わたしの永遠の故郷をさがして 第三部 第一章 第八十二回
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ウナはアブラシオの中を散歩しているように歩き回っていた。
アブラシオは、光人間に対する反応が可能なのか?
これまでの状況から見れば、どうやら対処できていない。
ただ、相手が女王となれば、侮ることは絶対に良くない。
すべてを承知のうえでやらせている可能性だってある。
ウナの意志は、すでにアレクシスに同調していた。
アレクシスだけでは、どうにも心配でしかたがないレイミも、しっかり、そこにかんでいるけれども。
一方で、作り物の肉体に制限されないババルオナと、さらにヨウコも艦内を動き回っていた。
目標は一つ。
アブラシオの機能を止めること。
もっとも、収容されている難民を危険に晒すことはしたくない。
金星人も大勢、乗っているからだ。
しかし、この船は難敵である。
大体、構造がまったく良く分からない。
三人には、アレクシスとレイミの知識が導入されているから、並の科学者のレベルなどは遥かに超えているが、それでもこの船は未知のままだった。
エンジンがあるに違いないが、どこにあるのかさえ、さっぱりわからない。
確かに、航行用の指令室はあるが、結局のところ誰もいない。
つまり、この船は全く無人で勝手に動いている。
さまざまな計測機器はあるが、コントロールするスイッチや操作卓のようなものは一切ない。
要するに、普通の方法では、宇宙でのハイジャックは出来そうになかった。
ウナは、仕方がないので切り札に出た。
彼女の体は、宇宙クジラの技術で作られた創作物である。
その体内には、知られざるエネルギーがある。
使い方にもよるが、太陽を吹っ飛ばすことも可能なくらいの力もある。
ウナはそのようなことはもともと、意識してはいなかった。
宇宙クジラは、いざと言う時の為に、半分冗談で仕組んでおいただけで、使うつもりはなかったのだ。
しかし、アレクシスとレイミは、ウナの意識の奥深くに沈められたこの秘密をも嗅ぎだしていた。
「アブラシオ様!」
ババルオナの手引きで、指令室に這い込んだウナが言った。
「聞こえてますか。ここにいることは、判ってますよね。」
アブラシオは、一般乗客からの呼び出しには、基本的には応じない。
きりがないからである。
けれども、この場合は例外と見た。
「ウナさん、聞いていますよ。よくおいでくださいました。なにがお望みですか?」
「航行を中止しなさい。一切の戦闘行為は禁止します。ポプリスさんの命令に従いなさい。従わない場合は、ウナは自爆します。これがどういう意味を持つか、お知らせしましょう。」
アブラシオは、情報を得た。
詳しい仕組みはよくわからない。
宇宙クジラが仕組んだらしい、巧妙な仕組みがそこにある。
はっきりしたことは、もし、内部でウナが爆発したら、さすがのアブラシオも、ただでは済みそうにない、ということ。
といっても、その機能を解除できる代物ではなさそうだ。
ウナの体を船外に放逐することも、なぜか、できそうではなかった。
「ヘレナ様と、ご相談します。」
「どうぞ。制限時間は20分です。」
「過ぎたら?」
「破壊します。」
「パルくんが乗っているのですよ。」
「仕方がありません。」
「・・・そう、ですか・・・・・・」
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この星の生活が、ぎしぎしと言いながらだが、始まった。
ブリアニデスは、公表した。
『早ければ、2年後に、故郷への帰還を目指す旅を開始する。到着できる可能性は乏しく、またどの時間に到着するかもわからない。
諸君の元の生活に戻れる可能性は、ほぼないであろう。ここで、永遠に暮らすことも可能だ。ヘレナリア殿は、その保証をしてくれた。この宇宙が存在する限り、ここで生きることが可能だそうだ。
はっきり言うが、この宇宙の最後まで、なんらかの事故による不慮の死以外は、死は訪れないという。
新しい家族を作ることも自由である。失業率はゼロ。食料は必要以上のものが用意される。娯楽も。芸術活動も。ここにはないものというのは、ここ以外には、この宇宙にはなにもないこと。それだけだ。
1年後に、志願者の募集を始める。取り消しや変更は、いつでも認めるが、よく考えて応募してほしい。
一度出発したら、永遠にここには戻れない。強制は一切しない。また専門の相談機関を設置する方針である。
この予定は、最速のもので、後ろにずれる可能性は高いと思ってほしい。その都度、公表する。
なお、この時間は火星標準時換算による。』
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