わたしの永遠の故郷をさがして 第三部 第一章 第六十一回
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「さて、委員会はさきほど、『協力者』のリストを提示いたしましたが、これは、この後の状況も加味し
て、さらに変更が行われることになるでしょう。もちろんまだ事情を聴くべき方々は残っておりますから。
まず、『青い絆』についてです。ここに、リーダーさんか、サブの方はいらっしゃいますかな。」
議長が呼びかけた。
アダモスが立ち上がって、手を上げた。
しかし、反対側でもうひとり、いやふたり、立ちあがったものがいたのである。
さらに桟敷席でも。
それは、当然、カシャとアンナ、それに、ニコラニデスであった。
「ほう・・・3人いらっしゃいますか。2階席で立ち上がった方がいらっしゃいますな。では、いい
でしょう。みなさん壇上にどうぞ。」
4人は客席から、ひな壇に上がってきたのである。
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「さて、それぞれ、まずは、自己紹介してからお話して、ください。」
椅子は4つ、舞台に用意されていた。
まず、アダモスが立ち上がった。
「私は、アダモス。元、『青い絆』のリーダーです。ただし、現在のリーダーではありません。それは、か
れ、ニコラニデスであります。しかし、かれがリーダーになったのはつい先日で、創立からずっと指導者と
して関わってきたのは、このアダモスであります。そうして、常に私を支えてきてくれたのが、カシャと、
アンナです。」
会場が少しざわざわした。
「とはいえ、特にアンナには、さまざまないきさつが伴っています。これをここで述べるにあたっては、リ
リカ様の同意が必要になります。それと、アンナ本人のですが。」
「ああ、よくわからないが、リリカさんいかがですか?」
「わたくしは、同意します。ただ、カシャさんとアンナさんのほか、もう一人同意を得る必要があります。
お名前は奇しくも私と同じアンナさんです。会場にいらっしゃるでしょう?」
「ほう、もうおひとりのアンナさんですか。いらっしゃいますかな?」
もう一人のアンナは、覚悟したように手を上げた。
周囲の人々は、かなり驚きながら、なんとなく黒づくめの彼女を見た。
その姿は、あまりよく見極められないような、ぼやっとした感じだ。
「はい、認めます。」
うめくような声がした。
再び会場はざわついた。
リリカは、もうひとりの自分については、当然に、あまり公開したくはなかったのだ。
しかし、ビュリア=ヘレナからは、『隠し立てはしないように』との、声ではない指示が来ていた。
従う以外にはない。
ダレルは、相当、懐疑的な感じがしていた。
はたして、民衆の理解が得られるのかどうかは、よくわからなかったからだ。
混乱させるだけではないのか?
まあ、しかし、ビュリア=ヘレナに、今ここで反発してみても、まあ、仕方がない事だとも思ったが。
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全員の了承が得られたことから、アダモスは続けて話した。
「もともと、『青い絆』の創設を図ったのは、ビューナス様ご自身でした。」
すぐに、会場は沸いた。
特に、火星人側からは、口笛も吹かれていた。
「しかし、実のところ、その裏側には、怪物ブリューリが、つまり、火星の女王様が控えていたことは、間
違いが無いと、ぼくは思っています。」
会場内は、今度はもう、大騒ぎになった。
怒号が飛び交った。
「お静かに。興奮しないでください。ここは、厳格でありたい場所ですぞ。」
カタクリニウク議長が一喝した。
これが功を奏するところが、この人の並ではない能力なのである。
「ああ、それは推測ですな?」
「そうです。非常に確度の高い推測です。」
また会場内が少し沸き上がったが、先ほどまでは行かなかった。
「証拠がありますか?」
「いえ、物証はない。しかし、ビュリアさんがいますから。」
「なるほど、いいでしょう、あとでビュリアさんにお伺いしましょう。じゃあ、続けてください。」
「はい。つまり、ぼくは、『青い絆』は、ブリューリの指示により、火星の女王さまの意を受け、ビューナ
ス様によって創設されたと、ぼくは考えています。ビューナス様を創造したのが女王さまであると言うこと
が明らかになった以上、それは極めてあり得ることですよ。もちろん、ぼくは直接には関わっていません。
当時私は、金星の大学院で医学の研究をしていましたが、臨床よりも、むしろ工学的な、人間の脳の機能
に関する制御に興味がありました。
つまり、人間の脳の中の記憶や、意識というようなものを、他の脳などに移転させる技術です。きわめて
ある種、異端的で、倫理的には問題があることは認めますが、この研究は、ビューナス様の目に留まってい
たのです。そこでぼくは、秘密裏に軍事関係の資金を獲得していました。これは、金星の最高階層の人たち
にも知られていなかった。情報局長でさえ知らなかった。はっきり言えば、ビューナス様と、ごく少数の僕
の仲間と、研究アンドロイドしか知らなかった。カシャは、その仲間のひとりでした。彼は、学者ではな
かったが、まあ、幼なじみというか、ぼくの精神的な共同者というか、ある種の理想を共有する人です。つ
まり、火星に自由をもたらし、金星との惑星合同を図り、戦争も飢餓も差別もない、公平で、理想的な太陽
系世界を築くこと、であります。アンナは、ぼくの妹で、カシャの恋人でありました。まあ、結論から言っ
てしまえば、そこをブリューリと火星の女王様に付け込まれ、ビューナス様にも利用された、というのが、
本当のところだったのでしょう。ただ、ビューナス様に関しては、いまだによくわからないのです。それ
が、独自の理想、あるいは野望だったのか、それとも、結局のところ、火星の女王さまの意志のままだった
のか。不明です・・・・」
アダモスは、一旦、そこで話を区切った。
用意された水を、上品なコップから飲んだ。
「いい水だな。」
アダモスは、つぶやいた。
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