わたしの永遠の故郷をさがして 第三部 第一章 第八回
人類が、地球の上で初めて開く、大掛かりな、当面の地球の未来を決めるための「宇宙会議」が始まろうとしていた。
ここは、「超豪華温泉旅館『地球』」から、廊下伝いに直接行けるところにある『国際会議場』である。
これまでは、火星人が「温泉秘密会議」を行うために利用したり、火星の大会社の主催する「行事」に使われたり、お金持ちの逃げ場所だったりと、まず火星人以外が利用することはめったになかった。
別に禁止されていたわけでも無いが、「ホテル」に比べると、金星人などには、かなりの高額にもなるので、火星人以外からは敬遠されていたのである。
ただ、ババヌッキ社の社長などは、金星にも火星にも本社がある「多宇宙籍企業」で、女将さんとも懇意であったので、結構お忍びでは利用していた。さすがに公用では、金星政府の顔を立てる意味でも、使いにくかったが。今回は、仕事半分、家族サービス半分というところだったが、やはり「ホテル」の方に予約したのだ。
会議場の雰囲気は、急ごしらえのはずなのに、それはもう豪華な「宇宙会議」というにふさわしい雰囲気になっていた。
多くの会場担当者たちが、忙しく仕事をしていた。
マスコミの関係者も、多く集まっている。(ただし、その大部分は、「アブラシオ」に乗っている人々だったが。)
なんと、会議場の外には「ファーストフード」のお店まで、沢山並んでいる。
サンドイッチ、トースト、麺類、揚げ物類、そうしてジュース類。
アルコールは、夜まで禁止だそうだが。
さらに、「地球みやげ店」とか「火星特産館」や「金星物品館」、さらには「おもちゃ屋」さん、なんというのも出ていた。
ただ、考えてみれば、このさき、この移住者たちにとっては、もう二度と見ることがない光景なのかもしれないのだ。
もちろん、「ババヌッキ社」のブースもしっかりあった。
今回は、出席者の子供たちも同行できることになっていたし、会議の出席者じゃなくても申し出さえすれば、ここには来ることができた。
そこで、抜け目のない女将さんは、即席の遊園地や、博物館、映画館、コンサート会場、図書館、まで作ってしまっていた。大浴場も、時間限定だが、一般開放していた。
ただし、迷子になられるとやっかいなので、管理用のマイクロチップが各自に埋め込まれた。
用が済んだら、自動的に消滅するものだ。
「いやあ、すごいなあ。君、どうする?」
ババヌッキ社長が、奥様に尋ねた。
「会議を聞いてもいい。観覧席からの一般発言も出来るらしいしね、でもこの子と、ここで遊んでてもいい。これ通信機。持ってて。」
「まあ、しばらくは会議場にいますわ。退屈になったら、お外に出ましょうか?」
「うん。それでよろしい。」
娘は父の口真似をした。
「ははは、そうか。じゃあ、まあ会場に行ってみよう。」
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ダレルとリリカは、しかし、のんびり散歩とは行かなかった。
各種レベルの運営代表者達は、すでに会議室に集合を求められていたのだ。
ただし、ここは、運営の在り方を打ち合わせするところであり、意見を言い合う場ではない。
それでも、華やかな会場の外とは違って、すでに、なにか通常ではない緊張した雰囲気が漂っていた。
しかし、ダレルが、例の調子でゆったりと説明をしていた。
おかしな緊張感をもたらさないという意味では、ダレルは上手だったのだ。
「お配りした資料4です、タイムスケジュールです。まあ、上手く行くかどうかは、わかりません。内容が内容なのでね。筋書きはまったくありません。皆様は運営担当者という事で、大変ですが、どうか大事だけは起こらないように、ご協力を。アンドロイドの会場係の皆さん、ええ、手を上げてください。はいはい、を多数導入いたしております。青いバッジの皆さんです。資料5の通りです。なので、ひ弱な人間(笑)の皆さまには、基本的には、あまりご負担はかからないとは思いますが、感情的な問題が起こると、アンドロイドの担当者では荷が重い場合も考えられますので、そこは人間様にお願いします。このバッジの赤ランプがついたら、表示された場所に急行してください。さて、で、特に議長さんは今回大変ですが、よろしくお願いいたします。それでは、本部推薦の本会議議長と副議長、をご紹介いたします。」
そこで、二人の男女が立ち上がった。
「ええ、なんの因果か、今回議長を仰せつかりました、カタクリニウクであります。公職から引いて久しく、今は単なる旅行客の身でありましたが、このような事態とあいなり、老骨にはやや厳しいが、最後のご奉公と覚悟を決めた次第であります。よろしく。」
「わたくしは、リリカです。火星の首相とは言いましても、まだほんの若輩であり、皆さまのご支援が欠かせません。どうぞ、よろしくお願いいたします。」
「ええ、なお、正式な議長選出までは、わたくし本部長ダレルが、議事を進めさせていただきます、ご異議がありますか?」
「異議なあーし。」の声が飛んだ。
「では、分散会の問題です。本日、この後本会議で、一定の進行が了承されましたら、本格的な分散会を行いますが、それは、明日になります。もしかしたら、本会議が今日は終了できなくて、明日午前中にまでかかる可能性も多分にあります。多分そうなるだろうと、予想はしております。なので、日程的には明日の午前中は開けてあります。まあ、そう言う意図だと、皆さん見てくださるでしょう。
早めに終了したら、午前中は各自の研修時間です。各自ミーティング可能な場所も用意していますから、本部で受付して、入ってもらいます。担当の方よろしいですか?まあ、慌てる理由はないでしょう。それよりは、よく話し合う方が重要です。ええ、それから・・・・・」
ダレルは、要領よく本会議の進め方を決めて行った。
「・・・・次回の運営会議は、明日朝7時半からです。早いですが、がんばってください。なにしろ、食事に関してはだけは、『温泉地球』の女将さんが腕を振るってくださることになっていますから、圧倒的な期待が持てますから(笑)。では、各自準備をお願いいたします。なお、今夜は飲み過ぎないようにお願いします。あと、各リーダーの方、お願いします。」
運営担当者たちは、グループに分かれて、行動のチェックを始めた。すでに、本会議開始2時間前だった。大忙しになるのは、目に見えていた。
先遣隊のアンドロイドは、もう会場に入っていたが。
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「まあ、各自の頭の回転は倍くらいにしてあげたから、準備も進むでしょう。」
ビュリアが言った。
「それ以上の手は、誓って加えて無いのですね?」
アニーが念を押した。
「もちろん。一切ね。ただダレルなどは、いつものままよ。まあ、あれで、優秀な事は確かだからね。」
「ええ、それはそうです、人間としては確かにそうです。さすが、ヘレナの息子さんです。」
「ふうん、何が欲しいの?」
「まさか、コンピューターに欲しいものはありません。ただ、「くまさん」がもう一人いると、心が和むかなあと、あの会場のお店にいる「くまさん」ですが・・・」
「はあ、昔から、あなたは「ぬいぐるみさん」が好きだからね。いいわ、あの大きいのを買って置いてあげるわ。」
「ども・・・」
アニーが「ぬいぐるみ」が大好きな事は、まあ、ヘレナ以外は知らないことだ。
大体、コンピューターが、どうやって「ぬいぐるみさん」と遊ぶのかは、まだ秘密事項である。
しかしこれは、コンピューターが感情移入しながら、自由に遊ぶことを意味している。
まあ、温泉の良さが分かっているほどのコンピューターだから、さほど、おかしくはないのだが。
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ところが、気をよくしたアニーは、見たことがない、まん丸な宇宙船が、太陽系に侵入してきたことに気が付いていた。
「あれは、なんでしょうか?」
「ふうん。ちょっと、映像にして。」
第九惑星の軌道の、反対側の領域だ。
かなり大きい。地球の「月」くらいはある。
「なにあれ、多分、実は真っ青な色なんだろうけれど、惑星とかじゃあないな。工作物よね。あなた分かる?」
「いやあ、周囲からは生体反応なし。内部は見えません。ガードしてるんでしょうね。宇宙クジラの一種でもないですね。しかし周囲に、さかんに探査行動を行っています。見に行きますか?」
「そうね。どうも、怪しい匂いがするわ。この太陽系に外宇宙から、宇宙クジラとブリューリ以外の何かが来たなんて初めてだもの。ちょっと見に行ってみる。あと、よろしく。」
「はいはい。でも、危ない事はしないでくださいよね。」
「ええ、大丈夫よ。」
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