わたしの永遠の故郷をさがして 第三部 第一章 第四十九回
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「これは、どういうことだろうか?」
ブリアニデスは、情報局長と話し合っていた。
惑星上からは、逐次何が起こっているのかを知らせてきている。
「この、ヘレナリアという女がいったいなんなのか、分析できたのかな?」
「いえ、手こずっています。人間ではない、と言えるのです。しかし、ロボットでもなく、アンドロイドでさえもない。コピー人間、というのでもありません。骨格もなく、内臓もなく、脳さえもない。外部とつながっているいる様子もないですね、それで、なぜあのように行動するのか。我々が持たない技術としか言いようがないです。」
「ふうん。それじゃ、それは女王は持っていたのかな?」
「いえ、少なくとも、こういうのは歴史上では現れた記録がありません。」
「じゃあ、お手上げ?」
「まあ、今のところは。」
「幻とか、そういうものじゃないの?」
「ええ、その可能性はあるのですが、どこからか投影されている形跡もありません。三次元映像でもないです。あるとしたら、我々すべての脳の中に形作られるなにかです。しかしまあ、我々の脳内に細工されたようなおかしな痕跡はないのですが、ただし視覚に問題がある職員にも見えていますから、目からの情報ではないようです。やはり可能性が一番高いのは、脳が直に見ているということですね。」
「ロボットには?」
「それが、見えています。アンドロイドにもね。だから人間の脳だけに働くわけではないようです。だってこうして映像にも映るんですから。わけわけがわからないですが。」
「握手もしたよね。」
「ええ、ちゃんと物質感があります。しかし、生物反応はない。」
「生き物では、ない?」
「ええ。通常の生き物ではない。そこは普段の女王とも違います。でも、女王の中身はおそらく同じように生物反応がない。証明は出来ていませんが、きっとそうです。」
「もしかして、この宇宙も、同じものかもしれないね?」
「まあ、スケールが違い過ぎですが、でも、そうかもしれませんね。実のところは、ババヌッキジュースの自販機用カップくらいの大きさの宇宙かもしれない。例えばですよ。」
「それが、女王の在りあり方なんだろう。在り方というのは、おかしいけれど。要は、ないんだろう?何も。」
「そうです。何もないのに、見えているし話も出来る。存在していないのに、存在しているように現象だけが振舞っている。」
「高次元生物? たくさん次元がありすぎて、僕らには見えない。」
「そうですねえ。しかし、どこかで見えるはずですよ。4次元の生物や物体だって、目の前を通過をしたら形は変わるが一部は見えるでしょう。」
「もっと、高次元の生物? 5次元とか6次元とか。」
「ふうん。そうですねえ。実際ビューナス様は、どこからか、我がこの『ワン』や『ウジャヤラ』に宇宙空間を跳躍する技術を高額で買ってきて、据え付けたわけです。しかし、我々にはメンテナンスができないでいるわけですよ。いまだにです。また我々自身は、高次元が存在することは、実験で確認は出来たけれど、まだそれを使うところにまで行っていませんでしたからね。もしかしたら、あの惑星でそうした技術が得られるかもしれないですね。もとの宇宙を探し出せるかもしれない。このヘレナリアとか言う化けもののご協力が得られれば。」
「まあ、ビューナスは、ぼくにも一切秘密を打ち明けてくれなかったんだ。こやつは、女王の事を知っているから、その部下か傀儡か、そうしたものだろう。ならば協力するわけがないであろうにな。」
「まあ、ね、ですが。でも、やってみる以外に道がありそうですか?」
「いや・・・・思いつかないが。」
ふたりは、まだ、キッチンのことは聞いていなかった。
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キッチンは、到着していた。
そこは、明らかに火星である。
間違いようがない。
しかし、海もなく、呼吸ができる大気もなく、荒廃した姿を宇宙にさらしている火星だった。
「ありえない!」
通信らしきものは、全く聞こえて来ない。
呼び掛けても、なんの反応もない。
生命反応も、全く検出できない。
かつて飛び交っていた、多くの人工衛星の姿も、今は見ることができなかった。
「そんなことがあるのだろうか?」
キッチンは、わが目を疑った。
彼女の痕跡が、明らかにあった、と、データが教えてくれている。
それも、異常に強力な力で、キッチンと引き合ったのだ。
確認すればするほど、間違いはないと確信するだけだったのである。
「結局は、何の役にも立たない、くずの機械だった訳か。ばかだな、おれは。」
キッチンは、操縦席に座り込んでしまった。
彼のすべては終わったのだ。
それ以外の結論は、あり得なかった。
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「次元が高くなると、おたがいの距離が離れるほど、重力が急激に弱くなり、おそらく太陽系のような宇宙は成り立たないでしょう。まあ、自分は専門家じゃあないですから、受け売りですよ。」
情報局長が言った。
「われわれの常識ではない世界なんて、いくらでもあり得るんじゃないのかい? 大体、物理法則自体が違ってくるだろうに?」
「余剰次元がありうることは、さきほどのお話のように、実験では確かめらていましたが、実際の宇宙での観測は、できていませんでしたからね。女王が引き起こした現象はびっくりではありましたが、われわれにチャンスをくれたのです。新しい技術の開発は、今も進行しています。謎だった空間跳躍の秘密まで、もう一歩です。まあ、ここで役に立つかどうかは、分からないですがね。」
局長の部下が入ってきた。
「あの、局長、ちょっとお話したいことが起こっていまして。」
「ほう??なにかな?」
「あの、よろしければ・・・」
「ああ、ぼくならいいよ。後で教えてくれるかな?」
ブリアニデスが気を使って言った。
「ええ、じゃあ、ちょっと、失礼します。」
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「お入り!」
ママの声がした。
「ママ、ズルは、なしよね。」
ビュリアが念押しをした。
「余計なこと言うんじゃない。さあ、パル君お入りなさい。いいところだよ。遊園地に連れてったげる。」
「え? 遊園地なんてあるの?」
「そうだよ。なんでもある。映画館も、ゲームセンターもあるんだよ。ママと一緒に行こうね。」
「うわー、すごいね。でも、ビュリアも、ウナも一緒がいいな。」
「賢い子だね。まあ、それでもいいさね。さあ、どうぞ。まあ、あんたたちも、ゆっくり遊んで行きなさい。」
「ママ、そう時間がないの。2時間と言ったでしょう?」
「おやおや、やけに急ぐねぇ。せっかく古い親に会いに来たんだろう? まあ、あんたたちの魂胆は見えてるよ。」
3人は、ドアの奥の深い迷宮に進んで行った。
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