わたしの永遠の故郷をさがして 第三部 第一章 第六十七回
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「しかし、奇妙と言えば、奇妙ですな。」
デラベラリ先生がつぶやいた。
「なにが?」
マオ・ドクが、やや、ぼんやりと応じた。
「だってそうでしょう。アブラシオも、その背後にいるビュリア、つまり多分女王も、我々よりポプリスについて詳しいはずでしょう。きっとね。」
「ふんふん。」
「なのに、なんでわざわざ、遠くにまでお出迎えに行かせたのか? なんか変でしょう?」
「ふうん・・・・いやあ、ビュリアが本物のお嬢だとは思うが、そう言われると、ちと気にはなるかなあ。」
「いやあ、つまりそうじゃなくて、なにか陰謀の匂いがするよ、という事ですな。」
「陰謀・・・なんで?」
「さああてねぇ・・・・」
先生は、それ以上は言わない。
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「もしもし、アニーさん。」
『はいはい、なんですか、ヘレナさん。』
「あの、アブラシオさんはいったいどこまで行ったのかなあ?」
『あらら、あなたが、出迎えろとか言ったとかで、警部さんのあとを追っかけましたが。』
「む? なんじゃそりゃ?」
『え? 違うのでしたか?』
「ふうん・・・・どこかで命令が書き換えられたかな?」
『え? そんなこと、誰にも不可能ですよお。』
「ううん・・・・やられたかなあ。」
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『ウジャヤラ・アルファ』は、ぎりぎりのところで、ポプリスの巨大艦をすり抜けた。
「ふん、うまいこと通り抜けたわね。このまま前進!」
ポプリスが指示を出した。
「あいさ!」
しかし、そこは、相手も素人ではない。
ぐるっと回り込んだ『ウジャヤラ・ナイト』が、下方側から攻撃をかけてきた。
ポプリス艦の防御シールドが、一部弱くなった。
ワルツ司令は、そこをめがけて重ねて攻撃した。
「あらら、ゆれてるぞ、君?」
キラール公が本から目を上げながら語り掛けた。
「ふん。おとりの外壁がやられてるだけ。まあ、それも初めてだけどな。さすがわが集団が作った軍艦よね。」
「遊んでないで、早く地球に行こう。久しぶりに、いとこにも会いたいし。」
「はあ・・? アンな女のどこがいいの?」
「いやあ。子供の頃は仲良しだったんだから。」
「あ、そ。いいわ、じゃあ、ここは脱出。『緊急空間転移!しなさい。目標、地球!』」
「あいさ、五秒後、緊急空間転移します。」
アブラシオは、ポプリス艦の直前まで来ていた。
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アブラシオの乗客は、はらはらしながら、大きなスクリーンに見入っていた。
「こっちもでかいが、相手もでかいなあ。」
「ああ、重量級対決かなあ・・」
「いやあ、あんなのが衝突したら、大変だぞ!」
いろいろな声が、広いロビーに飛び交っていた。
「あああ、消えた!!」
消えたのである。
ポプリス艦が消滅した。
「勝ったのかな?」
「いやあ、逃げられたんじゃないか?」
実際には、逃げられたのである。
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『警部2051の本体』は、地球近辺で待機していた。
彼は、両にらみ作戦に出ていた。
「くそ。逃げたか。じゃあ、ここら辺に来るな。あの宇宙海賊も張っているか。しかし、なぜアブラシオさんは、わざわざ、あそこまで行ったのかな。いささか腑に落ちない。ぼくなどよりもはるかに、ビュリアさんの方があの相手には詳しいはずだから、なんらかの理由があったはずだな。」
警部は考えていた。
「つまり、アブラシオさんがいなくても、地球側はさして困らないということか。それが、火星の女王様の力というわけかな。ふうん・・・」
しかし、実際に考えている暇もないくらいだった。
警部2051と地球の間に、巨大な宇宙船が実体化した。
「でたか。怪物! 温泉に沈めてやるぞ。ビュリアさんにも見てもらおうかな。」
意外と人間的な事を考えながら、警部の本体は巨大化した。
ポプリスの宇宙船の倍くらいにまで、である。
「ふん。後ろに化け物がいたか。関係なし。ハイ攻撃! ぼんぼん撃ちまくりなさい!」
ポプリスが命じた。
実体化した直後に、ポプリス艦は、『温泉地球』や『地球ホテル』付近に集中砲火を浴びせかけた。
アブラシオは、到着するまでに、5分ほどかかった。
金星艦はすばやく反転して、ポプリスの攻撃開始から1分後以内には追い付いてきた。
アブラシオの乗客や、金星艦の指令達も、また、ダレルやソーやアリーシャも、攻撃されているさなかの
地球を見た。
大きな火柱やキノコ雲が上がる・・・と思ったが、攻撃されていることは確かで、かなり壮大な『光』
は、さかんに地球上で明滅するのだが、それ以上の反応がないのは、なんとなく不思議だった。
「あああ、はでにやってるのはわかるけどな。ふうん・・・なんかみんな『スカ』みたいだな。」
ダレルがつぶやいた。
「タンゴ指令! 地球上で大きな破壊現象は起こってないようです。」
通信士が報告してきた。
「ちょっとビュリアに聞いてみる。通じればだけど。」
ダレルは、通信機を取り出して呼び出しを掛けた。
『は~い。こちらビュリアです。何か用? ダレルちゃん。』
「何か用って、どうなってるの? これは?」
「ああ、アニーさんが一杯エネルギーもらってるわよ。全部じゃない。抱え込めない分は光になって放出させてるわ。すごい光景よ。あなたもいらっしゃいな。」
「冗談じゃない、これからまた攻撃するんだから!」
金星の軍艦2隻と、警部2051の本体は、ポプリス艦に攻撃をし始めた。
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「あまり、効果ないみたいだねえ。そうとう、また揺れてるよ。まずくないかな。ちょっと壊れてるよ。この船。」
キラール公が、なんとも意地悪そうに言った。
実際、ポプリス艦には、かなりの被害が生じはじめていた。
一部エリアが、複数吹き飛んでいる。
「まあ、ここまでは予想通りで、これもシナリオの内よ。本番はこれから。もうすぐ効果があるわ。きっとね。」
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「うわあ、まるで超新星の爆発が、お空中で起こってるみたいだ。」
シェルター内で映像中継を見ながら女将さんが言った。
「ううん。すごいけど、大丈夫なのかなな。ウナとパル君はどうなったのかなあ。」
マヤコが心配そうに言った。
「二人は無事に保護されてると聞いたから、大丈夫よ。しかし、ビュリアちゃんは大丈夫なのかな? まだ地上にいるみたいだ。」
「はあ、それは心配ですね。」
マヤコが同情した。
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『うい~~~~~。ヘレナさん、アニー不調・・・・食い過ぎたみたいです。うぃ~~~』
突然アニーが不調を訴えてきた。
『び~~!! び~~!! ビ~~!』
警報が鳴り始めたのだ。
「うわわわ。こりゃあ、ちと、まずいな。」
ビュリアが表向き少し慌てていた。
『アニー、停止警報! 停止警報! この状態があと5分続くと、安全上の問題からアニーは完全停止します。さらに無理に持続させると、太陽系全体が危険になります。警報発令!』
無機質なアナウンスが、ビュリアの意識の中で響いた。
『あと4分で、アニーは完全停止します。』
「くそ。これを狙ったのね。アニーに食中毒を起こさせたわけだ。いったい、ポプリスちゃんがどうして知ったのか。回答は他にないわ。くそ。てめぇ、やりやがったな。召喚する。吸収処分じゃ。おっと、その前に。わたくしをバカにするとどうなるか、思い知らせてやるわ!」
ヘレナは、滅多に行わない実力行使に出た。
しかし、相手は普通の宇宙船ではない。
ビュリア=ヘレナも、さすがに一瞬でかたずける、と言う訳にはゆかなかったのだ。
ヘレナ自身がかつて考案した、アブラシオと互角の防御装置が、頑強に抵抗していた。
ポプリス艦は、アブラシオとは、実は兄妹にあたる『特別製』の宇宙船である。
しかも、ビュリアはここで、『殺人』はしたくなかった。
おかげで、余計に手こずってしまっていた。
ようやく、アブラシオも帰着した。
『ヘレナ様、援助します。』
「てめぇは、手出しするな!」
ビュリア=ヘレナは一喝した。
地球の防御シールドが崩壊する寸前に、ビュリアは、ポプリス艦の攻撃機能を、ようやく力ずくで停止させたのである。
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