わたしの永遠の故郷をさがして 第三部 第一章 第七十一回
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ナナとダンクは、到着早々に『空港食堂』に向かった。
気が重いことだが、ほっておく訳にはゆかない。
キッチンの事を、きちんとのりちゃんに伝えることが、やはり、自分たちの役割なのだと思っていた。
「なんて言うの?」
ナナはダンクに確認した。
「そりゃあ、こうさ。『キッチン宇宙航行士は、あなたに会おうとして、異世界に旅だちました。』・・・、と。」
「はあ・・・・それって、やはり変よ。」
「そうか? まあ、・・・そうだよなあぁ・・・本人相手に言うのは、変だよな。」
「まったくねぇ。」
「だいたい、まず誰が話を切り出す。やはり君が適任だ。男が言うと、いかにも思いやりがないからな。」
「いえいえ、そんなことはないわ。そのほうが、きっと信頼性が高いから。」
「いやいやあ・・・」
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そういう会話をしている間もなく、ふたりは『空港食堂』の前にたどりついたのである。
しかも、ちょうどのりちゃんは、玄関前の掃除を行っていたのだ。
ふたりの来訪に気が付いた彼女は、両手でほうきを持ったまま、小さく頭を下げた。
「あの、まだ開店してないんですが・・・」
「いや、突然失礼します。 実は、キッチン宇宙航行士のことで・・・」
「え? あ、あの・・・どうぞ。中にお入りください。」
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物事というものは、いざ始まってしまえば、どうにもならないものである。
また、どうにかなるものでもあるし、どうにかしなくては、ならないものでもある。
特に、こうした良くない話の際は、なかなか思っていた通りにはゆかないのが普通である。
結局は、ダンクが話し始めたのだった。
「ああ、わたしは、『金星宇宙軍』のダンク少佐です。こちらはナナ少佐。あの、あなたはノリさまですね?」
「はい。ノリ・ウェストです。」
「キッチン一等宇宙航行士はご存知ですか?」
「はい。あの・・・お付き合いしておりました。」
「そうですか。あの! ・・・いや、それは火星で、ですな?」
「はい。」
「なぜ、ここに、いらっしゃるのでしょうか?」
のりちゃんは、一旦顔を沈めながら、しかし、またきっぱりと顔を上げて、はっきりと答えた。
「あの、それが、さっぱりわかりません。あの日、普段通り仕事を始めようとしていましたが、宇宙からたくさんのミサイルが飛んできていると言う警報がありました。父は、天を仰いで、言いました。「女王様が守ってくださるさ。」と。・・・あ、お父さん・・・お客様です。キッチンさんのことで。」
彼女の、娘とはまったく対照的な、すんぐりと大きな体の父上は、台所から手を拭きながら現れた。
「そう・・・」
「あの、ダンク少佐と、こちらはナナ少佐であります。失礼いたしております。」
「座っても・・・?」
「もちろん。ぜひ、ごいっしょに。」
父親は、娘の隣に座った。
「・・・あの。で、それから間もなく、ミサイルが、近くに落ちたようなのですが、気が付いたらお店ごとここにいました。」
「まったく、さっぱり分からないですよ。見た目、火星の宇宙空港だし、でも、まったく誰もいないし。すと、ヘレナリアさんという、まあ、魔女様ですな、が現れて・・・。『ここは別の世界』だとか、『やがて、貴方方が来るだろう』とか・・・『今まで通りここで商売しなさい』とか・・・。わけがわからなくなりましたが、どうにもならない。これは、なんですか? 軍の秘密作戦とかでしょうか?」
ナナとダンクは顔を見合わせた。
「少なくとも、軍の作戦ではありません。」
「火星はどうなったのですか?」
ダンクは、自分が知っている限りのいきさつを話した。
「そこで、故障した『金星のママ』は、我々と共に、火星をも攻撃しました。『火星の女王』は、かなり防戦した様ですが、あまりに攻撃が激しすぎたので、結局、火星も金星も壊滅し、多くの火星人は脱出するか、亡くなるか・・・したのでしょう。金星の『空中都市群』は、地球に向かおうとしたのですが、おそらく『火星の女王』によって、この『異宇宙』に飛ばされてしまったのです。長らく放浪したのち、ようやく、ここに、たどり着きました。」
「はあ・・・分からないような、理解できないような・・・」
「それは同じでしょう。お父さんは、もう・・・」
のりちゃんは、また、うつむいてしまった。
『はあ。キッチンは、この人が好きだったのか。わかる気はするな・・・』
ダンクは思った。
とっても、可愛い人だ。
「あの、で、キッチンさんは?」
のりちゃんが、核心部分を尋ねてきたのだ。
「はい。あの、もう、ほぼ、ここまで、一緒に来ていたのです。しかし、キッチン航行士は、あなたへの思いを断ちがたく、独自に開発した装置で、あなたに会うべく、『異宇宙』に旅立ちました。ここにあなたがいることが解ったので、我々は、止めようとしたのですが・・・間に合わなかったのです。」
「・・・・・」
異様な緊張感が、永く漂ったのだ。
時間は、まったくのところ、停止した様だった。
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