わたしの永遠の故郷をさがして 第三部 第一章 第四十回
「誘導波が出ています。このまま付いて行って見ましょう。問題なく着陸できそうですね。」
マズルカ指令がひとりで肯きながら言った。
「ううん。これは広いなあ。火星の宇宙空港よりも一回り大きいぞ。」
局長は感心している様子だ。
「土地が安いんでしょうな。」
「そういうものかなあ?とはいえ、他に宇宙船なんか全然イナイよ。我々が独占だね。」
「それも、おかしな話しですよねえ。これほどの設備があって。しかもさっきのご挨拶以外には、まったく通信がない。これもまたおかしなことですな。」
「呼びかけて見給え。」
「了解。『ああー、こちら金星艦『ウジャヤラ・ダニロ』。本艦は間もなく着陸いたします。ご指示をどうぞ」
二人は顔を見合わせながら、回答を待った。
ずいぶん間が開いてから、回答があった!
『間もなく着陸、確認いたしました。『どうぞ』。なお、到着後、まず代表の方の上陸を許可します。人数は10名とします。リムジンバスを差し向けますので、お乗りください。今後の移住についての本惑星の受け入れ体制についてご説明いたします。またあなた方のご希望もお伺いしたい。ただし、こちらといたしましては、特にむつかしい要望事項はありません。基本的には、あなた方のお好きなようにやればよいのです。わたくしからのお願いは、『奇麗に使ってください』、ということと、『戦争は一切禁止』ということだけです。ここは、あなた方皆様のお家なのです。なお、宇宙空間内の『空中都市』の存在は確認済みです。あなた方のリーダーが、まだおいでになっていないことも承知しておりますのでご心配なく。全乗員の方を受け入れるだけのスペース及びインフラは完全に整っております。本惑星には、わたくし以外のスタッフはおりません。すべて自動的にコントロールされております。では、ゆっくりと、どうぞ。間もなくお目にかかれることを、楽しみにいたしております。』
「ふうん。なんとも理想的な話だなあ。うますぎませんか?」
「うますぎるのは、まずいかな。」
局長が、分かってはいるのだろうが、意地悪く言った。
「うますぎるものには、体に良くない物質が混ざっているものですよ。」
「まあ、例外があってもいいさ。10名はすぐ決まりますか?」
「ええ、僕とあなた、あと8名、すぐ指名して決めます。誰か必ず入れたい人は?」
「そりゃあ、ブリアニデスさんだろうに。ここに居なくてどうするの?」
「まあ、そうですけど。最初は来ないでしょう。トップの人は。ビューナス様ならやりかねないけど。」
「しかし、もう周回軌道くらいには来てるだろう。ジャンプしたんだろうから。」
「まあ、尋ねてみましょう。でも、やはり始めは来ないですよ、きっとね。すっごく慎重になってますから。」
「まあね。でも、今は、『ここ一番』だからなあ。第一歩は、ブリさんでなきゃあ。」
「そりゃあ、やはり、大将は後から来るものですよ。まずは小物たちが、きちんとおぜん立てするのが常道です。」
「まあ、そうだなあ。」
「そうですよ。」
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ウナとマヤコ、それに女将さんがいる部屋に、パル君と番頭さんが入ってきた。
「じゃあな、頑張れよ。」
番頭さんはそう言うと、部屋から出て行ってしまった。
「いらっしゃい、パル君。どうぞお座りくださいまし。」
女将さんが、出来る限り優しく言った。
「おじゃまします。」
パル君はそう言って、いくらなんでも、まだ彼には大きすぎるソファーに座った。
すぐとなりにウナ。
向かい側にマヤコと女将さんという態勢である。
「あのね、パル君、とても大切なお話があるの。」
女将さんが切り出した。
「『ママ』のことでしょう?会わせてもらえるのかな?」
「え?!」
パル君は、話の先回りが得意である。
ただし、この場合、多少、勘違いしてもいたのだが。
「ぼくね、ウナに提案したんだ。『ママ』に会って、慰めてあげようよって、ね。さすがウナだね、もうここまで話が進んじゃったんだ。さすがは僕が決めたママのことはあるね!」
「あ・・・パル君・・・・あ・・の・・・」
ウナは言い淀んだ。
「うん。そうなんだ。」
女将さんは、ウナの様子を眺めながら、あっさりと認めた。
「実はね、ビュリアちゃんからもね、パル君に『ママ』に会ってほしいと言って来たんだよ。パル君を見込んでなんだけど。」
「あ・あ・あ・・・」
マヤコが体ごと乗り出してきた。
「うん、いいよ。お互いにぴったり意見が合った訳だね。」
「そう。そういえば、そうだな。でもね・・・」
女将さんは続けた。
「これはね、パル君が考えているよりも、ずっと難しいお仕事になるかもしれない。ウナさんも、マヤコさんも、そこをとても心配しているんですよ。もしかしたら、パル君の身に危険が及ぶのではないかと考えてね。あたしも、そう思うんだ。『ママ』は、おそらく年を取ったための病気になってるんだろうと思う。」
「認知症とか?」
「うん。そうなんですよ。でも、それだけじゃあないかもしれない。」
「ビュリアさんは、どう言ってるのかな? ぼくの安全性について。」
三人は顔を見合わせた。
「ああ、パル君の安全は保障すると言っています。」
「じゃあ、大丈夫でしょう。ビュリアさんは魔法使いでしょう。それもかなり信頼性が高いよ。ぼくは、ビュリアさんについても、いろいろと、調べた事があるんだ。データが少なくて、苦労したけどね。でも、ビュリアさんが持つ魔力は超一級だとみた。魔力と言っても、物理的な力と、その、たぶん裏返しなんだ。きっとね。」
「ふうん・・・。あたしにゃあ、よくわかんないけど。まあ、それは、ビュリアちゃんが喜ぶだろうけど・・・」
女将さんが続けられなくなったところで、ウナが話しかけた。
「ねえ、パル君。ウナは心配なんですよ。せっかくパル君と会えたのに、もしものことが起こったら、ウナはもう、どうしていいのかわからなくなると思ったから。でも、パル君は『ママ』に会いたいの?とっても危なくても?」
「そうだなあ、僕は『ママ』が危ないかどうか決められない。会ってみないとね。でも、助けてあげたいんだ。苦しいんだったら、ほんの少しでもね。」
「どうやって?」
「ううん・・・そこはいろいろと。お話したり。お歌を歌ったり。お歩散したり、一緒にお菓子食べたり、いろいろあるよ。きっとね。」
「ふうん・・・・。もう、そう決めたのね。」
「うん。ぼくは決めてる。でも、ウナがどうしても駄目というなら、やらないけど。」
「うな・・・・。」
マヤコが何か言いたそうだった。
それは、ウナにはよくわかっていた。マヤコは、あくまで、やめとけと言うのである。
「そうか。うん、パル君。パル君がやりたいと思うようにやってみなさい。」
「え?ほんとうに、いいの?ウナ。」
「ええ、やるならやるで、自信を持ってやりなさい。」
「あ。あ。あ。あ。あ。あ。あ~あ。」
マヤコが、『仕方ないなあ、もう』という感じでうつむいた。
「わかりました。では、ビュリアんちゃんに来てもらいます。そこで、最終的にパル君の意思を確認して、あとはビュリアちゃんに任せます。一体どうやって『ママ』と会うんだか、見当つかないし。」
女将さんが、そう言った。
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