?」
「あと、1分。」
「よし。」
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司令官は、時計は一切見なかった。
絶対に怪しまれるから。
「いらあ、しゃいませ。ああ、金星語は、火星語より難しいです。」
『警部2051』が言った。
姿は、まだ見せていない。
もっとも、なにが彼の本当の姿なのかは、まだ謎のままである。
『ぼくは、宇宙警察、警部2051であります。宇宙の治安を維持するのが役目故、不必要な交戦活動は、のぞま、ないです。温泉はいかがですか?』
「はあ??? 『オンセン』?」
「そう、『温泉』、金星の方は、『温泉』がお好きだと聞きました。ぼくも好きですよ。まずは、ひとっプロどうですか。あなたは、科学者でしょう。軍人じゃない。」
「まあ、そりゃあ、好きですよ。温泉は、金星の文化的財産だから。」
「ああ、そうそう、それです、文化的財産、です。あ、自爆はしませんから、ご心配なく。あなたの宇宙すてーしょううんは、回収します。あとで、一緒に検証しましょう。」
「む! 部下たちは?」
「ああ、地球の『月』に無事降りましたよ。ご心配いりません。」
「むむ! 無念。」
「そんなことないですよ。いいですか、あなたたちは、『光人間』の技術は、自分たちの発明とお思いでしょうし、まあ、そうなんですがね。しかし、宇宙は広い。大概の技術というものは、すでに、どこかで発明されていたと考えて、間違いないです。ただ、もちろん、それぞれの個性や思い付きはある。一緒にそこは解明しましょう。将来の役に、たちますよ。きっとね。」
「ふん。・・・・・温泉はどこにあるの?」
「ご案内しましょう。いやね、ビュリアさんからもヒントもらって、まあ、新しく、作ったんですよ。あの方は、すごい人ですよ。仲良くしていて、損はないです。」
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