わたしの永遠の故郷をさがして 第三部 第一章 第六十六回
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「止まったな。」
ダレルが小さく言った。
「ああ、止まりましたな。」
タンゴ司令が応じた。
「指令、後方地球側から巨大宇宙船接近します。女王の船かと思われます。」
通信担当が報告した。
「アブラシオさんか。いっぱい難民を乗せたままで、出てくるかな。まったく。」
ダレルが毒づいた。
『ダレル様、御心配には及びません。』
指令室内に、アブラシオの声が響いた。
『乗客は、まったく安全ですから。』
「よく言うよ。その精神が信じがたいと言うんだ。」
『精神というものは、ございませんので。』
「はいはい。そうでしょうとも。」
『しかし、人間の、そうした意識の働きは理解可能です。』
「ああ、そうですか。で、どうするつもりなの?」
『もちろん止めます。ポプリスさまを。です。』
「ぜひ、そうしてください。どうしたいのかを、一応、確かめなくては。」
『了解。』
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「予想どおりかね?」
キラール公が、まだ火星猫を撫でまわしながら、ポプリスに質問していた。
しかし、猫は、用事を思い出したらしくて、彼の膝から飛び降りて行った。
「まあ、そうです。シナリオ通りです。」
「じゃあ、早く話を済ませようじゃないか。」
「そうね。」
『巨大宇宙船からの通信が来ていますが、いかがしますか?』
コントロールルームからの質問が来た。
「いいわ。ここに回して。」
『はい。では・・・』
『こちらは、アブラシオ。ポプリスさまに通信。』
「出てあげたわよ。何か用かな?」
『ポプリスさま、ビュリア様の代理として、参りました。何をしにどこに行かれますか?』
「だから、『降伏勧告』したでしょう。お返事は?」
『現在、火星政府は地球に仮住まいになっております。『降伏』する状態ではございません。金星政府は壊
滅しました。したがって、同様です。』
「ばかね、火星とか金星とか言ってるんじゃないわ。そこの、つまり地球上の集団の責任者というか指導者
は誰?」
『事実上、リリカ火星首相でしょう。』
「じゃあ、リリカに降伏するように言いなさい。それだけよ。道を開けなさい。」
『却下いたします。平和的な目的でない場合は、地球に接近することを認めません。』
「誰が認めないの?」
『あなたがおっしゃる地球上の集団です。』
「ばかな。あたしが仕切るから通しなさい。」
『拒否。』
「じゃあ、力ずくでも通るから。以上、おしまい。通信終了!」
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「おいおい、いいのかな?」
キラール公は、本を読むことに興味の先を切り替えていた。
「まあ、そういうシナリオだから。」
「なるほど。ぼくの『宇宙師団』が必要かい? まだ隠れているがね。」
「まあ、まだ、そこまで引っ張り出す理由はないわ。あれは、『完全破壊群団』だもの。」
「ふうん。じゃあ、ご自由に。」
キラール公は、本に目を移した。
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マオ・ドクは勢い勇んで地球を飛び出したが、周回軌道上には、まだ、『えびす号』が張り付いていた。
『やや、貴様まだここにうろついてるのか。そいつのエンジンだったら、とっくに現場に着いていそうなも
んだ。』
『あんたも、相変わらず能天気だね。』
『なにを!』
マオ・ドクは、『お嬢』が絡むと一層、短気になる。
『あのね・・・』
ジニーは説明し始めた。
『ポプリスの宇宙船は、まず止められない。あれは、もし戦闘になったらば、さすがにアブラシオは、たぶ
ん負けはしないだろうけれども、しかし、あいつの逃げ足は異常に速い。すぐ地球の目の前に来る。なら
ば、ここにいたほうがよい。まあ、あんたがどうするかは、勝手だよ。』
『む・・・なんで、そんなに詳しい?』
『そりゃあ、いっぺん対戦したから。軽くね。でも、お互い、本気じゃなかった。あほらしいと思ったのか
直ぐいなくなったんだ。』
『ほう・・・あんた、お嬢の味方する気になったのか?』
マオ・ドクは、少し落ち着いて尋ねた。
『味方? さあね。 今後のことを考えたら、今はビュリアに付いといた方が良いと判断してるだけさ。そ
れだけ。』
『アマンジャのことがあるからかな?』
『余計なお世話だ。じゃな。』
通信は切れた。
「くそ。あのいかれ女め。」
「それは、差別用語ですな。」
デラベラリ先生が指摘してきた。
ついでに、こう付け加えた。
「まあ、ジニーさんが言うのは筋が通っている。たしかに、あのポプリスの宇宙船に関しては情報が少ない
のですが、しかし、ですな・・・」
「しかし・・・なんだ。」
「不確かですがね、どうやらビューナスが空間跳躍の技術を買ったのは、『ド・カイヤ集団」かららしいと
いう情報があります。メンテも、連中の関連会社がやっていたらしい。」
「なんだ、初めて聞くぞ。なんで言わなかった?」
「聞かれないから。」
「はあ、あいかわらず先生は、コンピューターみたいなところがあるな。ここにいた方がよいと思うの
か?」
「あい。」
「そうか。じゃあ、そうする。あんたの助言だからな。」
『ぶっちぎり号』は、地球の反対側に待機し、さらに子分の宇宙艇を、高い周回軌道上に5機ほど配置し
た。
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