わたしの永遠の故郷をさがして 第三部 第一章 第七十六回
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キラール公の副師団長は、まだ出来たばかりのビュリアの王国を包囲した。
もっとも、ビュリア自身は、表向き、不在である。
ビュリア自身は人間だから、実際に出かけたままなのだ。
しかし、ビュリア内部の本体は、そう言う訳でもない。
その意図するところによって、どこにでも『存在できる』のだから。
なので、ビュリアの本体は、こうしたやり取りも、実際には見ていたのだ。
ただし、それは『存在』、と言うべきではないのだけれども。
ビュリアの留守を預かっているのは、キャニアだった。
『青い絆』からは卒業し、『タルレジャ教団』に入信していたわけである。
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「キャニアさん、北島全体が包囲されてますよ。」
防空担当の信者が、キラール師団の動きを察知していた。
彼もまた、『青い絆』の出身者だ。
王国の防衛を当面担当しているのは、タルレジャ教団に入信した、元火星王宮の軍関係者や『青い絆』の出身者なのだ。
つまり、こうした事にかけては、事実上のプロだった。
しかし、火星王国が消滅した当時の閣僚たちの多くは、ビュリアの王国の運営には関わっていない。
というよりも、排除されたと言うべきである。
「降伏勧告してきました。」
「お断りしてください。ここには干渉しないように、伝えてあげてください。」
「了解。・・・・・・・・・・・ええ、30分以内に降伏しないと、攻撃するんだそうです。」
「あらま。無駄ですよ。とお伝えください。ホテルやパレスで、金星側がやってみたのだから知ってるでしょうと。」
「了解。・・・・・・・・・・ええ、現在『キラール砲』という新兵器を準備中とのこと。そいつをつかうと、すべての防御は無効となるぞ、と、言っております。」
「はあ・・・じゃあ、こっちは『ビュリア砲』を使うぞ、と、お伝え下さい。あなた方みんな、アッと言う間に消えますよ。と。」
「了解・・・・・。え、・・・・・話し合いしたいと、言ってきております。副師団長自らが赴くと。ビュリアさんと会いたいと。・・・・・・そう言っております。」
「はあ・・・・・ちょっと待て、と、お伝え下さい。相談します。」
「了解・・・・・・・10分待つとのことです・・・・・。」
「まあ、気の短いこと。」
「通信終了。あの・・・」
「はい?」
「ビュリア砲って、なんですか?」
「いま、作ったのよ。」
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しかし、キラール公は、実際に『キラール砲』の発射準備を整えさせた。
こうした『重厚長大武器』の弱点は、たいがい、手間がかかることである。
「効くと思うか?」
キラール公がポプリスに尋ねた。
「あなたが作ったんでしょ。」
「まあね。でも、使う相手がいなかったからなあ。どきどきするな。」
「ほら、やってみなさいよ。」
「了解。じゃ、『キラール砲』発射準備!」
『準備、よし!』
「じゃあ、ちょっと、遠慮気味にやれ、出力5%。発射!」
『出力5%、了解。設定完了、スイッチ、オン!』
ポプリスの巨大軍艦から、上空側に、まったく目には見えないが、大きな衝撃波が走った。
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それは、分度器のように天空に広がり、やがて、最大到達点を中心にして、こんどは円形に、ただし月だけは、なぜか上手に避けながら広がった。
巨大な花火みたいな感じである。
その範囲は、非常に広くて、地球との中間地点よりも、さらに先まで到達していた。
警部2051の、真っ青な『本部』は、この直撃を受けた。
「おわ!なんだ、なんだ?」
こうした衝撃は、かつて、あまり味わったことがない種類のものだ。
ビューナスが消滅したときに観測していた力とは異質なもので、あきらかに中身の問題が違う。
「くそ。機能不全だ。ありえない。この警察本部は、特殊な形質だ。外部からの影響はほとんど受けないはずなのだが。地球の人間には、まだ、こうした知恵はないと見ていたが・・・おかしい。・・・あららら。お手上げです。入れ知恵してるやつがいたかな。まずいなあ、逃げられてしまうなあ。ビュリアさんに、申し訳がないなあ。」
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「月の周辺で、異常なエネルギーらしきを、検知しました!」
「なんだろう?」
キャニアが、大きな空間画像を眺めながら、彼女なりに、かなりいぶかった。
「こりゃあ、見たことないものだなあ。宇宙警部の本体が巻き込まれてます。あ、ポプリスの巨大軍艦が浮上!」
「そりゃあ、まずいわね。ちょっと、ビュリアさんと相談する。」
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「ふうん・・・まあ、それはそれで、キラールちゃんが精いっぱい頑張った訳よ。いいわ、会ってあげようじゃないの。」
ビュリアが答えた。
『そやつ、何か企んでおるぞ・・・人間的にはおもしろいことであろうな。まあ、見ないでおこう。』
ヘレナが内心『ほくそえんで』いた。
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「くそ。また、ぼくらは除け者にして、勝手に、なにかやってるに違いない。」
ダレルが、また歯をぎりぎりしている。
「あなた、最近、その癖がひどくなってるわ。一気に老化したんじゃないの?」
リリカが皮肉った。
「ばかな、君に、歳をとらないようにされたんだぞ。」
「ふふふ。まあね。聞いてみましょうよ、ね、アブラシオさん。何やってるの? ヘレナ様は?」
『ああ・・・つまり、ポプリスさんが新兵器を使いまして、警部さんの包囲を突破しました。一方で、キラール公の師団の副師団長が、ビュリアさんとの会見を求めておりますのです。』
「じゃあ、そこに僕らを入れるように、ビュリアに要求する。きさま、無視するな、と。そう、言ってくれますか?」
『了解しました。伝えます。・・・・・・・・そのままを、確かに、お伝えいたしました。・・・・・・あの、『どうぞ。』と、いうことです。』
「ふん。えらく、あっさりと、答えたじゃないか。」
『あなた方お二人を、『新王宮』に送達いたします。』
二人は、アブラシオ内から消えた。
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