わたしの永遠の故郷をさがして 第三部 第一章 第六十二回
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世の中には、何らかの事情で、中央からは、はぐれてしまった勢力というものが、往々にして存在する
ものである。
基本的には非力なのだが、武器や、強力な言論の手段などを持っている場合は、権力者には厄介なこと
も、時にはある。
権力側との強い繋がりのあった『青い絆』は、むしろ例外的な存在だ。
そうではない、天涯孤独の大きな独立勢力が、他にいたのだ。
宇宙海賊でもない。
と、言っても、正義の味方でもない。
どちらかと言えば、『ならず者』と社会からは言われたような存在である。
ただし、クンダルのような小者の犯罪者ではない。
大小10隻の強力な軍艦を持ち、沢山の子分がいる。
科学者から医師、カウンセラーまで、人材も一通り取り揃えている。
火星と金星と太陽系内で、裏の世界の商売を中心にして活動していたが、その本拠地は太陽系の最果て
に在り、犯罪すれすれの活動をしていた、闇商人である。武器を扱う死の商人でもある。
そう言う意味では、いくらか似てはいるが、マオ・ドクのような公式な宇宙海賊とも(つまり政府と関
りがある存在である・・)、また一味違う、ややこしい存在だった。
まったく、蚊帳の外の存在である。
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彼らは、火星と金星の悲劇を、じっと眺めていた。
会議の状況も、ちゃんと、チェックしていた。
『ド・カイヤ集団』のポプリス議長は、夫のキラール公と共に、いつ、どう動くのかのを、じっと考えて
来ていた。
そうして、『いま、介入すべきである』、という結論に達したのである。
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『ヘレナさん、ヘレナさん!』
「なあに、アニーさん。」
会議中の、へレナ=ビュリアが答えた。
『『ド・カイヤ』が動きました。地球方向に、ほぼ全軍で移動中。』
「まあ、戦争でもするお気持ちかしら? たしか、戦争はお嫌いでしょうに。」
『ええ。商売の邪魔ですからね。でお、おおかた、地球の占領でもする気じゃないでしょうか。全軍艦出て
来てますよ。攻撃する気、まんまんですよ。なにやら、やな兵器も、作ってましたよ。』
「まあ、黙ってじっとしてはいないと思ったけれどもね。いまさら、しょうがないのにね。」
『まったくです。で、どうしますか。』
「ふうん。わたくしが出る幕じゃぁないわよ。いいわ、ダレルちゃんとリリカ様に、報告入れなさい。ほ
ら、そのコンピ(コンリューター端末)に、割り込み表示させて。面白いわ。どうするかなあ。」
『そんな、のんきなこと言って、いいんですかぁ。』
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ダレルとリリカの端末には、すぐにアニーからの連絡文が表示された。
「なんだこりゃ。」
ダレルは、その報告をさっと見渡した。
それから、席を立ってリリカにささやいた。
「ちょっと、行ってくるから。」
「ええ、報告して。」
「あいよ。」
リリカは、議長に耳打ちした。
「緊急事態らしいので、副首相に対応に行ってもらいますから。」
「はあ?」
しかし、カタクリニウクは、余計な事は言わない人物である。
「ええ。了解。政府の事は政府でどうぞ。」
彼はそう答えた。
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警部2050は、やっとゆったりとした座席に落ち着いたばかりだったが、さっそく自分の警察署から報
告が来た。
「ふん。こいつあぁ・・・、なんだろう。さっそく、観察に出そう。」
警部の、例の球体本部は、地球の周回軌道上に戻っていたが、小型飛行体が(つまり、パトカーであ
る)、10機ほど飛び上がった。
それは、超高速で目標の軍艦らしき宇宙船に接近して行った。
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ビュリア=へレナは、ああは言ったが、まあ気にはなるので、ごく一部の意識だけを宇宙空間に広げて
いった。
こちらは、警部の子分たちよりも、さらに早い。
早いと言うよりも、一瞬で目標に到達してしまう。
『いたいた。『ド・カイヤ』の宇宙群団か。久しぶりに見たわね。旗艦は、アブラシオの半分はあるわ。
火星や金星の軍艦なんか、せいぜいアリさんみたいね。こんなもの、どうやって作ったか、・・・わたくし
は、実は知ってるけどなあ。あの嫌な、ぽぷりすちゃんは、ど・こ・か・な? ・・・・いました。あいか
わらず、にやけたご主人とくっついてるのか。仲のいい事ですわ。どうしよう。ここで、ご挨拶しようか
なあ・・・・・まあ、でも、わたくしの出る幕じゃあないからな。他の船も観察しますか・・・」
ヘレナは、全軍艦や、その搭載艦や、軍備を一通り見て回った。
『こらぁ、本気で攻撃する気でいるわね。まずいな。これ以上の犠牲はいやだわ。準備準備!』
ヘレナ=ビュリアは、意識を宇宙から引いた。
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いっぽう、警部2050の子分たちは、早くもこの群団を見つけていた。
ヘレナのような例外を除いて、火星の人間には、まねができない。
もっとも、金星の忘れ形見である、二隻の軍艦は違う。
「指令、なにか接近して来てます。異常な巨大物体ですが、自然のものではなさそうです。」
タンゴ司令とワルツ司令は、警護付きで会場の三階席にいた。
幸い、軍艦との連絡は許されていた。
そこに、ダレルからの連絡も入ってきたのだ。
二人は、呼び出されたのである。
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「ふうん。いったい、こりゃあ何だろうか。」
『温泉地球』の隣にある『地球事務所』は、現在火星政府の仮庁舎である。
そこには、さまざまな、最新鋭の『機器』が用意されていた。
『女将さん』も来ていた。
彼女は、いざとなれば、ただの『女将』ではないのだから。
「大きいですなあ。あのアブラシオの半分はある。偵察衛星が残っててよかったですなあ。」
『事務所』のクアル司令官が言った。
彼は、誠実で、実に良い人間である。
政治家には向かないけれども。
「副首相! 情報が来てますよ。宇宙警察警部『2050』発。」
係官が叫んだ。
「出してください。」
ダレルが答えた。
「こりゃあ、中継のようですが、よくこんな鮮明なモノが。・・・まだ、遠いのに。」
係官が感心している。
「まあ、人間じゃないからね、無理もない。しかし、こいつは、実際、でっかいな。」
ダレルも、しきりに感心しているらしかった。
「声掛けますか?」
司令官が尋ねた。
「ああ、当然。甘く見られたくない。これは、きっと例の『どかいや』さんとかいう、戦争屋さんだよ。合
成音声で、警戒コンタクトして。」
「了解。」
コンピューターが作成した音声が、群団に向けて発信された。
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『警告! こちらは、『火星政府』です。貴艦の所属、目的地、その目的を報告してください。あなたが
たは、火星の防空宙域に接近しています。報告願います、こちら、『火星政府』。以上。繰り返しま
す。・・・・・』
「だ、そうですが。どうしますか。」
副長が尋ねてきた。
ポプリス議長は、豪勢で美しい自室の中で、夫と戯れていた。
「まったく困ったものよね。自分たちの立場というものを、わきまえてほしいな。いいわ。こちらから警告
して差し上げましょうよ。『降伏勧告』しなさい。それと、衛星を二つくらい瞬間消去して差し上げなさ
い。」
「了解。」
目に見えないビームが、宇宙空間を飛んだ。
火星政府が飛ばしていた沢山の人工衛星の内の二つが、突然消滅した。
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「降伏勧告がきました。『ただちに降伏しなさい。こちらは『ド・カイヤ集団』である。1時間以内に降伏
し、われわれを受け入れなければ、地球の会議会場を直接攻撃します、以上。』です。」
「衛星が二機、通信不能。破壊されたようです。」
もう一人の通信士が報告した。
「戦争始める気か。」
「協力しますよ。ワンとアルファ、出しますよ。拘束を解いてくれればね。早いですよ。すぐに到達でき
る。」
タンゴ司令が言った。
「ふうん・・・こっちの要員も乗せてもらえるなら、いいでしょう。」
「ほう。どなたが乗りますか?」
「もちろん、ぼく。」
「副首相が? そりゃあ、駄目でしょう。あり得ないですよ。」
「それが、ぼくのやり方だから。」
「はあ・・でいつ?」
「だから、あなたが言うように、今、すぐね。もちろん僕だけじゃなくて、ソーも連れて行く。」
「あなたの副官ですな。」
「そう。」
「まあ、いいでしょう。」
「あの、首相には?」
事務所の司令官が、心配して尋ねてきた。
「ああ、ぼくが報告するから、あなたは心配要らないから。」
ダレルと金星の司令官たちは、そこから出て行った。
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ソーは、慌てて軍艦が係留されている『パレス』付近に向かった。
アリーシャも呼び出されていた。
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リリカには、ダレルから報告は確かに来た。
「こらあ。勝手なことするなあ! 私の副官をどうするの・・・」
「まかせろ。じゃな。そっちは頼む。」
「あ、切れた。。。まったく、ここでの自分の役割を考えなさい。困ったものだ。しかし、こうはしてられ
ない。すぐ全員、避難させなきゃあ。」
リリカは、即座に会議を中断させた。
「会場の皆さま、本会場が、攻撃される可能性があります。一端会議は中断して、地下に避難します。地
下シェルターがあります。誘導が行われますから、けっして規律を乱さないように、避難してください。部
屋などに荷物を取りに帰ったりは禁止です。ご家族が別になっていても、こちらで誘導しますから、探した
りしないで、このまますぐに避難してください。落ち着いてください。このまま、避難です!」
みじめな戦争を経験した人々は、もう、うんざりではあったが、しかし、まだ緊張感が残っていた分、避
難はやり易かったとも言えた。
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「なんのことだか。教授、行きましょう。ここは仕方がない。こっちは戦争は素人だ。」
ブル博士が言った。
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ビュリアは、この様子を舞台から眺めながら、アニーと連絡を取っていた。
「アニーさん。男の子やウナさんを確保しなさい。安全な場所に移動させて。」
『了解、処置します。・・・・・完了。』
「地球の『ママ』は?」
『事務所の地下サイトです。まず安全でしょう。』
「そう。見逃し、逃げ遅れがないように、避難を監視しなさい。」
『了解。』
「この地域全体を、防御シールドで囲って。」
『了解。』
「えと、この『ママ』を避難させて。」
「了解。」
『金星のママ』=アバラジュラが、そこから消えた。
「さてと、リリカさんとわたくしは、地球事務所に参りましょうか。リリカさん。いいですか?」
「避難を最後まで確認します。」
「ああ・・・わかった。そうしなさい。まあ、あなたらしいわ。」
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