わたしの永遠の故郷をさがして 第三部 第一章 第七十八回
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『アレクシスは、『人類』である。』
『レイミも『人類』なのであるのです。』
肉体がない『光人間』も、元をただせば『人類』であることは間違いが無い。
『身体のある『人類』は、進化の途上の段階にあるのにすぎないのであるのだ。したがって、進化の先に行ったアレクシスとレイミは、身体のある『人類』をその先に導く責任があるのであるのである。』
『そうなのである、のであるのだ。』
これは、アレクシスの持論というよりは、ビューナスの言い分であったと考えるべきだろう。
実際、現時点でアレクシスに『命令』可能なのは、ビューナスのみである。
『女王』が立ち入る余地は、いまだなかったのだ。
けれど、ビューナスは女王の力で『真の都』に入ってしまった。
これは、アレクシスにとっては、いささかやっかいな問題だった。
『ビューナスは、女王に逆らえなかった。』
という事実が、彼にには突きつけられている。
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ダレルやリリカは、しょっちゅう『お茶会』で、ビューナスの『幻影』・・・ダレルはそう思っているが・・・を見せられてきた。
ダレルの見解によれば、前女王の姿を含めて、あれらは、女王が作り出した実体のない映像で、しゃべっていることは、すべて女王が演出していることがらにすぎない。
という、ことなのだった。
リリカは、しかし、いくらか違う意見を持っていた。
つまり、『真の都』は、実在する可能性が高い、と見ていたのである。
おそらく、ブラックホールの周囲にある、事象の地平面上に存在する安定領域なんだろう、と考えていた。
ただ、それだけでは、うまく説明がつかないことも確かだが。
『真の都』には幽霊が住んでいる。
『幽霊』とは何か、となるのだ。
けれども、もしそうならば、たとえ映像であっても、あそこに出て来た『前女王』や『ビューナス』は、実際の意識を持った何か、である可能性が高い。
そう思っていた。
『そんな場所から通信ができるわけがない。』
ダレルはそう主張する。
きっと『通信』じゃないんだ、とリリカは言う。
それは、良くは解らないが、『意識』のようなものなんだろう。
『光速に拘束されないものなんじゃないのかなあ?』
『そんなもん、あるなんて考えられないよ。意識は光速を超えない。『空想怪奇小説』の読みすぎさ!』
しかし、リリカは不思議な体験を実際にしたのだ。
2憶5千万年を飛び越えて、未来を見た。
しかも、無事に帰って来てしまった。
『未来には行けても、過去には戻れない。』のが、常識であるのにもかかわらずだ。
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ウナは、『光人間』を感知できる。
自分が『光人間』なのだから、まあ、そうしたものだろう。
どうして、人間の体を再び獲得できたのか、の、詳細はわからない。
そこに、『女王さま』が関与していたことは、たぶん、間違いが無い。
でも、ビュリアさんが『女王さま』なのかどうかが、どうもよくわからない。
ともかく、ババルオナが、ここに、うろうろしていたことは、分かっていたのだ。
マヤコとパル君には、特にパル君には、それは言えないと思ったが。
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やがて、マヤコが食事から帰って来た。
「マヤコさん、パル君をお食事に連れてってください。もう、ひとりでも、大丈夫ですから。」
ウナが、そう頼んだ。
「うん。そうだね。ここは、巨大宇宙船の中だし。じゃあ、パル君、行こうよ。ちょっとだけだよ。」
「ううん・・・そうだなあ。まあ、ここなら大丈夫だよね。」
マヤコは、パル君を連れて、例の喫茶室に向かったのだった。
室内は、見た目、ウナだけになった。
けれども、ここは、アブラシオの中である。
どんな状況も、アブラシオがきっちり監視しているが・・・。
『光人間』を、アブラシオが関知可能なのかが問題だ。
『光人間』側は、それはできない、と見ていた。
ただ、アニーについては、いささか不安だが。
それも、どうやら今は、止まっているらしい。
ババルオナは、沈黙を守っているが、ウナにはその存在が見えているのだから、いないことにしようとしても、少し無理がある。
「ババルオナさん、なにしに来たの?」
ウナが問いかけた。
ただ、これは音でも電磁波でもなかったから、アブラシオには聞こえてはいない・・・はずだった。
『アレクシス様のお言いつけなのだ。』
『もう、すっかり仲間になったのね。光人間の。』
『それが、事の正しい理屈というものなのだから。なのである。のだぞ。』
『ふうん。わたしは、中途半端のママだから、分かりにくいわ。』
『いいや、そうではない。アレクシス様のお心ひとつなのだ。ウナは、そのように、されているだけなのである。のだ。』
『え? そうなの?』
『そうなのである。アレクシス様とレイミ様のお心であるのだ。感謝しなくてはならないのである。なのだのだ。』
『ふうん・・・アレクシス様たちは、どこにいるの?』
『光が到達できる所ならば、どこにでも存在するのである。ウナは、わかっているのだ、であろう。のだ。』
『で、何の用?』
『見ているだけである。』
『プライバシーの侵害です。出てってください。』
『ふうん・・・まあ、いいであろう。今はまだ。』
ババルオナの存在は消えた。
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「ビュリアさん、どうして裸足なの?」
リリカが尋ねた。
「そう決めたからですよ。懺悔の形として。いまは、まだ、この王国の中で、だけだけど。」
「そう言えば、会った人みんな素足だったぞ。」
ダレルが思い出して、そう言った。
「強制はしていませんよ。自主的になさっているのです。」
「そりゃあ、教祖様がそうしたら、信者がみんなそうしたって、おかしくはないが。」
「わたくしは、タルレジャ教が主体のこの島と、政治が主体の南の島と、在り方を、少し分ける考えでおります。もちろん決めるのは、この先閣僚や、教団の中心になる人たちであって、わたくしは決めないけれど。」
「いやあ、あなたが意見を言えば、それは尊重される。きっとね。」
「尊重されても、強制はしない。」
「あいかわらず、へそ曲がりだなあ。民主主義というものは、あんたの意見が中心で作られるんじゃない。まあ、この場所を提供したのは、確かに、あんたなんだろう。所有者だしな。そこは、まあ、認めるけれどね。」
「いつも屁理屈こねるのは、あなたの方だからな。まあ、いいわ。いらっしゃい。王宮の中は何も変わっていないわ。良いところも、良くないところも。」
明るい日差しの元、三人は王宮に向かって歩いて行った。
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「やましんさん、あいかわらず、ぼっとしてますねぇ。」
「それが、スタイルみたいなものですから。」
幸子さんが、お饅頭を頬張り、お酒ぱっくをしっかり握って、そう言うのです。
これは、今も変わらない。
変わらないことがあるということは、安心な事でもあります。
まあ、幸子さんは、幽霊だからな。
「なんですかあ? じっと見て。はずかしい。」
「いやあ、お饅頭に見とれただけですから。」
「おわ~~~。じゃあ、ハイパーお饅頭嵐、行きます!」
「しまった、間違えた・・・」
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