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わたしの永遠の故郷をさがして 第三部 第一章 第四十一回


「政府から回答です。『貴官が選定した乗員が、まず上陸することとしてよろしい。その星の応対者との会合も許可する。ただし、逐次報告する事。以上   ・・・ なお、以下は追伸です。ブリアニデス総統が、祝福の言葉を伝えてほしいとのことであります。また、空港の周囲に、適当な食事ができる、よい場所などあるのか調べてほしいとのことであります。』

「なんだそりゃあ。」

 局長がぼやいた。

「金星政府の昔からの良いところは、格式ばらないで、ざっくばらんにやるところだけれど、これはまた随分世俗的なご希望ですな。」

「でも、一番大切でもありますよ。大事なお客様が来るときには、担当者は、相手のお好みの食事やその場所を選ぶのが普通でしょうし。」

「なら、まずは、相手が教えてくれるべきですねえ。」

「まあね。じゃあ着陸します。」



 『ウジャヤラ・ダニロ』は、その宇宙空港に、無事着陸した。

「着きましたよ。ちゃんとね。」

 マズルカ指令が局長に報告した。

「よっしゃ。よっしゃ。上陸要員準備してください。腹減ったな。」

「言わないで下さいね。いきなり相手に。そんなこと。」

「はいはい。」


『リムジンバスト思ワレル乗リ物ガ接近チュウ。』

 コンピューターが久しぶりにしゃべった。

「ほら、これです。いやあ、ごく普通ですな。明らかに人間様用です。椅子見えてます。」

 マズルカ指令が言った。

「ふうん。実を言うと、気にしてたんですよ。こんな他所の宇宙で、我々と似たような生物がいるのか?とね。」

「いるわけがないと?」

「そうだなあ。火星人も金星人も、ブリューリ以外の太陽系外生物に出会ったことはなかった。断言できることは何もないですけれどねえ。」

「女王は?」

「うん。そうだね、そこはなぜか、ずっと謎のままだねえ。」

「ここで、意外と回答があるのかも。」

「ふうん。期待したいところですねえ。じゃあ行きますかねえ。」


 上陸要員たちは、昇降カプセル内に入った。


 **********   **********


 キッチンは、いよいよ長年準備したシステムを稼働させようとしていた。

 それほど大きなものではない。

 ここまで小さくするのには、ずいぶん苦労したものだ。

 まあ大体、背中に背負って山道を歩ける程度のものだ。

 

 本来彼は、技術系出身である。

 『天才』なんて言われた時期もあった。

 それが、現場に出ずっぱりになったのには、それなりに事情というものがあった。


 人間が、キャリア崩壊する原因には、いくつかの類型がある。

 お酒か、男女関係か、お金か、病気か、それともそれぞれの階級での、リーダーへのやむおえざる反逆か・・・

 

 宇宙艇に接続するのは、そう難しいものではない。

 そのように作ったのだから。

 実を言えば、あのダレルさんが似たようなものを作っていたのだが、あちらのほうは、まだどこに行くのやらわからない代物だった。それでも一回だけ、実際に使ったようだったけれども。

 リリカさんも、別方向から、かなりとてつもないものを作っていたらしいが、キッチンは、それがどんな働きをしたのかは、まだ知らなかった。


 とはいえ、キッチンが作った装置が、本当にピンポイントで別の宇宙に到達できる保証はない。

 移動のかぎが「重力」にあることは確かなのだけれど、彼が狙っているのは、あくまで『個人』なのだ。

 『のりちゃんがいる場所。』

 それが、目標地点だった。

 彼女が発する、ごく微妙な信号を目標に、宇宙空間をジャンプする。

 一秒間に、何十万個もの宇宙を。

 片方では、彼が発する、これまたごくごく微妙な信号を、システムが感知している。

 あとは、歌の文句のように、その愛のきずなの強さが、双方を引き寄せる。

 そのはず、だった。

 妄想のようなものだけれど、絆の強い二人の間では、微かな引っ張り合いが起きるはずである。

 したがって、片思いではまったく役に立たない。

 まあ、インチキ商品に類するものだと言われれば、それでもよい。


 それなりの実験は行った。

 データも膨大な数だけ、集めた。 

 後はやってみるだけ。

 原動力は、宇宙そのもの。

 失敗だったら、最初の瞬間、彼は崩壊して消える。

 それだけのことだ。


 **********   **********


 リムジンバスは、ほとんど音も振動もなく発車した。


「乗員の方は、全員そろいましたか?」

 バスが聞いてきた。

「オーケー」

 マズルカ司令が答えた。


 それで、その大きなバスは動き始めたのである。


 空港は、上から見るよりも、はるかに広い。

 大分彼方に、大きな、まん丸い建物らしきものが見えている。

「あれが、空港センターって感じかな。」

 局長が、ちょっとだけ、ささやくように言った。

「そうでしょうなあ。やけに、丸いですなあ。」

「うん。転がりそうだ。」

「それにしても、何も、いませんね。」

 指令が逆に少し、ささやくように言った。

「人っ子一人、見えないねえ。宇宙船も飛行機も。何にもない。静かだなあ。」

「そりゃあ、でもきっと、我々が、まったく初めての住人だからなんじゃないですか?」

「おお、なるほど! 納得。」

 

 バスはゆっくりと、その円形の施設に向かっていった。



 **********   **********


「さてと、これで準備完了と。あとは、スイッチを押すだけだな。」

 キッチンは、納得して、自分に向かって言った。

 けれども、すぐには実行しなかった。

「一曲、聞いてからだな。」

 彼は、大好きな音楽を、コックピット内に流した。


 『金星芸術音楽界』のナンバーワンと謳われた、大作曲家『ベシリウス』の『音響詩譚第三番』である。

 火星標準時間で約30分かかる、この作曲家の最高傑作である。

「火星人どもは、大方、理解不能だったらしい。嘆かわしい事だ。ただし、のりちゃんだけは、違ったんだ。」

 火星の、やや貧相な(とはいえ、本人たちにはそれはそれで良かったのである。あくまでキッチンの感想にすぎない。)音楽とは異質の、(遥かのちの、地球の音楽にも通じるような)豊かで、しかも神秘的な響きが、ここには聞こえる。

 

 それにしても、音楽には、思い出がつきまとうものである。


 良いものも。良くないものも。



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