わたしの永遠の故郷をさがして 第三部 第一章 第五十六回
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キッチンは、消えてしまった。
連絡は、間に合わなかった。
彼は、もはやどうにもならない場所に、行ってしまったのであろう。
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金星の、『全空中都市群団』には、その不可思議な惑星に降り立つという、総統の決定が伝えられた。
先遣隊は、住宅を含めた様々な施設を一応見て回り、その報告を上げたのである。
『移住は可能である。』
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ブリアニデスは、ともかくも一旦全員の上陸を認める決断をしたのだ。
まあ、いくらかの休憩も必要なのだろう。
それは、住民や兵士たちだけではなくて、官僚や、各指揮官たちにも言えることだ。
しかし、彼は長居するつもりもなかった。
体制が整ったら、故郷を目指して再び、旅立つのだ!
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「総統に、面談してください。」
指令は、ヘレナリアにそう願い出た。
「よろしいでしょう。別にお断わりする理由もないですからね。」
ヘレナリアも、あっさりと了承した。
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宇宙空港は、にわかに賑やかになった。
それまでは、誰もいなかった各ブースや売店に、突然、沢山の『担当者』が現れたのだ。
「こんなことが可能ならば、求人の未充足も、人材不足も起こらないですなあ。供給するだけの需要をぴったり用意することも可能でしょうなあ。まさに、『神の手』だ。」
局長が、ただ呆れて言った。
「いやあ、やはり、幻でしょう。ただの。」
指令は、実のところは、どこかまだ、懐疑的である。
「そりゃあ、そうですがね。しかし、我々の五感も、感知器も、全てが事実だと言っていますからなあ。」
「まあね。皆、惑わされやすいのです。きっと。」
「ふうん・・・・・・」
空港内を、ブリアニデスの到着を待ちながら、見回っていた二人なのであった。
しかし、面会を了承したはずの、ヘレナリアの姿は、いまだどこにもない。
「まあ、あなたが言う通り、幽霊みたいないものですからなあ。きっと、その時になれば、どこからか、出てくるんでしょう。」
いささか、心配気味の指令を、今度は局長が冷やかした。
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『空中都市』の飛来風景は、それはもう、ものすごいものだった。
なにしろ、全金星上空に広がっていた『空中都市』の、かなりな部分が、一挙にここにやって来たのだ。
まあ、普通の宇宙空港で、対応可能なものではないのだ。
しかし、ここはまったく、要領の違う場所だった。
ありえない事ではあったが、ここの空間の広さに「際限」というものは、ないらしい。
どれだけ、巨大で大量な『空中都市』が押しかけて来ようが、まったく問題にならなかったのだから。
ブリアニデスの旗艦は、最後のひとつまで、空中都市の降下を見守っていた。
宇宙から見ていると、特に変わったこともないのだ。
しかし、確かに、これだけの膨大な面積、体積を持つ『空中都市』が、特定の場所にどんどん吸収されてしまうように見えるのは、いささか不可思議だった。
「ううん・・・ありえないことですなあ。」
情報局長も、首をひねった。
「我々は、もしかしたら、非常に異常な光景を、何の気なしに眺めているのではないか、と思いますな。」
「怪奇現象かな。」
「まったく、そうでしょう。まるでブラックホールに吸収されているみたいです。しかし、通信も問題ないし、誰も異常に感じていないらしい。」
「そりゃあ、だって、これだけ降りたら、いくらぎゅうぎゅう詰めにしたって、この大きな惑星でも、北半球全体を埋めてしまうことだろう。端から端までは、飛行機か宇宙船じゃないと行き来できまい。あり得ないことだが。」
「ううん。そうなんですがねえ。我々が縮小しているか、逆に空間が広がってるのか、どっちかですなあ。」
「見た目、何も変わらないな。まあ、ここからでは遠いものな。ぼちぼち、もう少し、下がって見るか。しっかり計測しろよな。」
『ワン』は、降下をし始めた。
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「そろそろくるか。しっかし、信じられませんなあ。これは。」
指令が、そう言った。
「うん。君、ちゃんと観測してるよね。」
「もちろん。」
「何か?」
「いやあ。まだですよ。データを全て照合してからじゃあないと、なんとも言えないでしょう。」
「まあね。でも、ものさしそのものが狂っていたら、なんにも、わからないだろうけどね。」
「まあ、観測用の衛星を宇宙のあっちこっちに置いてきたんだから、なにかは分かるんじゃあないでしょうかねぇ。」
「ふうん。まあねぇ。」
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「いったい、彼女にどう説明したらいいのかなあ?」
ダンクがぼんやりと回答したが、彼とて、さしてよい案は、なかったのである。
「でも、伝えた方がいいよね。」
ナナがつぶやいた。
「黙っておくわけにはゆかないでしょう?」
「ああ、そうだな。」
「着いたら、早めに、行く? 忙しくなるだろうし。気にはなるし。」
「ああ。そうだな。」
二人は、もう目前に迫った不思議な惑星を見ながら、少し沈黙した。
「でもなあ、・・・・」
「うん?」
「あれって、ほんものの、のりちゃんかなあ? 第一ね。」
「ふん。そうよね。それは、まあ、そうだけどな。でも、データ見る限りは、本物よね。コピーとかだと?」
「うん。火星は、コピー人間を大量に作る能力があった。われわれも、クローンは作れたが、子供からだ。
やつらは、どんな状況のものも、すぐにコピ-できた。」
「まあねえ。でも、ここは火星でも金星でもないわ。同じ宇宙でさえもない。ありえない。」
「じゃあ、のりちゃんな訳がない。」
「でも、わたしたちは、ここにいる。」
「はあ・・・うん。まあ、彼女がキッチンを知っていることは、確認済みだからね。とりあえず、やはり結論は同じだろうね。」
「ええ、まあそうね。」
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警部2050は、それこそ、あっという間に、金星に到達した。
「ふうん・・・・ここの『ママ』には、先日話をしたばかりだが、どうやら事態が急変したらしい。『ママ』の棲み処は、この星の核の中だった。まあ、この太陽系の人類が到達できる日は、まだまだ先なんだろうな。おまけに、ここには、通常空間からは入れないと見た。まてまて・・・・こりゃあ、大昔、どっかで見た構造だな。やはり、あの廃墟も、女王が残した文明のひとつだったのかな。場所は同じだが、空間が違う。ならば、入り込む余地はある・・・一旦、十次元まで帰る。極小にならなければな・・・・おお、確かここには温泉があると聞いたが、まだ入れるのかなあ。温泉、いいなあ・・・・」
警部2050の船は、多次元空間を経由して、『ママ』のいる空間に向かった。
「まあ、まてまて、慌てないことが、肝要だな。これ以上、ただまっすぐにすぐに進むと、危険だな。通信だけでも、まずは確立しよう。空間に小さな穴をあけるぞ・・・」
警部2050は、慎重に事を進めた。
『ママ』たちが、存在するであろう空間の特定は、すでにできた。
しかし、絶対に鍵がかけてあるに違いない。
うっかり侵入したら、消滅するだろう。
「ビュリアさんが、受信できればいいが。あの、宇宙生態コンピューターでもいいな。よし。これで、通信は可能になるだろう。」
警部は、とりあえず意味内容のない、人工的な信号を送った。1から100000まで、数えるだけの信号。
「発見してくださいよ。」
警部は、そう願ったのである。
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