わたしの永遠の故郷をさがして 第三部 第一章 第五十二回
************ ************
************ ************
「うわあ!すごいなあ!すごいなあ!」
パル君は勘が鋭かった。
自分がなぜ、ここに来ているのかについても、はっきりとした認識があったのだ。
そうして、ビュリアが何かの策を行おうとしている事についても、よくわかっていた。
もちろん、その内容がいったい何だったのかを、具体的に彼が知ることになるのは、もう少し後、国王になってからの事だけれども、しかし、それを知った時でさえ、パル君はさして不思議には思わなかったのである。
「まあ、そんな、とこなんだろうな。」
そう言っただけ、だったのだから。
しかし、今大切な事は、まずは短時間で『ママ』と仲良しになることだった。
どうしても、『ママ』にとって、パル君といることが、とても大切だと思ってもらえるくらいに。
だから、パル君は一生けんめいに、ママと遊んだのである。
一方、ウナも、それなりの事は理解できていた。
実は、この体をもらった時に、『ある種の異空間』に入ると、『身体が崩壊する危険性がある』と警告はされていたのだ。
だから、現実空間ではない空間には『けっして近寄らない事』と、言われていたのである。
ここが、現実空間ではない事は明らかだ。
ビュリアは、そのことも、きっと知っているのだろう。
だから、2時間にこだわっているんだろう。
それは、自分の為なのだ。
けれども、もしその時間を超過して、自分が崩壊しても、ものごとが成り立つためならば、それはもう、仕方がないと考えてもいた。
光人間であるウナが、消滅すると言うことは、おそらくない。
ただし、光人間の身体の構築は、『宇宙クジラさんの技術』でないと、出来ないらしい。
これが可能になったのは、本当に奇跡に近かったのだ。
たとえヘレナの頼みであっても、そう何回も聞いてくれるような相手ではない。
いや、たしかに、彼らはそれなりの報酬は求める。
莫大な量のエネルギーである。
ヘレナだから、その報酬を作り出すことが出来た。
もう一回行う事も、報酬によっては可能かもしれないが、ヘレナにだって算段があったからそんな無理をしたのだ。
もう一回は、ない。
そう考えるのが、当然の事である。
ウナは、『ママ』とパル君の邪魔にならないように、上手く振舞っていた。
ヘレナ・・・つまりビュリアも、表向きの言葉とは違って、そうだったのだから。
************ ************
「うわあ。パル君すごいねぇ。こんどは、この『史上最高の絶叫まし~ん』に乗ろうか?」
ママが言った。
なんだか、宇宙空間にまで届きそうな『超絶絶叫マシーン』である。
「『ママさん』大丈夫?」
パル君が心配そうに言った。
「まさか、あたしは何でも平気さ。」
まあ、実際そうだったのだが、パル君には少し嫌な予感があった。
「よし、行こう!ね。」
『ママ』はさっさと受付に向かう。
「あああ・・・まって!」
パル君が追いかけた。
一方で、アニーは、ちょっとした『要衝部分』に、差し掛かっていた。
『気が付くかもしれないなあ。少し痛いところに当たるかなあ・・・まあ、でも、麻酔したら、まずいか。。。あらら、そんなこと言ってる場合でしょうか・・・でも、ここは丁度良いくらいに麻酔が必要かな。ちょっと、くらっとくらああ。。。。なんちゃって・・・・・まてまて、慎重に行こう。へレナさんの了解をとるかなあ。いやいやあ、忙しいんだから、まあ、いいか・・・・』
アニーの、『ミス』であった。
************ ************
「ええ、会議を再開します!」
議長が叫んだ。
会場は大幅にざわついている。
「ビュリアさんは、どこか~~~??!!!」
誰かが大声を上げているのだ。
まあ、これは某教授に違いない。
しかし、そこに同調する輩は、当然出てくるのである。
「ビュリアを呼べー!」
呼び捨ても聞こえ出してくる。
一人が言えば、周囲は言いやすくなる。
これはヤジの鉄則である。
悪乗りする人も増加して来る。
会議はますます紛糾するのである。
しかしながら、そこはこの議長もただ者ではない。
「諸君! お静かに! ここは、会議場である!」
カタクリニウク議長が一喝した。
さすがの会場内も、まだ、いくらかざわざわとするが、それなりに静まってきた。
ブル教授が、やけに、にやにやとお隣の教授とひそひそ話をしている。
「くっそー、腹が立つやつだ、いつか、ぶんなぐってやるからなあ。」
ダレルがつぶやく。
そんな、ダレルの手の甲にそっと手を当てて、リリカが冷静になる様に促している。
「くそ!!」
「なんとか、まとめなきゃね。あなたが。」
「はあ・・・そんな一声は持ってないよ。それがあるのは、へレナだけだ。」
「まあ、待ちましょうよ。きっと事態が急変するわ。」
「そうか? 本当に、そう思うのか?」
「うん。まあね。そこまで、持ちこたえなさいよ。副首相様。」
「はいはい、首相閣下殿・・・」
「ええ、では、再開します。ダレルさん、続きをどうぞ。」
ダレルは席を立った。
************ ************
『ママ』とパル君は、『史上最大の絶叫マシーン』に座った。
安全はしっかり考慮されていて、振り落とされるようなことなどはない。
はずである。
「いくよ! パル君!」
『ママ』が言った。
楽しそうである。
こんな楽しそうな『ママ』は、ビュリアでさえ、見たことがなかった。
現役の人間時代・・・・超大昔である。
『ママ』は、その太古の惑星の女王だった。
宇宙はまだ狭く、小さかったが、それでも無限だったのだ。
『ママ』は、政務に明け暮れていた。
女王の、新しい夫君は、権力には、一切タッチしなかった。
それが、彼が生き残った最大の理由だったのである。
二人に生まれた王女こそ、へレナが最初に取りついた、この宇宙の人間だったのである。
まあ、ビュリアの、原初の姿なのである。
その記憶は、当然、大部分は整理されて、今はへレナしか知らない、どこかの恒星か惑星かに保管されているのだろうけれど、ビュリアにも、その断片は与えられている。
はるか後に、『ヘレナ史上』最大の『エポック』となる人間となった、『弘子』とその妹、『道子』も、いくらかは、まだその記憶を、受け継いでいたのである。
それだけ、ヘレナにとっても、それは重要な事柄だった訳なのだ。
いま、その本体の主要部分が出張中のビュリアも、マシーンの下から、こころなしか、心配そうに見上げている。
ウナがビュリアの手を取った。
彼女も、何かを、感じているらしい。
『史上最大の絶叫マシーン』は、ゆっくりと動き始めた。
過去にも未来にも、こいつが動いたのは、この時だけなのである。
************ ************
************ ************




