わたしの永遠の故郷をさがして 第三部 第一章 第四十七回
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「これは、なかなかけっこうなお味ですなあ。」
局長がうなった。
「うん、うまいうまい。なんでこんな場所で、こんなうまい金星料理が食べられるの?」
「しかも、火星の『空港食堂』ですぞ。」
「ありがとうございます。まあそれは、人類の優れたところというべきでございましょう。」
ヘレナリアが持ち上げた。
「ご主人や奥様、お嬢様の腕なのです。」
「たしかに。しかし、これまでにお客様はいたのですかな。」
「はい。わたくし。」
「ああ、なるほど・・・・」
「あのう、非常にこんなときに何ですが、お支払いの方式は?」
局長が尋ねた。
「今はまだ決まっておりません。それを決めるのはあなた方です。」
「はあ、仕入れとか、どうしているのですか?」
「まあ、ご主人から説明していただくのが良いでしょう。すみません!皆さん出て来てくださいな。」
奥の方に立っていた「のりちゃん」にヘレナリアが声を掛けた。
「はあい。お父さん、お母さん!」
その、「のりちゃん」が両親を呼んだ。
奥から、両親が現れた。
「仕入れとか、どうしているの。とお尋ねですよ。」
「それがですな、まだここには市場もないので、この機械で発注データを入れてやるんです、そうすると翌朝には、裏に届いていると、そういう感じです。」
「どなたが配達を?」
「さあ、でも勝手に来るようですなあ。」
「はあ・・・見たことない?」
「ええ、その瞬間は見てないです。」
「もう、いい加減な人なので。」
奥さんがぼやいた。
のりちゃんが、くすっと笑った。
「料金とかは?」
「いやあ、払ったことないですなあ。請求書も来ないしね。ね、ヘレナリア様。」
「はい。現状では、すべて私が負担しているとお考え下さい。」
「ふうん。この野菜とかどこで作ってるのですか?」
「この星ですわ。人手はかかりません。すべて自動です。あなたがたの空中都市みたいなものです。」
「はあ、そう言われると、まあ確かにそうかな。しかし、我々は原価計算もしているし、それなりの決算もする。」
「まあ、あなた方は沢山ですから。この星に住んでいるのは、いまのところ、このご家族とわたくしだけですから。しかし、これからはそうもゆかないでしょう。あなた方が移住して来られたら、それなりのシステムは必要でしょう。しかし、当分は今のやり方を繋げればよい。少しづつ構築すればよいのです。でも、ここは絶対のチャンスですよ。よく考えてやってください。」
「ふうん。大事になりますな。」
「ですわね。ただし、もしお望みならば、ここのシステムを活用してくださっても構いませんよ。技術者の方をやってくだされば、詳細をお伝えいたしましょう。全惑星の集中管理が可能ですから。」
「なるほど。え?そんなことが可能?」
「はい。」
「ふうん。食料の大量生産は?」
「すぐに可能です。ふつかもあれば。」
「まさか?」
「全然大丈夫です。気候管理は完璧ですし、飢饉などは発生いたしません。はっきり言えば、何が欲しいかを決めてくだされば、すべて自動的に生産されるので、労働者はごく少数しか必要ありません。まあ、居なくてもよいのですが。」
「どこに、そのようなシステムがあるのですか?」
「ああ、では呼びましょう。」
「はあ?」
「ちょっと、外に出てください。」
食堂にいた全員が、玄関前に出た。
すると、その薄青い空の上から、何かが、どんどんと、降りてくる。
「同じだ、円形の建物だ。」
「あれが集中管理塔です。」
ヘレナリアが言った。
「大きいなあ。」
「空港塔と、ほぼ同じ規模ですが、半分にも10分の1にもできます。」
「はあ?」
「大きさは、目安にすぎません。お好みの大きさになれます。」
「ふうん・・・わかりませんなあ。」
「やってみましょうか?」
ヘレナリアがそう言うと、その巨大な円形構造物はどんどん小さくなってゆき、そのままヘレナリアの手の上に降りてきた。
直系10センチメートル程度の玉だった。
「ほら。でも、持っている能力には何の変りもありません。これで、すべての食糧生産管理が可能です。」
「まさか?」
「ほんとです。でも、これじゃあ楽しくありませんから、今は空港内にもう少し大きくして置いておきましょう。」
ヘレナリアは、その玉を放り投げた。
玉は大きくなりながら飛んで行き、空港内に着地した。
「完全な真球ですよ。」
「だから、それはあり得ないだろうと・・・・」
指令が反発した。
「まあ、後で測ってみてください。また食堂の中に入りましょう。」
「はあ・・・・」
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「この太陽系は、広大な宇宙の中で孤独です。なぜこうした宇宙になったのかは、まさに偶然です。」
「生命は、生まれなかった?」
「そうです。こうした穏やかな環境ではなかった。」
「だれが、こうしたのですか?」
「わたくしです。」
「指示したのは、女王ですか?」
「あなた方の言う女王様かどうかはわかりませんが、女王さまであることは事実です。同じ方かどうかは、否定も肯定も出来ませんけれど。ただしまた、わたくしは、あなたがたの女王様から生まれたという確証もありません。」
「他の女王様がいるのかなあ。」
指令がぶつぶつ言っている。
「ふうん。まあ、そのあたりはまだこれからでしょうな。ところで、あの、『住宅』はどうなっているのですか?」
「それも大切ですね。では、見に行きましょう。」
ヘレナリアが立ち上がった。
のりちゃんが、そっと指令の脇に来て、聞きにくそうに言った。
「あの、わたし、キッチンさんという方を、探していますが、ご存知ですか?」
「キッチン? さあて、ぼくの管理内にはいないなあ。どんな人?」
「もともとは金星人の技術者さんなんですが、このところは、宇宙船乗りでした。あの、婚約していました。」
「おお、それは大変だ。わかりました、直ぐに探してみましょう。なに、すぐわかりますよ。大丈夫。お名前は?」
「ノリ・・・です。うれしいです、はい。」
「わかりました。ノリさん。」
「じゃあ、またあの箱にお乗りください。」
金星人とヘレナリアは、食堂から出て行った。
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「うわあ。本人に間違いなし。連絡付いたか?」
ダンクが急かした。
「だめ、返事なし。遅かったようね。」
「捕まえる方法ないのか?」
「ない。わからない。この宇宙にはいない。探しようがないもの。」
「こんな近くにいたんだぞ。あいつのセンサーが本物なら、とっくに、わかりそうなものを。」
「さあ・・・・本物じゃあないのでしょう? やはり。」
「・・・・・・」
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