わたしの永遠の故郷をさがして 第三部 第一章 第六十三回
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「降伏もなにも、誰が誰の何の降伏を告げるんだかな?」
ダレルは『ウジャヤラ・アルフャ』に乗船しながらつぶやいた。
すでに、ソーもアリーシャも乗船した。
ソーは『ウジャヤラ・ナイト』の方に乗りこんだ。
アリーシャはダレルと共に乗艦していた。
これは、言って見れば、リリカに対するサービスでもある。
つまり、アリーシャはダレルの監視役でもあった訳だ。
「よし、発進!」
タンゴ司令もワルツ司令も、久しぶりに『水を得た魚』という感じで命令を発した。
金星が誇った二機の宇宙軍艦は、地球を飛び立った。
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「なんで、今頃攻撃してきたのさ?」
女将さんがビュリアに尋ねた。
「そりゃあ、『ママ』、気に入らなかったんでしょうよ。」
「何が?」
「だって、自分たちの収入源を全て奪われたんだからね。もっとも、怒りを向ける相手も混乱状態でまとも
に動いてないものだから、いくらか迷ったんじゃない?」
ビュリアが解説するように応えた。
「諦めが悪い事だわ。」
ママが言い捨てた。
「まあね。でも、その真意は、いささか複雑そうだわ。」
「そうなの?」
「うん。彼らの中でも、きっと一つじゃない。『ママも知る様に』ポプリスちゃんは独裁者だけど、あの集
団は民主的な構造も持ってる。キラール公は、火星の王族出身だから、なんとなく貴族的で優柔不断に見え
るけど、なかなかしたたかな曲者よ。ポプリスちゃんに忠実なように見えるけど、実はそうでもない。」
「女王様のいとこでしょう?」
「まあね。表向きはね。女王様の体は、ポプリスちゃんが嫌いだけど、キラール公はもっと嫌い。」
「ということは、向こうも嫌い? かな?」
「まあ、そうでしょうとも。」
「じゃあ、狙いは何?」
「さああて、領土を寄こせ! くらいかなあ。」
「ふん。なるほどねぇ。いいタイミングな訳か。」
「そうそう。でも、もしかしたら・・・・・」
「もしかしたら?」
「うん・・・・・まあ、すぐわかるわ。きっとね。」
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『ウジャヤラ・アルフャ』と『ウジャヤラ・ナイト』は小さな空間跳躍を一回して、すぐに『ド・カイヤ
集団』の軍艦付近に出現した。
「いたいた。こいつは、なかなか手ごわそうだな。あのでっかいのはなんだ? あんたんとこのあのバカで
かいのと親戚か?」
タンゴ司令がダレルに尋ねてきた。
「知るものか。あれは、女王の作った物だよ。ぼくの管轄外だから。」
「じゃあ、あれも、そうかもしれないな。」
「なるほど。確かにね。」
「接触する。通信しろ!」
「了解。」
通信士が答えた。
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金星の空中都市群団は、この謎の惑星上に次ぎ次ぎに到着し、住民たちは整然と上陸した。
混乱はほとんど起こらない。
「不思議な光景ですなあ。」
指令が言った。
「まったくね。信じがたいな。夢のようだよ。物理現象としてあり得ない。2億人にも達する人たちが、いっ
ぺんに上陸してるんだよ。同じ空港にね。」
「夢でしょうな。きっと。」
「ふん。そう解釈すれば、何でも可能だ。B級映画のようだが、ぼくらはすでに死滅していて、これらはすべ
て、あの世の出来事なんだろうかな?」
「計器類は、そうは言ってんないんですがね。明らかに存在している。」
「そうじゃないよ。全体が夢ならば、すべて通じるんだ。」
「幽霊は夢を見ないでしょう。」
「絶対に?」
「ええ。ぼくはそう思いますがね。脳がないんだから、夢は見ない。」
「脳はあるのさ。」
長官は、頭をこつこつと叩いて見せた。
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『警部2050』の出した10機の『宇宙パトカー』は、この時点では直系10CMほどの玉に過ぎなかっ
た。
しかし、それらは、二つの勢力の間で、急速に膨張した。
彼らはすぐに、直系500メートルほどの宇宙船になった。
『こちらは、宇宙警察です。双方に告げます。無意味な戦いは避けなさい。話し合いなさい。クリカエシマ
ス。』
「なんだ? 『宇宙警察』と言うのは?」
キラール公が、貴重な火星猫の頭をなでながら言った。
「さあて。始めて見たわね。」
ポプリスが最高級のババヌッキ茶を飲みながら、文字通りつぶやいた。
「女王の傀儡かな。」
「ううん。ああいう技術は見たことないな。気を付けた方が良いかも。」
二人のいる中央指令室に(どう見ても、宮殿の中の居室にしか見えないが)通信が入った。
「どうしましょうか?」
それは、慇懃無礼な上昇志向の強い副艦長だった。
「さあて、『地球に観光に行く』とお答えなさい。」
『は? 観光ですか? 軍艦で?・・・・いいでしょう。わかりました。やってみます。』
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「ああ、アブラシオさん。」
ビュリアが呼び掛けていた。
「はい。ヘレナ様。」
「あなた、今、動ける?」
「まあ、動けない事はありませんが。」
「そう。じゃあ、ちょっとまだそのまま乗ってる方々を、宇宙旅行に連れて行って差し上げなさい。」
「はい。ポプリスさんに接触しますか?」
「うん。ダレルちゃんも、もう到着したでしょう。」
「了解。」
「戦闘になったら、やんわりと、介入しなさい。お客様も喜ぶでしょう。」
「了解です。」
「あなたの、かわいい親戚くらいのものなんだから、無茶はしないでね。」
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