わたしの永遠の故郷をさがして 第三部 第一章 第六十五回
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すべての空中都市が上陸したのを確認し終わった後、ブリアニデスは命じた。
「いいだろう。降りよう。」
訳の分からない『異宇宙』を放浪する間に、彼は人間的に成長していた。
確かに、ポストは人を育てる。
とは言え、個性がなくなるわけでもないけれど。
すべての空中都市の『首都』である『ワン』は、ゆっくりと空港に降りて行った。
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出迎える側の指令や局長は、『総統』や『情報局長』の到着を待ち受けていた。
また不思議なことに、『空中都市』で埋め尽くされていたメインターミナルの正面に、大きな空間が空い
た。
あっと言う間だった。
気が付いたら、広大な敷地が広がっていた。
「もう、なにがあっても、驚きませんな。」
指令が言った。
「いや、まったく。」
局長がつぶやいた。
同じ『局長』ではあっても、これからやってくるはずの『情報局長』は別格である。
1000人以上はいる局長の中でも、言葉は同じでも別世界にいる人だ。
つまり、自分は『第一地方』の『局長』にすぎず、相手は『中央』でも最高位にある『局長』だ。
はっきり言って、年に数回しか会う事もない。
ましてや、『総督』なんて神様みたいなものだ。
いても見えない、のだから。
『指令』などは、もっともっと下っ端である。
「まあ、ここに来たら、人事上の位階など気にする必要などございませんわ。」
突然ヘレナリアの声がした。
いつの間にか、二人の横に、彼女は立っていたのだ。
「もちろん、あなた方の地位や立場は尊重いたしますし、あなた方のご自由ですが、少なくともここにおい
ては、それでお家が大きくなったり、小さくなったりするわけではございませんわ。みな平等です。まあ、
ブロックのおもちゃのように、くっつけても構いませんけど。どうしても、総督さんのお家は、大きい方が
良いのであればね。」
実際、視察した担当者からは、『総督用の建物は見当たらない』という報告は来ていた。
『局長』は、そのこと自体に気を使っていなかったことに、ここにきて、大きな不安を感じていた。
「いやあ・・・ヘレナリアさん、『総督用の建物』はやはり、必要です。」
「あらま、そうなのですか? お城のようなもの?」
「ええ、まあ、そうです。だって、会議をしたり、政策を練ったりするのには、それなりの場所がなければ
なりません。」
「なるほど。わたくし、そういうことは考えませんでしたから。いくらでも、好きなように変わるものです
から。」
「はあ・・・・あなたはそうかもしれませんが、我々にそれが可能ですか?」
「まあ、可能な事は可能ですが・・・いいでしょう。見た目も大切だと言うことなのでしょう。学習いたし
ましたわ。では、大きいのをいくつか用意いたしましょう。どう使うかは、おまかせします。それで、よろ
しいですか?」
「ええ。でも、見ておきたい。担当に行かせましょう。」
「まあ、もちろんどうぞ。すぐにご案内いたしましょう。」
『局長』は少し安堵した。
しかし、ブリアニデス自身は、実際のところ、そうしたことは気にかけていなかったのである。
というもの、彼はこのまま『空中都市 ワン』を政務に使うつもりだだったからである。
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そうして、ついに、ブリアニデスと情報局長は上陸した。
二人は、警護に囲まれながら、ターミナルに入った。
「まあまあ、錚々たるご様子です事。」
ヘレナリアが、ここの『局長』にささやいた。
やがて、トップ二人がステージに現れた。
ヘレナリアが出迎える。
二人を引き合わせているのは、金星の、専門の『紹介官』である。
こういうことに命を懸けている役職者である。
総統は、敬礼したり握手したりする習慣はない。
ただ、直立して、少し顔を動かすのみ・・・なのが、常識である。
「どうするつもりだろうかな?」
こちらの『局長』は、興味深く見守っている。
しかし、驚いたことに、ブリアニデスはヘレナリアに敬礼をしたのだ。
これは、ビューナスが火星の女王様に会う時にだけ、行っていたものだ。
ブリアニデスは、ヘレナリアに最高の礼儀を実行したのである。
さらに・・・ヘレナリアは、なんと、ブリアニデスと情報局長を『抱擁』したのである。
周囲は、あぜんとした。
「いかにも『異世界』ですなあ。」
こちらの『局長』が、となりの『指令』にささやいた。
「まったく。『びっくし』、ですなあ。」
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ブリアニデスたちとヘレナリアは、そのまま、惑星内見学に出発した。
当然、こちらの『局長』は、枠外である。
さきほどの『紹介官』が、案内について回る。
彼女は、このために、ただひたすら、ここでの情報収集に努めてきたのだ。
見学が終わったら、首脳会談の予定になっている。
見学用の、『豪華な空中バス』・・・実はへレアナリアは、先ほどの『局長』の様子から、最初に考えて
いたオープンデッキの『空中周回カート』・・・こちらの局長が乗ったような・・・・から、この『豪華バ
ス』に急遽切り替えたのだった。
そんなものはこの惑星には無かったから、すぐに生み出したのだ。
そうして、ブリアニデスの横に座って、案内を行った。
こうした行為も、『総督』にとっても、初めての行為である。
普通は、すぐ隣に座ったりは絶対にしない。
周囲は、いささか困惑したが、ブリアニデスは無言で部下たちを制した。
ヘレナリアが、あまりに美しかったこともある。
女性形態のビューナスに、勝るほどだったから。
「あの、総督さま・・・」
ヘレナリアが小さく言った。
「なんでしょうか?」
「なぜ、あの『局長』さまや『指令』さまは、同行なさらないのですか?」
それが誰の事なのか、ブリアニデスは察しがついた。
「それが、慣行ですからな。」
「まあ、お可哀そうに。あれほど頑張っていらっしゃったのに。わたくし、あのおふたり、とても気に入り
ましたのに。」
「情報はすべて、受け取っておりますからなあ、彼らは仕事を十分なし終えたのです。」
「まあ・・・そうしたものなのですか。」
ブリアニデスは、返事をしなかった。
しかし、見学後の会談に、二人は突然呼び出されることになったのだが。
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