わたしの永遠の故郷をさがして 第三部 第一章 第四十三回
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「さて、そこでパル君、相談なんだけどもね。」
いよいよ、ビュリアは本題に移行しようとした。
「ウナさんも、マヤコさんも、かなり深刻に心配していらっしゃることはわかっております。」
ウナが肯いた。マヤコも、さらに大きく何回も肯いたのである。
「でも、パル君の身の安全は、わたくしが保証いたします。パル君には、わたくしが同行します。」
「え?ビュリアさん自身が?」
マヤコがびっくりした。
「はい。そういたします。『ママ』は、ああやってどこにでも顔を出すことができるように見えますが、あれは一種の幻影に過ぎません。つまり、現在の『ママ』には、肉体はありません。その本体は、特殊な『場』に漂うエネルギーなのですが、そこに封印されていますから、その外に出ることは出来ないのです。「そこ」というのは、非常に狭い『場』なのですが、無限の広がりを演出できます。ママは、宇宙旅行もピクニックも、演奏会に行くことも、海水浴も、豪華なディナーも、デートも、まあ、主観的には何でも可能です。そこに入り込む人にとっても、そうですが。また、あのように、外部と通信は可能です。」
「アブラシオの中みたいだね。」
パル君が言った。
「そう。その通りですわ。全く同じなのです。でも、あくまで幻影の世界です。そう認識するだけ。まあ、でも『ママ』は、ああやってミサイルを撃ったりとか、金星上のさまざまな事象のコントロールとかが可能だったわけですが、そうした個々の危険行為は、とりあえず、もうできないようにいたしました。ただし、『ママ』がその気になれば、何かの策を講じて、現実世界に対して、まだ相当の悪さが出来る可能性は高いのです。これは、女王さまが最初に『ママ』の設定をしてしまったときに、こうした事態までは予測していなかったせいです。『ママ』の能力が、まだどこまであるのか、現場に入ってもっとよくチェックしなければならないのですが、そのためには『ママ』自身の協力が必要になります。もちろん、外から『ママ』のすべてを強制的に『解除』することは可能ですが、それでは『ママ』が消滅します。それは、わたくしとしては、なんとか避けたいのです。また、地球の未来が消滅させられるのも、同様に避けたいのです。そこんところをうまく収めてしまわなければなりません。だからこそ、一緒に行かせていただきます。パル君は、特に何かをしなくてはならないという事は、まったくありません。ごく普通に、パル君が思う様にしていればよいのです。なんとか、『ママ』と居られる時間をたくさん確保してほしいのです。そうして、診察時間をね。」
「危険は、あるのですね?」
ウナが確認した。
「はい。あります。しかし、わたくしが保護している以上は、『ママ』はパル君に危害を加えることは不可能です。」
「あなたが予測できない事態が起こる可能性もありますか?」
マヤコが尋ねた。
「はい、あります。非常に少なくて、『ほぼ、ない』と言ってよいくらいですが、そこも宇宙の中であることは確かですから、外部から、ほぼ、すぐには起こりえないような、大きな衝撃が発生したりしたら、絶対ないとはいえません。」
「例えば、どんな場合ですか?」
「そうですわね、太陽が突然爆発したとか、すぐ近くで超新星爆発が起こったとか、ブラックホールが突然襲ってきたとか、そういう場合とか、ですね。」
「それは、きっと、ほぼ、ないですね。そうなったら、みんな、お終いだし。」
マヤコが、ゆっくりと、ソファーの後ろ側に座り直しながら言った。
「ぼくは、行くよ。そう決めたんだから。」
「あの、パル君の行動で、地球や金星や火星の将来が変わるとか、あり得るのですか?」
ウナが、小さな声で、控えめに尋ねた。
「そうですね。それは、あり得ます。大いに。だって、そのために、パル君に行ってほしいのですもの。良い方に変えてほしいんです。『ママ』が、狂気の選択には、走らないようにしたいのですもの。」
「うん。ぼく頑張る。」
パル君はきっぱりと言い切った。
しかし、なぜかウナは、胸騒ぎが止まらなかったのだ。
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「でも、いったいどうやって、『ママ』に会いに行くのですか?」
ウナが、当然のことを尋ねた。
「ああ、それはもう、まずは簡単です。ここで会います。ただし、もし『ママ』が気に入れば、金星の『ママ』がいる『場』の中に招待してくれるでしょう。『ママ』は必ずやパル君一人を連れて行こうとします。しかし、それはわたくしが許しません。ちょっとした、駆け引きがあるかもしれませんが、そこは任せておいて下さい。『ママ』はあれで結構涙もろいのですわ。そこんとこ、よろしくね。」
「この現場は見られていないのですか?」
「いまのところは、ママには見えないように、細工しておりますのよ。まあ、すぐ感ずくでしょうけれども、それは後の事ですから。気にしないでください。じゃあ、皆さんここにいて下さい。パル君、始めていいかな?」
「おお、直ぐに始まるとは、思っていなかったなあ。ウナ大丈夫?」
マヤコが、直立不動のウナに尋ねた。
「大丈夫だよ、ウナ。ほら手を握ってあげよう。」
パル君が殊勝にも、母の右手をぐっと握りしめた。
「はい。なんとか。」
「よしよし、休憩時間は2時間だから、まあなんとかなるわね。いいですか?じゃあ『ママ』を呼びます。」
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「ビュリアはどこに行ったの。」
ダレルがリリカを捕まえて尋ねていた。
「さあ・・・食事じゃない?」
「部屋にもいないし、通信機は切れてる。いやな予感がする。なにか良からぬことを企んでるんじゃないかなあ。」
「どんな、良からぬこと?」
「さああ、わからないけれど、『ママ』と密会してたりするんじゃないだろうか? ビュリアが『ママ』の犯罪の共犯者だと認定されたらば、ビュリアはそのまま、収監されるかもしれないが、素直に従うとは思えないよ。『ママ』と共謀するかもしれないよ。」
「じゃあ、早く拘束したらよかったんじゃないの?」
「だから。そのつもりだったのに、さすがに先読みされたんだ。」
「まあ、どうやっても、ビュリさんには敵わないでしょう。だから気にしなくていい。時間が来たら出てくるわよ。きっとね。」
「その時が、心配だよな。」
「ダレルさんは、もっと策士かと思ったけどな。このところ委縮してないですか?」
「委縮。まさか・・・」
「なら、いいけど。まあ、私、アリーシャとごはんするから。じゃあ、またあとでね。」
リリカは、あっさりと、いなくなった。
「まあ、やはりそう言うでしょうね。」
ソーがささやいた。
「ふうん。リリカがビュリアと共謀関係という感じはしないしなあ。」
「そうですね。」
「しかし、ブルさんでもなく、二人のリリカでもなく、女将さんでもなく、ニコくんでもなく、じゃあ他に誰が、転覆を狙ってるっていうんだろう。ババヌッキさんは政治に興味がないし。やはり、ガセねただろう。いちいち、全部の通報を疑っていたらきりがないぜ。」
「そうなんですが、気にはなります。今、あそこに通報を入れるなんて、素人には出来ないし、『太陽系大帝国』の計画というのは、これもまた、ちょっと出来すぎですが、話としては無謀じゃない。特に今ならば。一挙に権力を狙うには、いい時期ですからね。」
「うん。その『白馬の鬼神』というのが誰なのかは、気にはなるよね。あとは、まず議長かな?」
「ええ。まあ、食事にしましょうか。」
「ああ。そうだな。」
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