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わたしの永遠の故郷をさがして 第三部 第一章 第四十六回

 

  ************   ************


 巨大な球の中は、おとぎの世界という感じだった。

「これは、球体の中なのか?」

「はあ・・・確かに入りましたが。」

 真っ平らな空間が延々と続いているのだ。

 大きなカウンターが設置されているし、さらに大きな待合所もある。

 様々な用途に対応できそうな、店舗用と考えられるスペースもたくさんある。

 なぜか、エスカレーターや、空中に浮かんでいるようなエレベーターもある。


 彼らが入ったときは、照明も、ほとんど落ちていたのか、かなり薄暗かった。

 しかし、すでに今は違った。

 明るい照明に照らされ、エスカレーターも今まさに、動き始めていた。

 しかし、もちろん、誰もいなかったのだが。


「このまま、すぐに使えそうですね。」

 指令が感心したように言った。

「ふうん。用意のよいことだ。でも、なんだか、少し『へん』な感じだなあ。ちょっと上がってみようか。」

 科学局長は、エスカレーターに向かってさっさと歩いて行く。

「あ、あ、あ、待ってください。試しに誰か上がらせましょう。」

「ばーか。お毒見なんか要らないよ。」

「いや、そう言う意味じゃあないですけどね。何かあったら困るのは、僕らですから。」

 ぶつぶつ言いながら、指令も後をついて行った。

「いやあ、快適快適。揺れなし、ブレなし、良い感じだねぇ。何で動いてるんだろう。」

「そりゃあ、電気でしょう。」

「そうかな。じゃあ発電しなくちゃ。でも、この玉は・・・・あららら。」

「どうしましたか?」

「おいおい、ほら、逆さまになってる。」

「おわー。なんだこれは。」

 階下に残されていた部下たちが、逆さまに見えている。

「でも、落っこちないんですなあ。」

「ふうん・・・。びっくし。ああ、着いたよ。」



 別におかしくない。

 普通のフロアーが広がっている。

 食堂にでも使えというつもりなのか、割と広めの部屋が区画されている。


「いらっしゃいませ。いかがですか?ここは。」


 突然、女性が一人目の前に現れた。


 指令が反射的に長官の前に回った。


「ここは、ご覧の様に、宇宙空港ですが、どのようにお使いになるのかは、皆さまがたのご自由です。」

「あなたは、どなたですかな?」

 小さな局長が、指令の後ろ側から尋ねた。


「わたくし、ヘレナリア、と申します。」

「ヘレナリアさん・・・女王へレナと関係があるのかね。」

 その女性は、にこっと笑うと、姿がふっと変わっていった。

「おお、火星の女王様では・・・・」

 局長が、かなり緊張気味に言った。


「まあ、これらはすべて、仮の姿です。わたくしには決まった姿がございませんから。」

「不定形生物・・・・」

「生物かどうかも、はっきりは致しませんが、まあ、疑似生物とか、そんな感じでしょうか。」

「アンドロイドとか?」

「それも、おらくは違います。」

「じゃあ、映像?」

「それも、たぶん違います。ほら、握手も出来ますわ。」

 ヘレナリアは手を差し出した。

「本当だ。あったかい。生きてるよ。」

「どうも。まあ、それはともかくとして、ここがあなた方の窓口となる場所です。まだ沢山の方がいらっしゃるのでしょう?」

「まあ、そうですなあ。総統が決断すれば、ですが。」

「なるほど。では、ちょっとまず、空港周辺の見学をなさいます? 報告するように、言われていますのでしょう?」

「いや、まあ、そうですが。何で解るのかな?」


「まあ、空港の立地を確認するのは良い事です。一応、多くの方が暮らせるような施設は、整備いたしました。あとで詳しくご覧に入れましょう。まあ、まずはぐるっと空港の周囲を回ってみませんか?」

「おお、それは、是非。」

「では、参りましょう。」

 ヘレナリアがちょっと手招きすると、5人乗りくらいの、空中に浮かぶカーゴがやって来た。

「さあ、どうぞ。」

 局長と、指令、それに師団参謀長と副参謀長が乗り込んだ。


 ヘレナリアが一番前に座ると、その乗り物は、ふあーっと、素早くフロアの中を、まっすぐに飛んで行ったのである。



 **********   **********



 確か、円形構造物の上層部にいたはずなのに、なぜか真っすぐに進んだ結果、もう地上に出てしまった。

 薄青い空が、なんだかとても眩しかった。


「あららあ、おかしなことですなあ。」

 指令が言った。

「ねえ、ヘレナリアさん、これはどういう仕組みですか?」

「別に、変わった事ではありません。あなた方の感覚がそのように感じているだけです。」

「はあ、そう言われましてもねぇ。」

「あくまで、どう見えるか、どう感じるかは、あなたがたの感覚器官の都合です。我々は、それに環境を合わせているだけですから。さて、もう空港の外縁部です。ここにはお土産屋さんや、食堂が並びます。もっともまだ開いているのは、サンプル用の『空港食堂』だけですの。実際に、あなたがたの、元の世界の火星にあった施設を、そのまま再現いたしました。お店の中の方も、そのまま再現いたしました。なので、基本的に本人さんたちですのよ。」

「はあ、それは、まあ、結構な事ですなあ。」

 局長が感心したように言った。


  ***   ***   ***



 この様子は、当然ながら宇宙艦『ウジャヤラ・ダニロ』にも中継されていた。

 そうして、そこから、空中都市『ワン』にも・・・。

 さらに、そのほかの「空中都市群」にもだった。


 ナナとダンクは、ダルタブル司令官と共に、この映像を見ていたのである。


 地上部隊からは、空港周辺の、空っぽの店の様子が送られて来ていた。

 しかし、火星首都の宇宙空港の様子をよく知っているナナとダンクは、画面に釘付けとなった。


「なんだ、これは、火星の空港の前側そのものじゃないか。

「え、そうね、なら、『空港食堂』もある?」

「ああ、きっとあるぞ。まてよ、もう少し先だ・・・ほら、ほら・・・ここだ! あるじゃないか、ちゃんと。」

「本当だ。でも、きっと入れ物だけよね。」

「うん。それはそうだろう、あらら、食堂に入って行きそうだよな。」

「あ、降りた。本当だわ。食堂に入ってゆく・・・・」



『いらっしゃいませ~』

 若い女性の声がした。

 そこにいたのは、歳の頃20歳過ぎくらいの、いかにも可愛らしい娘さんだった。

「あらあ、ヘレナリア様! おとうさん大変。ヘレナリア様よ!」

「はあ、なんだよ、大きな声上げて・・・あららあ、これはこれは!」

 厨房から出てきたのは、彼女の父親らしい。

 さらに、奥さんもタオルで手を拭きながら現れたのである。


    *****   *****


「うそだろう・・・のりちゃんじゃないか!」

「大変だわ。うわ、これはどうしましょう。キッチンは?キッチンは?」

「えらいこっちゃ。すぐ連絡だ。すぐにだ!止めろ!」

「了解!」



   *****   *****



 キッチンは、交響詩譚を二回通り聞いた。

「よし!」

 彼は決心した。

「飛ぶ! もう未練はない。のりちゃん待ってろ!」


 その、瞬間、通信が来ていた。

 それと同時に・・・いや、おそらく、一瞬だけ早く、彼はスイッチレバーを引いた。


 宇宙艇は、消滅した。


   ************   ************






 









































































 

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