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わたしの永遠の故郷をさがして 第三部 第一章 第五十一回


 ************   ************


 アバラジュラは、自分がなぜ拘束されているのかについて、明確な説明をまだ受けていなかった。


 彼女は、かつてビュリア自身だったことがある。


 それは、今はわかっている。


 どうしたわけか、そのころの記憶が蘇って来ていたからである。


 それは、悪い出来事だったと言う認識には、なってはいなかったのだけれども。


 そこんところに、ビュリアの意図が混じっていなかったのか、と言えば、多分嘘である。


 ビュリアは、つまり、へレナは、いずれアバラジュラを再利用するつもりではいたから。


 もう少し正確に言えば、この体自体が、気に入っていたと言うわけなのだから。


 アバラジュラには、拒否する意識は芽生えない。


 そのように設定したから。


 とは言え、完全にロボット化しているということではないのだ。


 彼女には自由意志があり、自分で判断する。


 そこに、間違いはない。


 判断の基準が、すでに示されていた、だけの事なのだから。


 多くの人間は、実際に、皆、そうなのである。




『さて、アバラジュラ様。』


 ビュリアの声が聞こえた。


『あなたには、今後、新しい人生を歩んでいただきたいのです。新しいあなたとして。』


 アバラジュラは、意識の中で答えた。


『それは、具体的には、どういう事ですか?』


『簡単です。あなたは、金星の『ママ』自身になります。しかし、あなたが死ぬのではない。あなたが、今自分はアバラジュラだと思っているのと同じように、自分を『ママ』だと意識するだけの事ですから。』


『自分の事は、忘れるのですか?』


『いいえ、あなたは『ママ』として、アバラジュラの記憶をも継承します。ただし、それは自分の記憶とはちょっと違いますが。人の記憶をもらった、あるいは、吸収した、という感じですね。』


『非常に、認識しにくいです。』


『なってみれば、簡単な事です。それから、あなたは不死となります。永遠に、と言っても、この宇宙が存在する限りにおいて、ですが。しかし、それは、この宇宙においては永遠というべきものです。』


『それは、《素晴らしい事》でしょうか?』


『そう認識してほしいと、思います。』


『あなたは、ずっと、一緒なのですか?』


『そう思ってくださって、間違いありません。ただ、わたくしの姿は、多分変わるでしょう。』


『そですか・・・拒否は出来ないのですね。』


『まあ、そうですね。』


 アバラジュラは、どうすることもできないと悟っていた。


 自分の体は、もう、まったく認識できない状態だった。


 腕も、足も、どこも動かせなかった。


 痛くも痒くもなかったが。




 ************   ************




 パル君たちは、遊園地に入った。


 ちゃんと、チケット売り場があった。


 『ママ』が売り場の中の人影に向かって言った。


「ええと、大人が、なんだっけ、3人かな、それと、7歳未満がひとりね。」


「はい。お支払いは?」


「クレジット。」


「はい。では、1600ドリムです。ありがとうございます。」


 『ママ』は、きちんとカードを受け取った。


 それから、パル君に長方形の入場券を渡したのである。


「あんたたちにもね。はいよ。」


 ビュリアとウナにも、同じようにチケットを手渡した。


 実際、これがなければ、遊園地に来た気分なんか、しないだろう。


 入口では、もう、わくわくしながら、半券を切ってもらうのだ。


「まあ、また、でっかいのを作ったもんだ。」


 ビュリアが、相当、呆れたように言った。


「金星空中都市の遊園地の、倍はあるよ。」


「もう、二時間もないのよ、『ママ』。」


「また、そんなこと言って。さあ、パル君、何が良いかなあ? ほら、これ案内パンフ。」


「うわあ・・・乗り物も、いっぱいあるんだ。ああ、動物園もあるのかあ!」


「・・ったしかに、すごいかも・・・」


 ウナが同意していた。



 *******     *******



『アニーさん、ウナはどう?』

     

『今のところ、まだ、問題はないですね。しかし、細胞にかかる負荷が大きくなってきています。あまり無茶は出来ないですよ。大きな『G』がかかる感じの遊具は、負荷が高くなりますよ。』


『アバラジュラの方の用意は出来た。『ママ』の反応が心配だ。気が付いたら、抵抗するのは間違いない。』


『まあ、そのことから言えば、ちょっと負荷のかかる『遊具』が好都合ですがね。気がそがれるから。気が付くのが、その分だけ、遅くなるでしょう。』


『そこんとこ、うまくやりなさい。』


『あのですね、これは未知の領域になりますからね。保証は、なしですからね。』


『そこを、なんとかするのが、あなたの務めですから。』


『まあ、努力はしますよ。終了したら、すぐ、強制送還します。ちょっと、パル君にも、きついですよ。』


『わかった、なんとか保護はする。始めなさい。』


『了解。』





 ************   ************



 会議の方は、停滞状態になっていた。


 ビュリアの行方が分からない。


「くそ。逃げたかな。」


 ダレルが毒づいた。


「理由がないでしょう。」


 リリカはそう言ったが、少し心配にはなってきていた。


「連絡付かないの、ですか?」


「ああ、着信しない。圏外らしいな。」


「じゃあ、宇宙空間?」


「そうかな、それとも異次元空間、とかかな。」


「アニーさんに聞いてみたら?」


「うん。そうだね。『おおい、アニーさん、聞いてるかい?』・・・・・」


『・・・こちら、アニー。ただいま、混みあっておりますので、しばらくたってから、お掛け直しください。』


「なんだ、そりゃ。」


「とにかく、ビュリアさん抜きで進めないとだめね。」


「先生がたが、がたがた、うるさいぞ。」


 二人は会議場に戻った。




 ************   ************




 『ママ』の脳には、少しずつ負荷がかかっていた。


 まだ、意識レベルには乗らない位のもので、予備的なものだ。


 一方アバラジュラは、すでに、昏睡状態に置かれていた。


 こんど気が付いたら、もう『ママ』になっているはずだ。


 上手く行けば、一時間少しで完了するはずである。


 手筈は問題ない。


 しかし、『ママ』を完全に眠らせることは、ほぼ不可能である。


 『金星』が眠ってしまってはまずいのだから、『ママ』の脳は、常時活動できるように処置されていた。


 もちろん、一部分は眠っている時間がある。


 そこらあたりをうまく利用して、意図的に休ませているところから、少しずつ移動をさせる。


 だが、どこかで、きっと、おかしいと気が付くだろう。


 そこが勝負になる。


 『ママ』を抑え込めるかどうかが問題だ。


 アニーさんは、いつもとは違って、慎重に事を進めていた。




 ************   ************ 






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