わたしの永遠の故郷をさがして 第三部 第一章 第四十八回
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ジャンプは成功している。
キッチンは、そう確信していた。
とはいえ、いったいどこに向かっているのかは、まったくわからない。
手掛かりは、のりちゃんと自分との物理的なつながりである。
この機械が、いつ、どこに最も強く引かれて着陸するのか、という事さえ、実のところは分からない。
設定では、もっとも強く引き合うところを、選択するという事にしている。
常識的には、かつての『今』に、ピントが合うはずなのだが、絶対にそうなると言う保証などは無い。
ついでに言えば、二度目のジャンプは非常に難しいだろう。
エネルギーは使い果たされてしまい、再使用するための原料が、おそらくは手に入らない。
こいつは金星の特殊な施設でないと作り出せない。
一回勝負で、再試合は無しだ。
到着までにどのくらい時間がかかるのかも、当然まったくわからない。
無茶な事をしたもんだ、と苦笑いが出る。
しかし、彼女がいない世界で、一体生きていられると思うのかい?
結論は、決まっていたのだ。
食料は、起きたままで10年分は確保しているし、上手く使えばその倍は持つだろう。
人口冬眠にしてしまえば、気をもむ場も無くなる。
だが、正直言って、人口冬眠は不安だ。
目標が見つからなければ、コンピューターはキッチンを起こさない。
これが、永遠の始まりかもしれない。
まあ、どうせいつかは永遠がやって来る。
始めたことは、終わらせなければならないのだ。
キッチンは、人口冬眠の準備に着手した。
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「これはまた、巨大な住宅街と言うか、『巣』と言うか・・・」
局長は目を見張った。
「我々は、空中都市に慣れてしまっていて、大地の上に家がある状態なんて、経験したことがないですからなあ。」
指令がつぶやいた。
ものすごい風景だった。
始まりの場所は解る。
ここだから。
そうして、おびただしい数の住宅が、遥かな彼方まで続いている。
果ては見えていない。
「500キロメートルにわたって、住宅が続いております。でも、永遠というものでは、ございません。」
「空中都市には及ばないわけか。」
「そうです。あなた方の空中都市の方が、よほど常識に反した、怪奇なものです。」
「そりゃどうも。しかし、これですが、ライフラインはちゃんと来てるのですか?」
「もちろん。すべて供給されます。費用は掛かりません。すべてのエネルギーは太陽から受け取っております。まあ、もっとも、あなた方のやり方次第ですが。富を生産したいのか、権力が欲しいのか、そうした基本的な考え方から、全てが変わります。もし、何もしたくなければ、このまま静かに平和に生きることが可能です。そのかわり、お金もなし、給料もなし。でも、スポーツや芸術活動は、ちゃんと出来ますよ。」
「災害は起こらないの?」
指令が尋ねた。
「起こりません。はっきり言いますが、自然現象も完全にコントロールされております。もっとも、人為的な災害は、別ですよ。強盗や殺人は、やろうと思えば可能ですが。もし、警察の様な機構が必要ならば、あなた方が作ったって、それは、ご自由です。ただし、もし、すべてをシステムに任せてくださるのならば、そうした行動は抑制されます。危害は加えません。のどかに行動を制限するだけです。もし、武力を維持したければ、そうしていただいて結構ですが、ここには、攻めて来る宇宙人もいません。あなたがたが、内紛を起こさない限り、通常の武力の必要はございません。まあ、実際、どこまで用意するのかは、全てお任せいたしますが。」
「すべてが、ここから始まる訳か。」
局長が、ややぼんやりと言った。
「そうです、あなたがたは、非常に高度な文明を持った状態から、始めるわけです。すべてを捨てて、やり直しが効きますし、取捨選択もさまざま、可能です。よく検討なさってください。」
「すべてが、与えられると言うのか??実験用のモルモットみたいに?」
師団長が、やや不服そうに言った。
「よいことではないですか。最高の再出発ですしょう。」
局長は非常に乗り気である。
「しかし、ですな、総統がなんとおっしゃるか、わからないですな。ここには、政府の建物とかあるのですかな?」
指令が尋ねた。
「あらら、ほら、さきほどご覧になった、あれですのよ。あの球体で、すべてが管理可能です。この惑星のどこにでも移動できます。住宅地は、惑星上に、あと三か所設置いたしました。あなた方すべての収容が可能ですが、住宅間の行き来ができる交通施設は、地下に作っております。すべての住宅地は自給自足が可能で、大きな荷物のやり取りが必要な場面は、あまりないでしょう。しかし、あなた方は空中都市という道具を持っておられます。問題はこの道具は、大きな汚染物質を生み出すことです。わたくしといたしましては、この先、空中都市の、あなたがたによる所有は、あまり認めたくありません。しかし、まあ、禁止する訳にも参りませんわ。空中都市が、まだ必要なのかどうか、しばらくご検討ください。そのために、空中都市の駐機場を宇宙空間に設けます。しかし、あまりに長期にわたると、宇宙が汚れますから、その使用期限は500年といたします。」
「500年?」
「はい。短いですか?」
「いやあ・・・なんとも。」
「まあ、状況を見ながら、また、お話し合い致しましょう。慌てる必要など、ございませんわ。念のため申し上げますが、わたくしにとって、空中都市をすべて消去することは、さして難しくはございません。しかし、そうした暴力は使用すべきではない事もわかっております。なので、基本的には皆さまに、お任せいたします。」
「ふうん・・・文句言う筋合いがあるとは、私には、思えないがね。」
局長が答えた。
「しかし、さきほど指令が申し上げたように、われわれには、階級がある。現状でそれは生きております。」
「そこは、理解できますわ。」
「どうも、なので、一度帰ってから、上層部と、相談はしたいと思います。」
「どうぞ、どうぞ。」
ヘレナリアは、ずいぶん楽しそうに、答えたのだった。
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