わたしの永遠の故郷をさがして 第三部 第一章 第五回
『「ホテル」の上に到着ですよ。』
アブラシオが、ダレルとリリカ(本体)に告げた。
「よし、じゃあ、ビュリアの仰せに従って、ちょっとパフォーマンスをするかな。「パレス」の方にも投影できるかい?」
『もちろんです。「すべての場所」に中継します。』
「ああ、そう・・・じゃあ、いささか子供だましではあるが、心理学的には悪くなかろう。」
ダレルの姿が、「ホテル」と「パレス」の上方の空間に大きく写し出された。
その声は、建物の中にも響きわたった。
『みなさん。火星の副首相ダレルです。意味のない戦いは、もう中止にしましょう。すでに「金星」も「火星」も文明が消滅したのです。我らの帰るべき場所は、灰燼に帰しました。どちらも、このような姿です。これは現在の火星と金星の状況であります。』
地球の上空に、すべてが焼け野が原で、真っ黒な単一の色の大地に変わり果てた「火星」と、空中都市がいなくなり、ただ放棄された「空中都市」の残骸だけが転がる、上空には激しい強風が吹き荒れ、荒涼とした、「金星」の状況が写し出された。
そうして、目を覆いたくなるような光景も、次々に地球の空に広がった。
『これは、我々が招いた結果です。多くの同胞が命を落としました。金星人は、大部分の人が脱出には成功したものの、その多くが何者かによって殺され、また残りの人々は、正体不明の「異空間」に吸収されて、行方不明です。もちろん、捜索は行っています。火星人も、まだ詳細は確認できていませんが、予想以上に、多くの人が亡くなりました。さらにすべてを失い、ばらばらになりました。この船にも多くの人が、救助されています。もちろん金星人の方も多く乗っておられますし、ご希望の方は、この先、この船が、救助します。しかし、今日16時から、代表者による会議が行われます。この会議は、このような形でテレビ中継します。この船は、しばらく地球上に滞在し、その後、各移住地に向けて出発します。今後どうするか、各自よく考えて、地球に残るか、他に移住するかの結論を出してください。ただし、地球に残る場合は、一部の研究機関の所属員等以外の方は、大陸から出て、新しい国に居住していただくことになります。詳細は、会議の中で明らかになるでしょう。もし、まだ戦闘状態にある方は、すぐに武装解除してください。では、その時また・・・幸運を祈ります。』
もちろん、リアルもキャリアも、「ホテル」の「自動食堂」でこの様子を見ていた。
そのほかの「青い絆」のメンバーも、それぞれの場所で見ていたし、それは「パレス」でも同様だった。
拘束されている「施設長」も見ていた。
女将さんは、ニコラニデスと一緒に、お茶を飲みながら、地下の部屋の中で見ていた。
その映像は、空中だけではなく、あらゆる、存在する部屋の中にも映し出されていたのだった。
「ババヌッキ社」の社長一家も見ていた。
「イノストランケビア」はじめ、地球上に存在していた生き物たちすべても、見ていた。
「光人間」たちにも、ちゃんと見えていた。
「アブラシオ」の中にいる人々も、もちろん見ていた。
金星の軍艦の中でも、ワルツ司令以下全員が見ていた。
「タル・レジャ」王国にいる人たちも、同様のものを見聞きしていた。
地球の月や、火星の衛星、木星や土星の衛星にいる人も、まったく同様だった。
金星と火星でも、この映像は写し出されていた。特に火星の地下都市では、多くの生き残りの人たちがこれを見ていたのだ。
実を言うと、ほとんど、誰にも何も知られていないごく少数の人が、火星と金星の地上でこれを見ていた。
そして・・・『ママ』も見ていた。
第九惑星を回る「宇宙ステーション」にも、これは届いていたのだ。
「宇宙クジラ」・・・アルファ・ケンタウリの住民・・・も、太陽系のどこかで、これを見ていた。
もちろん、この宇宙規模の中継に、ビュリアとやっと機能が回復してきたアニーが絡んでいたことは間違いない。
ただ、そこまで、この中継が広がっていたなんて、ダレルもリリカも知らなかったが。
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女将さんは、言った。
『じゃあ、時間が来たら、お迎えに参ります。あなたは重要人物ですからね。まだ監視はしていますよ。少し用事があるので、またあとで。』
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キャロンは、どこかに連絡を取っていた。
『まあ、いいんじゃないですか、と、言っております。なので、どうぞ。』
聞いたような声がした。
「了解。じゃあ、出席します。」
彼女はそれから、マヤコの部屋に取って返した。
「マヤコさん・・・」
「ああ、キャロンさん。」
「じゃあ、私も出席することにしました。なので、一緒に行きましょう。」
「あああ、でも、この格好では。」
「大丈夫です。私なんかどうするのでしょう。でも、まずは「温泉地球」で少し準備しませんか?女将さんにも、会っておいたほうが、きっと良いでしょう。味方してくれますよ。」
「女将さんって、超豪華な火星の「地球温泉」の?ですか?」
「そうそう。」
「知り合いなのですか?キャロンさんは?」
「まあ、仕事上、お付き合いはありますよ、同業者なんだから。」
「ああ、それはまあ、そうですねえ。あの、温泉に入れますか?」
「もちろん。そのために、早めに行きましょう。いいお湯ですよ。」
「素晴らしい! 最高です。」
「まあ、マヤコさんなら、きっと喜んでくださると思いました。」
「でも、お金ないですよ。」
「大丈夫。いまさら、お金取る人なんか、いないでしょう。」
「うわあ、温泉、最高!」
「行きましょう!」
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