わたしの永遠の故郷をさがして 第三部 第一章 第七十九回
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キラール師団の副師団長は、タルレジャ王国の上空に到達していた。
『着陸の許可を願いたい。』
『了解、誘導波を出します。』
こうしたやり方は、火星と金星で古くから決められていた方法に準じたものだ。
なぜか、ここだけは、ポプリスと地球間のいざこざの影響を、まったく受けていないように見える。
副師団長の小型船は、誘導波に乗って王宮近くのエア・ポートに着陸した。
まったく警備などはしていない感じで、手薄にすぎるんじゃないかと、副師団長が逆に心配してやるほど、のどかな場所だった。
実際のところは、本来アニーが完璧な警備をしていたわけなのだが、そのアニーがダウン状態になってしまっている。
そこで、今は、もと火星の警護担当者が、細々と対応し、さらにアブラシオが、掛け持ち警備に当たっていると、そういう訳である。
ただ、もし本当に誰かが攻撃を行ったりしたら、まず、後悔することになる。
『着陸完了!』
『了解、お迎えが参りますから、それまで、動かないでください。』
『わかったよ。』
待つこと15分。
ぼつぼつ嫌になってき始めていた副師団長の目に、3人の人影が見えた。
それは、ビュリアと、ダレル火星副首相、それに、リリカ火星首相だった。
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「まあ、みなさま、今日は、よくいらっしゃいました。」
ビュリアが言った。
副師団長は、思いもかけない歓迎で、いささかびっくり状態であった。
豪華な飲み物や料理が、美しくも整然と運ばれてきていたのである。
副師団長は、言って見れば、こうした王宮的な歓迎には、まったく縁がない人物だった。
マナーというものも、学んだことがない。
ビュリアにしてみれば、そこらあたりは計算済みである。
人間というものは、飲み物や食事に弱いものだ。
少なくとも、友好ムードの演出には欠かせない。
「なんで、こんないいものが、ここにはあるわけ?」
そこらあたりをちゃんと知っているダレルが、計算済みのちゃちを入れたのだ。
こうした言い方が、自分には可能だと言う事である。
たしかに、前女王の息子であったダレルには、他の人間にはない、一種の強みがある。
副師団長にしてみれば、ダレルは敵には回したくない。
「まあ、これらは、アブラシオにおいて製造したものですわ。ここはまだ、不毛の地です。開発には長い年月がかかります。今の内ですよ。この先、食べられなくなりますわ。当分はね。」
「ふうん。まあ、そうだろうなあ。でも、地球が欲しい人は沢山いる。」
「おほん。」
副師団長が、咳払いした。
「副師団長様は、お酒は何がお好みでしょうか?」
ビュリアが、相当丁寧に尋ねた
「何でも飲むが、いまは勤務中でありますからな。」
「まあ、それは、だれるちゃんも、リリカ様もそうですわ。しかし、これは外交ですよ。」
「まあ、では、ババヌッキ酒を。弱いので。」
「まあ、お強さそうですのにね。」
スマートでカッコいい給仕さんは、実は複製人間である。
洗練されたスタイルで、副師団長のグラスにお酒を注ぎ込んだ。
「じゃあ。乾杯。ビューヨン!」
『ビューヨン』は、火星の一部地方で使われていた乾杯の音頭である。
そこは、副師団長の生まれ故郷だった。
ビュリアは、そんなことはちゃんと知ってますよ、と、述べた訳である。
「まあ、お話しながら、やりましょう。地球は、火星の女王様の私有地であったけれども、わたくし、ビュリアに遺贈されたことは、ご存知でしょう?」
「もちろん。」
野菜をいっぱいにつまみながら、副師団長は言った。
「もちろん、タダで譲れなどとは言いません。対価はちゃんと支払います。」
「しかし、私有地であるにもかかわらず、火星政府は、その法的立場を主張しておりまして、わたくしが地球の所有地を売買することは、差し止められておりますのよ。」
「ほう・・・事実ですかな?」
ダレルが答えた。
「当然のことです。我々としては、地球も金星も、分割されることを認めることはできない。売買は容認できないのです。」
「ならば、実力行使するまで、ということに、なるでしょうな。」
「ほう・・・あなたがたの師団というものが、どれほどの実力があるのかは、まあ、判っておりませんが。」
「ふむ。ご希望ならば、やって見せますがな。」
「こらこら、直ぐに戦争したがるのは、人類の欠点ですわ。良い方策を探りましょう。実を申せば、わたくしは『青い絆』の一員もしておりました。『青い絆』は、現在空中凍結中のような状態ですが、希望としては、地球の警備団として、火星と協力してゆく考えです。まだ、まとまってはおりませんが、事実上、そうした体制をすでに、取っております。もし、あなたがた『ポプリス集団』が、攻撃なされば、『青い絆』がまず防御に出る考えでいます。」
「ふうん。初めて聞いたな。武器なんか、持ってるのかな?」
ダレルが、つぶやいた。
「ああ、わたくしは、聞いておりました。」
リリカ首相がカヴァーしてきた。
「ほう・・・・いつ?」
「だいぶ前です。」
ビュリアが体を乗り出した。
「まあ、事実、そうした体制になっております。そのための用意は、ございますわ。また、宇宙警察様も、ああして、協力をしてくださっております。そう簡単に攻略は出来ないでしょう。まあ、わたくしも、微力ながら、いざとなれば介入いたしますし。」
「なるほど。まあ、そこですが、キラール師団は、事実上、この私の支配下にあります、大半はね。師団長は、たしかに最上分団を直に握ってますが、数は少ない。私としては、リリカ首相に協力しても良いと思っております。つまり、火星の趣旨に沿って、地球の警護にあたっても良いかと、思うのです。」
「それは、キラール公のご意志ですか?」
りりカが、尋ねた。
「いや、違います。」
「じゃあ、師団長の?」
「いいえ。副師団長としての見解ですな。」
「ほう。つまり、『そうした』、ご用意があると?」
ダレルが、いんぎんに尋ねた。
「そうですな。条件は少しだけあるが。」
「どのような、要求ですかなあ?」
「なに、簡単です。それなりの、公式な居場所があればよい。個人的にも、組織的にも。」
「ふうん。火星としては、そうした特別扱いはしたくないですな。災いの元ですからな。ビュリアさんは、どう、お思いですかなあ?」
「そうね。」
ババヌッキ酒の入ったグラスを、くるくると回しながらビュアリアが答えた。
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