わたしの永遠の故郷をさがして 第三部 第一章 第八十六回
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キラール師団のうち、副師団長に従うものは、全体の70%に達していた。
師団長の制止に応じたのは、残りのわずか30%にすぎず、いかに師団長の人望がなかったかが明白となった。
さすがの師団長も、これを恥じて即刻辞任した。
そうして、本部に帰ってしまった。
しかし、キラール公は、自分がまだ動けない身である。
副師団長に、お得意のサーチライト戦術で、再度呼び掛けたのである。
『あなたを師団長に任命する。ただちに帰隊されたし。』
これは、通信リレーされて、監視役からただちに副師団長に報告された。
「ふん。いまさらなにを。『ド・カイヤ集団』は方向を見誤った。」
彼は、そうつぶやいただけであった。
なにしろ、彼には、非常に良い待遇が、ビュリアから提示されていたのである。
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ウナは、指令席にどんと腰かけていた。
そこに、パル君とマヤコが現れたのである。
しかし、ウナはほとんど反応しなかった。
「ねえ、ウナ、どうしたの。ぼく、来たよ。話をしようよ。」
パル君が呼びかけた。
「そなたは、身体があるウナの子供である。今のウナは、もう、光人間となった。」
「でも、ぼくは、ウナの子供だよ。光人間だって、人類なんだろう? じゃあ、おんなじじゃないか。」
パル君は、さっそくアレクシスの痛いところを突いた。
「それは、そうである。しかし、身体がある人類は、進化の度合いが低い。したがって、その家族関係は一旦解消されるのである。のであるのである。」
ウナは、アレクシスのように話した。
「じゃあさあ、光人間は、どうやって子孫を残すのさ?」
マヤコがパル君の援助に入った。
「光人間は不滅である。生殖活動は行う必要がない。人間が進化するのある。」
「じゃあ、人間が滅亡したら、それでおしまいじゃん。古~い光人間だけが残って行く。進歩はもうない。おしまいの人類だ。」
「ぎゅわ。いやあ、そうではないぞ。『光人間』こそが人類進化の極限である。その上はないのである。」
「ふうん・・・・なんか、さみしいなあ。味気ないなあ。もう上がないなんて、やっぱおしまいだね。」
「むぎゃ。いやいや、そうではないのである。そなたも、やがて光人間になるのであるぞ。熟成が遅いだけで、その進化はすでに始まっているのだ。そのような考えは、やがて改まるのであるのであるのだ。」
『そうだそうだ。そうなのであるのだったりもする。』
レイミの声が、どこからともなく聞こえた。
「あなたたち、そんなので楽しみなんかあるの? スポーツできないでしょ。美味しいものも食べられない。あ、そうそう、お酒も飲めないじゃん。最低よね。ね、パル君。」
「うん。おいしいババヌッキジュースも飲めないんだ。」
「そうそう、ババヌッキ酒だって飲めない。」
『いや、そうではない、われわれは、そうした趣向上の弱点は気にしないが、しかし現在、その問題も解決に向かっているのであるのであるのであるのだ。ウナは、その大いなる実験でもある。あ・・・言い過ぎた。』
『ばっかじゃないのであるのだったりしてね。まあ、よかったりもする。問題はないのだったりするのだ。』
「かれらは、だいぶ、焦点が、ぶれてるんじゃないかなあ?あれどういう意味?」
マヤコがパル君にささやいた。
「ううん・・・ねえ、うな、ウナが実験なんだったら、ついでに試してみる?お酒ならあるよ。ビュリアから、もらったから。使えって。」
ウナの目の前に、ビュリアが急遽取り寄せた、強力な『ババヌッキ酒』のボトルが現れた。
小さなカップも付録している。
栓は、しっかりと閉まったままである。
「まあ、おいしそう。」
ウナがつぶやいた。
「ウナは、お酒飲まないんだけどな。・・・」
パル君がマヤコに小さく言った。
「ああ、そうだね。やっぱり、操られてるんだ。」
アレクシスは、もし毒でも入っていたら大ごとだ、という理由で、お酒の中に即座に飛び込んだ。
レイミも続いた。
人間の目には見えてはいない事だ。
『これは、良い酒であるぞ。いい泳ぎ具合であるのであるのだ。』
『ちょっと、味わってみたかッたりもしたりする。』
『じゃあ、ウナに飲ませて、感じて見るのであるか?』
『このさい、やってみましょう。だったりもする。』
ウナは、お酒のボトルを手に取って、周囲をぐるぐると回しては、眺めはじめた。
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副師団長の軍は、しかし、かなり劣勢になっていた。
このままでは、撤退を余儀なくされそうだった。
警部2051は、しばらくはアブラシオとの連絡を取りながら様子見していたが、先に副師団長側が敗退してはまずいので、子分どもに出撃を命じた。
小型宇宙パトカーが、何万機も母船から飛び立った。
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「またまた、変なのが出て来たわ。まるで、火星アリみたい。うわ。すごい数。」
「むむむ。あれに何ができる?」
「さあ・・・でも、あなたの親衛隊にまとわりついてるよ。あ・・・止まった。ほら?動かなくなったじゃないの。」
「むむむ。エネルギーを吸収されたな。まずいな。吸血性のパトカーか。」
「ほら、どんどんやられてるわよ。」
「むむむ。仕方がない。ここは、親衛隊長に任せるしかない。動けないしな。細かい指令は、ここからじゃ無理だが・・・、暗号指令だ。『空間歪曲砲』の使用許可を出そう。」
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「一旦、引くぞ。親衛隊母艦『ガーデナル』に指示。『空間歪曲砲』準備!」
『空間歪曲砲準備!』
「一挙に空間のひずみに落っことしてやる。ふふふ。楽しみだな。」
親衛隊長はほくそ笑んだ。
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