わたしの永遠の故郷をさがして 第三部 第一章 第五十一回
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アバラジュラは、自分がなぜ拘束されているのかについて、明確な説明をまだ受けていなかった。
彼女は、かつてビュリア自身だったことがある。
それは、今はわかっている。
どうしたわけか、そのころの記憶が蘇って来ていたからである。
それは、悪い出来事だったと言う認識には、なってはいなかったのだけれども。
そこんところに、ビュリアの意図が混じっていなかったのか、と言えば、多分嘘である。
ビュリアは、つまり、へレナは、いずれアバラジュラを再利用するつもりではいたから。
もう少し正確に言えば、この体自体が、気に入っていたと言うわけなのだから。
アバラジュラには、拒否する意識は芽生えない。
そのように設定したから。
とは言え、完全にロボット化しているということではないのだ。
彼女には自由意志があり、自分で判断する。
そこに、間違いはない。
判断の基準が、すでに示されていた、だけの事なのだから。
多くの人間は、実際に、皆、そうなのである。
『さて、アバラジュラ様。』
ビュリアの声が聞こえた。
『あなたには、今後、新しい人生を歩んでいただきたいのです。新しいあなたとして。』
アバラジュラは、意識の中で答えた。
『それは、具体的には、どういう事ですか?』
『簡単です。あなたは、金星の『ママ』自身になります。しかし、あなたが死ぬのではない。あなたが、今自分はアバラジュラだと思っているのと同じように、自分を『ママ』だと意識するだけの事ですから。』
『自分の事は、忘れるのですか?』
『いいえ、あなたは『ママ』として、アバラジュラの記憶をも継承します。ただし、それは自分の記憶とはちょっと違いますが。人の記憶をもらった、あるいは、吸収した、という感じですね。』
『非常に、認識しにくいです。』
『なってみれば、簡単な事です。それから、あなたは不死となります。永遠に、と言っても、この宇宙が存在する限りにおいて、ですが。しかし、それは、この宇宙においては永遠というべきものです。』
『それは、《素晴らしい事》でしょうか?』
『そう認識してほしいと、思います。』
『あなたは、ずっと、一緒なのですか?』
『そう思ってくださって、間違いありません。ただ、わたくしの姿は、多分変わるでしょう。』
『そですか・・・拒否は出来ないのですね。』
『まあ、そうですね。』
アバラジュラは、どうすることもできないと悟っていた。
自分の体は、もう、まったく認識できない状態だった。
腕も、足も、どこも動かせなかった。
痛くも痒くもなかったが。
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パル君たちは、遊園地に入った。
ちゃんと、チケット売り場があった。
『ママ』が売り場の中の人影に向かって言った。
「ええと、大人が、なんだっけ、3人かな、それと、7歳未満がひとりね。」
「はい。お支払いは?」
「クレジット。」
「はい。では、1600ドリムです。ありがとうございます。」
『ママ』は、きちんとカードを受け取った。
それから、パル君に長方形の入場券を渡したのである。
「あんたたちにもね。はいよ。」
ビュリアとウナにも、同じようにチケットを手渡した。
実際、これがなければ、遊園地に来た気分なんか、しないだろう。
入口では、もう、わくわくしながら、半券を切ってもらうのだ。
「まあ、また、でっかいのを作ったもんだ。」
ビュリアが、相当、呆れたように言った。
「金星空中都市の遊園地の、倍はあるよ。」
「もう、二時間もないのよ、『ママ』。」
「また、そんなこと言って。さあ、パル君、何が良いかなあ? ほら、これ案内パンフ。」
「うわあ・・・乗り物も、いっぱいあるんだ。ああ、動物園もあるのかあ!」
「・・ったしかに、すごいかも・・・」
ウナが同意していた。
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『アニーさん、ウナはどう?』
『今のところ、まだ、問題はないですね。しかし、細胞にかかる負荷が大きくなってきています。あまり無茶は出来ないですよ。大きな『G』がかかる感じの遊具は、負荷が高くなりますよ。』
『アバラジュラの方の用意は出来た。『ママ』の反応が心配だ。気が付いたら、抵抗するのは間違いない。』
『まあ、そのことから言えば、ちょっと負荷のかかる『遊具』が好都合ですがね。気がそがれるから。気が付くのが、その分だけ、遅くなるでしょう。』
『そこんとこ、うまくやりなさい。』
『あのですね、これは未知の領域になりますからね。保証は、なしですからね。』
『そこを、なんとかするのが、あなたの務めですから。』
『まあ、努力はしますよ。終了したら、すぐ、強制送還します。ちょっと、パル君にも、きついですよ。』
『わかった、なんとか保護はする。始めなさい。』
『了解。』
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会議の方は、停滞状態になっていた。
ビュリアの行方が分からない。
「くそ。逃げたかな。」
ダレルが毒づいた。
「理由がないでしょう。」
リリカはそう言ったが、少し心配にはなってきていた。
「連絡付かないの、ですか?」
「ああ、着信しない。圏外らしいな。」
「じゃあ、宇宙空間?」
「そうかな、それとも異次元空間、とかかな。」
「アニーさんに聞いてみたら?」
「うん。そうだね。『おおい、アニーさん、聞いてるかい?』・・・・・」
『・・・こちら、アニー。ただいま、混みあっておりますので、しばらくたってから、お掛け直しください。』
「なんだ、そりゃ。」
「とにかく、ビュリアさん抜きで進めないとだめね。」
「先生がたが、がたがた、うるさいぞ。」
二人は会議場に戻った。
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『ママ』の脳には、少しずつ負荷がかかっていた。
まだ、意識レベルには乗らない位のもので、予備的なものだ。
一方アバラジュラは、すでに、昏睡状態に置かれていた。
こんど気が付いたら、もう『ママ』になっているはずだ。
上手く行けば、一時間少しで完了するはずである。
手筈は問題ない。
しかし、『ママ』を完全に眠らせることは、ほぼ不可能である。
『金星』が眠ってしまってはまずいのだから、『ママ』の脳は、常時活動できるように処置されていた。
もちろん、一部分は眠っている時間がある。
そこらあたりをうまく利用して、意図的に休ませているところから、少しずつ移動をさせる。
だが、どこかで、きっと、おかしいと気が付くだろう。
そこが勝負になる。
『ママ』を抑え込めるかどうかが問題だ。
アニーさんは、いつもとは違って、慎重に事を進めていた。
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